発生日時:1942年10月5日
発生場所:パルデア地方・ラビエスシティ
関与ポケモン:ドンファン(1体・野生)
【未解決】蹂躙された街
かつてパルデア地方の内陸部に存在していた《ラビエスシティ》は豊かな赤土と鉱物資源に恵まれ、石造りの家屋と煉瓦造りの市庁舎が整然と並ぶ中規模都市だった。
商業と農業が共に栄え山間部からの鉱石や木材を搬入する拠点としても賑わっていたが、その名は《とある大災害》を境に地図から消えることとなった。
事件の数日前である9月末頃、ラビエス市内とその周辺地域で断続的に小さな地震が観測されていた。
揺れは長くても数秒、井戸の水面が小さく揺らぐ程度で、当初は大きな不安を抱く者はいなかったという。
しかし、山間部の農民や旅商人の間で北の山並みに見慣れない隆起が現れたという証言が複数の方向から寄せられ、日ごとにその存在感が増していると語られていた。
遠目には新たな地滑りか堆積土砂のように見えたが、その輪郭は妙に滑らかで見る者に不自然さと不気味さを抱かせたという。
10月3日深夜、断続的な地鳴りに妙に慣れ始めた住民達を一際強い地震が襲い、街全体の家屋が激しく揺れた。
さらに驚くべき事にその揺れの直後、あの《新しい山》が忽然と姿を消していることに人々が気づき、住民に動揺が広まっていった。
そして迎えた10月5日の朝、再び地面が激しく震え始めた。
当初は今まで通りの小さな揺れだったがその揺れは何時間にも及び、午前を過ぎる頃から徐々に強まり石造りの建物が不吉な軋みを上げはじめた。
人々は広場や路地に飛び出し、互いの無事を確かめ合ったがそれでも尚揺れは収まらず、昼近くになると最初の倒壊が始まったという。
古い商館の壁が崩れ落ち、巻き込まれた者の悲鳴が土煙にかき消された。
その時点で既に死傷者が多数発生したが依然揺れは収まる事がなかったため街全体は混乱と恐怖に包まれた。
煙と粉塵が市街地を覆い尽くす中、北の丘陵を背景にまるで山の一部が動き出したかのような巨大な影が立ち上がった。
それは《ドンファン》に酷似していたが、その大きさは既知の個体の数百倍にも及んだと証言されている。
巨体は赤土をまとい、皮膚は宝石のように輝いており、鼻息は熱を帯びながら地表を這うような低音が空気を震わせた。
やがてその巨影は街を見下ろす位置に立ち止まり、長く低い嘶きを放ったという。
耳をつんざくような轟音が山肌に反響し、避難途中の人々はその場に立ちすくんだ。
次の瞬間、ドンファンは前足を高く上げ、地面を一度だけ強く踏みしめた。
その衝撃は雷鳴に似た爆音を伴い地面に巨大な亀裂が走り、巨大な地割れが発生し街のありとあらゆる建物が崩壊していき、それと同時に市街の大部分は人を巻き込みながら谷底へと落下していった。
亀裂の終端からは熱気を帯びた土煙が噴き上がり視界がほとんど失われると巨影はその混濁の中で再び嘶き、その後音もなく霧のように姿を消していたという。
以上が奇跡的に生き延びた人々が遺した証言である。
彼らは近隣の町に移り住み、恐怖の記憶を家族や隣人に語り継ぎ、その口伝は世代を超えて残り今も語られる。
なお、公式記録ではこの日をもってラビエスシティは行政区画から抹消され地図にもその名は記されなくなった。
現在、かつて街があった場所は切り立った崖と深い谷に覆われており、街の輪郭や通りの形跡は一切残っていない。
地質調査によっても人工物の痕跡は崩落した岩層のさらに奥深くに埋もれており発掘は不可能とされている。
あの日、なぜ巨大なドンファンがこの街を襲ったのかその理由は今も不明であり、それと同規模の個体が再び目撃された事例は一度もない。
残されたのは赤土と谷、そして生き延びた者の声だけである。

――文・【エステバン・ロサス】(パルデア歴史災害調査局)
【管理人の考察】
ドンファンの正体
目撃された存在が本当にドンファンであったのかについては疑問が残る。
姿形こそ酷似していたがその大きさは既知の個体の数百倍という証言から、通常の生態や成長限界からは大きく逸脱しているのではないだろうか。
外見の類似は進化や突然変異、あるいは別種の大型ポケモンが偶然似た外見を持っていた可能性も排除できない。
形態の一致だけでドンファンと断定するには証拠が乏しすぎると言えるが、それを確認する術は残されていない。
断続的な地震と《新しい山》
事件前から続いていた小規模な揺れは巨体の移動による地響きだった可能性が極めて高い。
もし《新しい山》が巨大ドンファンそのものであれば山肌に身を埋めて長時間静止していたことになるが、その間なぜ動かなかったのかという疑問が残る。
また、この隆起が別の存在や地質的変動であった場合、そこに《ドンファン以外の何らかの巨大な存在》が関与していた可能性もあるのではないだろうか。
つまりこの大災害は単一のポケモンが原因ではなく複数の要素が重なっていたと考える余地もある。
襲撃の目的
街を崩壊させた行動が意図的な攻撃だったのか、それとも別の行動の結果にすぎなかったのかは判断が難しい。
街を見下ろし嘶きを上げた後に足を振り下ろす動作は明確な攻撃の意思を感じさせるが、その目的が《街の破壊》そのものだったとは断定できない。
縄張り防衛や何らかの資源確保、あるいは《別のナニカ》が地中に潜んでおりそれに向けた攻撃であった可能性も否定できない。
崩壊後の消滅
街の崩壊後にドンファンが嘶き、その直後に音も揺れも伴わず消え去ったという証言は不自然さを伴う。
仮にこれまでの地震がドンファンの歩行によるものであれば、退去の際にも同様の揺れや轟音が伴うはずである。
だがそれがなかったという事実から異次元へ姿を消したか、あるいは《誰かが所有するポケモン》としてモンスターボールに収められた可能性すら示唆しているのではないだろうか。
報復説と行動の間
もし破壊の動機が街への報復であったなら、なぜ《新しい山》としてしばらく留まり、すぐに襲撃を行わなかったのかが大きな疑問となる。
過去に街の住民がドンファン、もしくはその群れや家族等に対して何らかの害を加えた場合、報復という可能性も考えられるがそれであれば最初から真っすぐ向かってきたのではないだろうか。
長期間の静止と突発的な襲撃の間に何があったのかは不明であり、計画的行動だったのか偶発的だったのかの判別は依然として困難である。
この事件の全貌は証言と地形の変化以外の物的証拠がほとんど失われているため解明の糸口は限られている。
それでもあの日の巨影は今も口伝の中で生き続け、パルデアの深層に潜む未知の脅威を示唆し続けているのではないだろうか。
構事件録
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