【解決済】陽だまりの花飾り

発生日時:2018年4月
発生場所:カロス地方・リュセルヌシティ
関与ポケモン:ハネッコ(複数・野生)


【解決済】陽だまりの花飾り

2018年4月のある朝、《リュセルヌシティ》旧市庁舎の中庭に据えられた石造りの日時計へ《様々な色の花》を持った野生の《ハネッコ》が気流の筋を正確に読み取りながら一定の間隔を保って旋回し、風が緩む刹那にだけ花片を放して放射状の刻線や指針の根元へそっと載せていく現象が目撃された。

最初の目撃者である庁舎の用務員は当初はそのまま掃除したものの、同様の現象が数日連続して発生すると足元に散らばる花を乱さないよう配慮しつつ市の職員へ連絡を入れ、その後自然保護局の職員とポケモンレンジャーに対処の要請が実施された。
彼らが到着した時にも庁舎回廊のアーチが作る多方向の風と朝に温まった石壁から生じる弱い上昇気流にハネッコ達が漂っており、落とされた花がひらひらと渦巻きながらゆっくりと成長して伸びていき、それが絡まっていくことで徐々に花飾りのように固まっていることが確認された。
観察しているとハネッコ達は時折発生する突風で散り散りになるもまたすぐに集まり、所持している花に力を注ぎ淡く光らせるとまた日時計にそれを落としていった。
これらの行動は既存のハネッコでは確認されておらず、採餌や営巣と関係ない行動であったため排除するのではなくより深く調査することが提唱されこれを市が受け入れる事となった。

その後の調査では花の明確な品種及び群生地の同定、回廊付近の風速及びパターンの計測、日射角と影の移動、石灰質の風化度合いの測定等様々な面で進められていった。
その過程で花は全て近隣の教会通りの花店で切り落とされたラベンダーカレンデュラスミレアネモネ等であり、開庁前に天窓を三分の一だけ開く運用により上昇気流の筋を強めてハネッコが容易に集まれるようになっていたことが判明した。

調査後、市は過度な介入を避ける方針をとり、天窓開度は朝のみ定常運用した上で中庭の清掃は午後以降に限定し、午前から昼にかけてはハネッコ達を静かに観察できるよう子どもを含む見学者が近づきすぎないように回廊外周に緩やかな目印を置く最小限の措置にとどめ、ハネッコ達を直接追い払う行為や意図的な風の発生は禁止行為とした。
すると花飾りが毎日一つ完成するようになり、それらは日によって異なる色合いで一つとして同じものがなく、完成後には全て市の職員が回収して施設内に日付、天窓開度、平均風速等が記載されて飾られるようになっていった。

以降毎日回廊のベンチでは足の悪い高齢者がハネッコ達を見守り、通学路の子どもたちはノートへ書き写したり、近隣のベーカリーに並ぶ人々は開店前に中庭で様子を伺うなど、誰も声を張ることなく、しかし同じ場所へ視線が集まる時間が町の朝の習慣として静かに育っていった。
翌月には件の花店は切り落としを紙包みにして無料で配るようになり、それを受け取った人は回廊の外側から風上を探って低い位置でそっと解くことでハネッコ達に届けそれを受け取りまた花飾りを作っていくさまを緩やかに観察するようになった。

以降何年もレンジャー及び保護局等が観察を続けているがその報告記録では群れが驚いて散った事例は皆無であり、誰もがハネッコ達へ温かい眼差しを向け見守っていることが確認されており、近年ではポケモンとの適切な距離感の保ち方のいち例としてSNSでも話題となっている。
リュセルヌシティでは今もこの出来事を町の風物詩と捉えながらも特別な名称を掲げることも大げさな装飾も観光資源にすることもなく静かに見守っている。

――文・【カミーユ・デュボワ】(カロス民俗誌研究会)


【管理人の感想】

静かな街の朝にハネッコが花を運び続けた出来事はどこか柔らかい祈りのようにも感じられた。
人の営みのすぐ側で採餌や営巣とも関係のない行動が日々繰り返され、やがてそれが町の人々の生活に自然に溶け込んでいく様は時間をかけて根づいていった習慣の芽吹きのようだった気がする。
市が過剰な保護や排除を選ばず最小限の介入でそのままの形を受け入れた事により、禁止事項を定めながらも人々が静かに見守れる空間を整えるだけに留めたからこそハネッコ達の行為は乱されることなく続きやがて町の習慣と呼べるまでに育ったのではないだろうか。

作られる花飾りが一つとして色も形も同じものはないとされるのは日常の中にありながらどこか儚さを帯びており、同じ場所に集う人々もまたその変化を確かめるために足を運び静かに共有する時間を大切にする有り様には街全体が呼吸を合わせているような温もりを感じた。

花店が切り落とした花を販売するのではなく無料で包みにして配り、それを人々が風に託して届ける習慣に発展していったが、そこには観光資源化のような商業的な色合いはなく、ただ町の人々の思いと好意が重なり合って人とポケモンが互いに寄り添い合う関係性がよく表れている。

このように大切に見守られてきたからこそハネッコ達が人間の存在を恐れず調和関係を築き上げ、その静かな信頼関係こそがこの現象を一過性ではなく《風物詩》として定着させた最大の理由だったのではないかと感じた。

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