発生日時:2021年7月
発生場所:ホウエン地方・ミナモシティ
関与ポケモン:ニューラ(1体・トレーナー所有)
関与人物:リコ・ハラダ(アルバイト/逮捕)
【解決済】沈黙のひと掴み
2021年7月、ホウエン地方《ミナモシティ》で複数の市民から相次いで《所持品の紛失》が警察に届け出された。
報告件数は1週間で29件に及び、いずれも財布や時計、スマホといった私物が落とした形跡もなく気付かぬうちに消えているという共通点があった。
警察は単なる紛失ではなく連続的な窃盗事件の可能性が高いと判断し、市民への注意喚起を行いつつ街中の警備体制を強化し、私服警官も複数配置されるようになった。
それでも被害は減らなかったものの、被害のほとんどがミナモ湾沿いの遊歩道から海水浴場にかけての一帯で発生しているという事が判明した。
このエリアは春から初夏にかけて観光客や学生の利用が多く、海辺での気の緩みも相まって荷物への注意が散漫になりやすい環境だった。
警察はこの特性を逆手に取った犯行と推測し海辺周辺に重点を置いた監視体制を敷く事を決定。
捜査協力を要請された民間警備団と共に非番の警察官による海の家でのアルバイト偽装、ドローンによる遠隔監視、観光客に扮した張り込みなど多層的な捜査が展開された。
そして7月下旬、湾岸の砂浜において私服警官が海辺に不自然に佇む一体の《ニューラ》の姿を確認。
その個体は砂の中に潜り込むように体を低く構えながら周辺の人間の動きを観察しており、一瞬の隙をついて鞄にスルリと身を滑り込ませていた。
まるで影のように移動するその様は一般人の目には容易に映らず、後に聞き込みをしたところ被害者はいずれもニューラを見た記憶がないと証言していた。
監視中の警官が目撃したのはニューラが小さな前肢で器用に鞄の留め具を外し、中から中身だけを抜き取って再び物陰へと滑り去る光景だった。
当初は野生個体と思われていたが追跡した警官が捕獲を試みたところ、ニューラは素早く反応しまっすぐに市街地へと逃走。
あまりの速さに一度見失うも、警察犬が匂いを追跡したことによりやがてミナモシティ郊外のとあるアパートにたどり着く。
警察犬がその建物の一室の前で座り込んだ事により中へ呼びかけるとミナモシティ内の飲食店でアルバイトをしている【リコ・ハラダ(26)】という女性が応対した。
室内には盗まれたと思しき所持品が多数見つかり、個人を特定出来るスマホやや財布も確認された。
警察の取り調べに対してリコ・ハラダは当初犯行を否認していたがニューラが当該物品を咥えて戻る様子を撮影した映像が決定打となり最終的に容疑を認めた。
供述によれば彼女はニューラを2年前に保護施設から引き取ったが、その当時から非常に器用な個体だったという。
日頃から自宅内で冷蔵庫内のモノを気づかぬうちに持ってきたり、リコのアクセサリーなど私物を鍵をかけてしまっておいてもいつの間にか取り出したりなどを行い、それを《芸》として披露している節があったという。
やがて生活が苦しくなるとニューラの習性を利用するかたちで無人の荷物から財布などを抜き取らせるよう仕向けた。
最初は『いずれ生活が楽になったら返す』つもりでいたとのことだったが、罪悪感は次第に薄れ、得た金で生活用品を購入するようになっていったという。
リコ・ハラダは窃盗罪で現行犯逮捕され、その後起訴された。
ニューラも直後に保護され、現在はホウエン地方北部の保護施設で専門家の監督のもと再社会化のプログラムに入っている。
当初は極度に警戒心が強く餌にも反応しなかったが現在では人の手から食べ物を受け取るまでに落ち着きを見せているという。
事件以降ミナモシティでは海辺エリアに監視カメラが新設され、観光客向けに《鞄は常に目の届く場所へ》という警告表示が複数設けられた。
静かな海辺で獲物の気配を見逃さなかった一匹のニューラと、その指先に人生を託した一人の女の存在は今なお市民の記憶に残されている。

――文・【ヒガミ・シオリ】(ホウエン地方事件取材班)
【管理人の感想】
犯人像が不透明なまま被害が拡大していった背景にはニューラの動きがどれほど人に認知されなかったのかを物語っている。
巧妙なまでに人間の視覚や警戒心が薄れた瞬間を見逃さないその能力から、ニューラが以前誰かから訓練を受けたのではないだろうか。
当初は盗んでいるというよりも一種の芸としてリコに見せていたことからも《盗むために》自然に身についた能力とは考えづらい。
リコは《返すつもりだった》という言葉を口にしていたが、実際には盗品を金に換えて生活していたという点から彼女の中で正当化と依存が混ざり合っていた様子がうかがえる。
自分では手を汚さず、ニューラに行為を委ねていたことが罪悪感を希薄化させた要因の一つではないだろうか。
また、再保護されたニューラが警戒心を見せながらも少しずつ人に慣れていったのは嬉しいことではありつつも、今後このニューラが施設外に出られる可能性は限りなく低いのではないかと考える。
もし最初に保護した人が異なる人だったなら、もし窃盗をしなくてもいい環境であったなら…そう考えずにはいられない。
構事件録
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