【解決済】市場を彩る合唱

発生日時:1952年3月
発生場所:カントー地方・ヤマブキシティ
関与ポケモン:オタチ(複数・野生)


【解決済】市場を彩る合唱

1952年3月、ヤマブキシティの朝市で野生の《オタチ》達が突如として屋根の上に姿を現し、商人たちが声を張り上げる呼び込みの調子に合わせて小さな声を揃えるように鳴き始めるという出来事が記録されている。

事の発端は市場に並んだ果物商が値引きを行いながら大きな声で客を呼び込んでいた際にその背後にある木造の屋根から小さな鳴き声が重なっていることに気づいたことである。
振り返った商人が見上げるとそこには数匹のオタチが背伸びをしながら声を合わせており、呼び込みと鳴き声が重なり合う瞬間、周囲の人々は思わず足を止めオタチを見上げ、商人自身も笑いながらその場を続けた。

オタチはそれ以降毎日一定の時間が来ると必ず屋根に整列して現れるようになり、やがて市場を訪れる者の多くが屋根を見上げてオタチを探すようになり、見つけるとそのままその店の前に並ぶようになった。
当初は商人の中には商品を荒らすのではないかと警戒を示す者もおり役所に苦情が寄せられたこともあったが、調査に入った係員たちが確認したところオタチ達は一度として店の商品に手を出さず、むしろ市場全体を活性化させ購買意欲を上げていると判断した。
オタチ達が屋根に並ぶと売り上げが伸びることが商人の間で共有され、結果的に商人達は自身の運営する店の屋根にオタチがどうやったら集まるのかを考えるようになっていったという。

やがて数年が経つうちにこの出来事は市場の名物として観光客にも知られるようになり遠方から訪れた人々が朝早くから足を運ぶようになった。
役所もこの現象を地域の特色として認め、市場の景観保存の一環として屋根の修繕に協力しオタチ達が集まりやすい環境を守る方針を打ち出した。
こうして小さな偶然から始まった出来事は街の営みと結びついて定着しヤマブキシティの朝を長らく象徴するひとつの風景として今も商人達の間で語り継がれている。
また、近隣の街の記録にも市場を訪れたトレーナーや旅行者が『ヤマブキの朝は美しい合唱で始まる』と記されているという。

近年になって学者の一部はこの行動を社会的模倣の一種として説明した。
オタチは群れで行動し警戒心が強いポケモンであり集団の中で同調行動を示す傾向があるのはよく知られているが、市場の騒がしい環境で互いの鳴き声を揃えることが安心につながり、結果的に人々の声とも重なったのではないかという仮説である。
ただし、なぜ屋根の上に整列する習慣を持ったのかは未だに明確な答えがなく十数年後には同じ現象が見られなくなったとも記録されているためあくまで地域特有、及びその個体群特有の現象と見られている。

――文・【フカザワ・アヤカ】(カントー地方都市文化記録班)


【管理人の感想】

商人の声に呼応するように屋根の上で整列し、鳴き声を揃えるオタチ達の姿には日常の中に思いがけず訪れる調和の瞬間があったように感じられる。
ただ市場を賑わせる存在ではなく人とポケモンの距離を自然に近づけ、互いの営みを重ね合わせる不思議な光景はかけがえのないものだったはずだ。

最初は警戒されながらもやがて街に受け入れられ、経済や観光にも結びついていったのは人々が小さな偶然を自らの暮らしの一部として抱きしめていった過程が透けて見える。
単なる珍しい出来事で終わらず地域の風景として残ったのは誰もがその時間を心地よいものとして共有できたからに違いない。

年月が経つうちに姿を消したという記録はどこか儚さを帯びているが失われた後もなお語り継がれていること自体がこの出来事が単なる過去の出来事ではなく、人々の記憶の中で今も生きている証のように思われる。
一群の小さなポケモンが街全体に残した痕跡の大きさに改めて人とポケモンの共存の形の豊かさを感じ取らずにはいられない。

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