【解決済】黒い友達

発生日時:2003年5月
発生場所:カロス地方・フラージュ村
関与ポケモン:ニューラ(1体・野生)


【解決済】黒い友達

カロス地方南方に位置する【フラージュ村】の診療所で療養生活を送っていた少年【ラミエル・セリュ(8歳)】が息を引き取ったのは、2003年5月17日の深夜のことだった。
彼は生まれつき心臓に重い病を抱え、生後まもなくから村にある小さな診療所の個室で育つように暮らしていた。
外に出ることは滅多になく、家族と過ごせる時間も限られていたラミエルにとって病室は世界そのものだった。

曰く、彼には《黒い友達》がいた。
彼が入院していた部屋の窓は防犯のため20センチほどしか開かず人が出入りできるものではなかった。
だが、春先からラミエル『毎晩窓辺に座ってお話を聞いてくれる。ニィって名前をつけた』と繰り返し看護師に話すようになった。

最初のうち看護師たちはこの話を野生動物やポケモンの可能性として真剣に捉え、夜間に何度か部屋の様子を確認した。
しかしラミエルはいつも静かに眠っており、窓辺に不審な気配はなかったという。
そのため彼の話は《空想の友達》のようなものとして扱われるようになり、以降は誰も咎めることなくラミエルの語るニィの話に微笑んで耳を傾けるようになった。

ラミエルは絵を描くのが好きで毎日のように《目がきらきらした黒い友達》の姿を描いていた。
壁に貼られた何枚もの絵には窓辺に腰かけて笑っている小さな黒い姿が繰り返し描かれていた。
鋭い爪、尖った耳、長い複数のしっぽ。
それは人間や小動物というより、まるで何かのポケモンのようであったという。

 

ラミエルの容態が急変したのは5月17日夕方頃だった。
医療スタッフによる懸命の治療が続けられたものの同日深夜、ラミエルは静かに息を引き取ったという。
最期はまるで眠るような穏やかな表情だったと関係者は語っている。

翌朝、部屋を片付けていた看護師の一人がふと窓側から何かの気配を感じて振り向いた。
そこには通常より遥かに小さな【ニューラ】が窓辺の隙間に腰かけていた。

ニューラは部屋の中をそっと覗き込み、キョロキョロと何かを探すように動いていた。
看護師とニューラは一瞬目があったが、すぐにまた再び部屋の中をキョロキョロと探したあと、小さくうなだれたように身を縮めた。

『ラミエルくんは…もう、いないんだよ』

看護師がボソリと静かに声を漏らすとそれに反応するようにニューラは看護師の方をジッと見つめてきた。
しばらくすると誰もいなくなったベッドへゆっくり視線を落として小さく『ニィ…』と鳴き声を発した。
そしてすぐにひらりと窓辺から跳び下り、そのまま森のほうへと姿を消した。

ラミエルの枕元には彼が最後に描いたと思われる一枚の絵が置かれていた。
そこにはいつもと同じく窓の外から部屋の中を覗く《黒い友達》の姿が描かれていた。

ニューラはその日以降、二度と現れることはなかった。
ラミエルの描いた絵は今も診療所の廊下に飾られている。

――文・【マリエ・クロワ】(カロス地方伝承記録局)


【管理人の感想】

胸の奥に静かに染みてくるような優しい哀しさがあった。
ラミエルが病室という限られた世界の中で出会った《黒い友達》は誰よりも近くにいてくれた存在だったと思う。
夜ごと窓辺に現れて言葉を交わし、笑い合ったその時間はきっと誰にも壊せない大切な宝物だった。
当初誰も信じていなかったその存在がラミエルのいなくなった朝にそっと現れ、探すように部屋を覗き込んでいた場面はあまりに切なくて、でもどこか温かくも感じた。
人間とポケモンの間に言葉では説明できない絆が生まれることはあるが、これはその中でも特別な関係だったと思う。

今もニューラは森のどこかでラミエルとの記憶を抱えながら過ごしているのかもしれない。
誰かに出会っても、もうあんなふうに心を許すことはないかもしれないけれど、それでもどうか穏やかな時間を過ごしていてほしい。
争いや追われることのない場所でただ静かに暮らしていてくれたらと願ってしまう。

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