発生日時:2014年12月25日
発生場所:カントー地方・トキワの森近隣住宅地
関与ポケモン:デリバード(野生)
【解決済】森からきたクリスマス
トキワの森に面した小さな住宅地の一角に、毎年12月25日の朝になると玄関先に《贈り物》が届けられる家があった。
その家に住む人々にとってその贈り物は【約束】のようなものであり、毎年その時期を心待ちにしていたという。
10年前、その家に住んでいたのは当時7歳の少女・ヒトミちゃん(仮名)と両親の三人であった。
ヒトミちゃんはよく近くの森に両親と遊びにいっており、小学校に入学してからは帰り道に友達と森へ寄るようになっていた。
後に判明した事だが、その日はたまたまいつも一緒に帰る友人が学校を休んでいたため、ヒトミちゃんは森へ一人で遊びに行ったという。
普段は行かない奥の方まで突き進んで迷子になり、泣いていたところ、一匹の《デリバード》と出会った。
デリバードは自分が持っていた木の実をヒトミちゃんに渡し、優しく慰めたという。
それ以来、ヒトミちゃんとデリバードは時折コッソリと森の中で二人きりの時間を過ごすようになった。
だが、悲しいことにヒトミちゃんは翌冬病気にかかり、そのまま病室で静かに息を引き取った。
悲劇は12月24日の夜のことだった。
両親はその死を深く悲しみ、迎えたクリスマスの朝、彼女に渡せなかったプレゼントをそっと手渡した。
悲しみに暮れる両親が自宅へ戻ると玄関のドアの前に小さなオボンの実と、ヒトミちゃんが森で失くした古びたハンカチが置かれていた。
まるで誰かが届けてくれたようなその贈り物は当時の両親には誰が、何のために持ってきたのか見当がつかなかった。
だが、両親はその贈り物に深い意味を感じ取った。
『思い返してみれば確かに最初は少し不気味さもありました。
でもそれ以上に、愛情を感じたんです。
喪ったばかりの私達には、心に響く贈り物でした。』
両親はその贈り物を誰にも知らせず、静かにオボンの実を冷凍保存し、ハンカチを飾った。
その年以降12月25日の朝になると玄関に何かしらの木の実と共に、以前娘が失った《安物のアクセサリー》や《赤色ばかりを使った絵が描かれた小さなノート》等が置かれていた。
そして最初の贈り物から10年が経過した2024年、悲しみを乗り越え新たに前に進もうと決心した二人は夜明け前に玄関の前で《謎のサンタさん》を待った。
すると、近隣住民のイルミネーションにボンヤリと照らされながら1匹のデリバードが薄汚れたぬいぐるみを抱えて現れた。
それはヒトミちゃんが生前大切にしていた《ラッキーのぬいぐるみ》で、両親はすぐにそのデリバードが謎のサンタさんであると理解し、涙した。
『あの時まるで娘が帰ってきたようにも感じたんです……
娘はいつもあのぬいぐるみを同じように片手で抱えていました。
とても大切にしていたんです。
でも失くしたあの日、娘は泣きじゃくるでもなく、むしろ誇らしげに「大切な赤い子にあげた」と言っていて…
どこの家の子なのか聞いても教えて貰えませんでしたが、まさかポケモンだったなんて思いもしませんでした。』
デリバードは両親を見ると驚き、立ち止まった。
そのままぬいぐるみを見つめ、しばらく考え込んだ後、恐る恐る両親に近づき、震える手でぬいぐるみを差し出した。
よく見るとデリバードは尻尾や顔周りに深い古傷があり、どうやらそれはポケモンにではなく遥か昔、人間の手でつけられたものである事がわかった。
どんな目にあい野生ポケモンとなったのかはわからないが、その姿に両親は再び涙を流しながら優しくぬいぐるみを受け取った。
それ以降、玄関先に贈り物が届けられることはなくなった。
ヒトミちゃんは大事にしていたものを一つ、また一つとより大切なデリバードに渡していたのかもしれない。
そしてヒトミちゃんがこの世を去った今、一つ一つ、受け取った思い出を両親へ返していたのかもしれない。
たとえそれがデリバードにとって、心を削られるようなことであっても、ヒトミちゃんが1番好きで、ヒトミちゃんの事を1番好きな人のもとに届けたかったのかもしれない。
現在もその家の玄関にはあの年に届けられたぬいぐるみが静かに飾られている。
薄くほこりを被っているが、そのぬいぐるみはまるで誰かを待ち続けているかのようだ。
まるで時間が止まったかのように…
そのぬいぐるみは今も変わらず、家族の一員としてそこにあり続けている。
その家の両親にとって毎年12月25日の朝に贈り物が届けられたことは深い意味を持つ出来事だった。
ヒトミちゃんが生きていた証として、その贈り物が届けられ続けたことは両親にとっても忘れがたい思い出となり、今も心の中で大切にされている。
『今年のクリスマスは、新たに加わった家族と共に森に行こうと思っています。
色々思い出してしまうから怖くて行けてませんでしたが…
今は、この子が一緒にいてくれますから。
きっと楽しい思い出のほうが本当は多いんです。
だからこれからはみんなで沢山笑顔で過ごしていけたらと思っています。』
そこには傍らで安堵して眠る赤い子を撫でながら、明るい未来を見据えて微笑む家族がいた。

――文・【アサクラ・ミト】(カントー地方人とポケモン文化特派ジャーナリスト)
【管理人の感想】
読んでいるうちに胸の奥に静かに灯るようなあたたかさと、同時に押し寄せる静かな悲しさに包まれた。
この事件…いや、この出来事は単なるポケモンとの交流や癒しの逸話ではない。
もっと深いところで人とポケモンの間ににある想いが描かれていたように思う。
ヒトミちゃんの死は、確かに悲しい。
でもその喪失が終わりではなく【新たな旅の始まり】だったと感じさせてくれたのは、デリバードとの絆によるものだと思う。
ハンカチ、ノート、アクセサリー……
どれも些細な《モノ》であれど、それらが【ヒトミちゃんが誰かを大切に思い、誰かに大切にされた証】なのだと気づいた時、胸が詰まった。
そして10年目に届けられた《ぬいぐるみ》。
それはきっと、ヒトミちゃんにとって1番大事だったもの。
そして同時にデリバードが1番大事にしてくれていたのだと、そう思った。
ボロボロになっても抱きしめ続けていたその姿に、《思い出を手放すことの痛み》と《それでも届けたい気持ち》が、すべて詰まっていたようだった。
奇しくも、デリバードも両親も10年目で気持ちの整理をつけられたのかもしれない。
お互いまた前を向いて進めるように、断ち切るわけではなく、繋げていくために…
あのぬいぐるみがきっとこれからも玄関で静かに家族を見守り続けてくれるこんだろう。
喪われたモノは戻らなくても、新たに思い出は作っていけるからこそ。
構事件録
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