【未解決】森に沈む人々

発生日時:1887年5月
発生場所:シンオウ地方・クロガネ山麓
関与ポケモン:ウソッキー(複数・野生)


【未解決】森に沈む人々

1887年5月、シンオウ地方クロガネ山の麓に位置していた小さな集落で、25名もの住民が相次いで行方不明になるという未曽有の事件が発生した。
事件が起きたのは春の訪れとともに山々の雪解けが進み、周辺に山菜採りや登山客が多く訪れるようになった頃だった。

最初の失踪は5月初旬、山に入ったまま戻らない住民が出たことで村人たちは数人規模の捜索隊を編成し山中を探し回ったが見つからなかった。
そしてさらに2週間のうちに行方不明者は次々と増えていき、最終的に《25名が消息を絶つ》異常事態に発展し、村は瞬く間に混乱と恐怖に包まれた。
消えた者たちには共通点があり、全員が《クロガネ山の森》に向かっており、また失踪前には『森に呼ばれている気がする』という不可解な言動を口にしていた。

その後の村人たちによる必死の捜索では森の一角で不自然な形に倒れ込んだ木々と奇妙な形状の岩や苔むした岩塊が散乱する地点が発見された。
その周囲には消えた住民たちのものと思われる足跡が残されていたが、そこから先は完全に途絶えていた。
行方不明者の家族や村人たちは警察と協力して3ヶ月以上捜索を続けたものの、ついに誰一人として発見することはできず、捜索は公式に打ち切られた。
次第に村人たちは恐怖から村を去り、クロガネ山麓の集落は数年のうちに完全な無人となった。

 

それから十数年後、山林の調査を行った警察や研究者によって現場周辺には複数の《ウソッキー》の痕跡が確認された。
ウソッキーは通常、人に対して極めておとなしく、むしろ臆病な性質のポケモンとして知られているが、この森で発見された個体群は明らかに異常だった。
彼らは目が赤く、全身に黒い斑点を持ち、枝葉の形も不揃いで明らかに通常のウソッキーとは異なる姿をしていた。
さらに、人間を見かけると奇声を上げながら執拗に追いかけ、威嚇行動を取り続けるなど通常では考えられない攻撃性を見せたという。

環境調査の結果、当時のクロガネ山麓の森では極端な乾燥と食料資源の枯渇が進んでおり、こうした急激な環境変化がウソッキーたちの行動異常や未知の進化的変異を促した可能性があると指摘された。
さらに、失踪現場付近で見つかった複数の樹木は当時のシンオウ地方に存在しない樹種が複数あったことが記録されている。
記録ではそれらは一見すると木のように見えるが実際にはウソッキーのように全く別の未知のナニカだった可能性が浮上し、事件はさらに謎を深めた。

 

そしてさらに数十年が経過し、近年改めて同地を訪れた研究者たちによる調査が行われたが、事件当時のような異様な樹木やウソッキーは一体も確認されず森は静まり返っていた。
まるで《事件そのもの》が存在しなかったかのように、痕跡は自然に飲み込まれ、今はただの山林が広がっているだけであった。

現在でも登山者やハイカーの間では《森が囁いたら引き返せ》という古い言い伝えだけが残されている。

――文・【セラ・アルディオ】(シンオウ民俗環境史研究会)


【管理人の考察】

集団の統一された意思

失踪者たちが共通して口にしていた『森に呼ばれている気がする』という言葉は事件の根幹にある異常性を象徴しているように思う。
これは単なる事故や野生ポケモンによる襲撃ではなく、《ナニカの意志》による誘引だった可能性を強く感じさせる。
森そのもの、あるいは森に棲むナニカが人間の心理や感覚に干渉し、内側から行動を操ったのではないか。
こうしたケースは超常現象の語り草として各地に見られるが、この事件が特異なのは25名もの人間がためらわず一方向へ吸い寄せられていったという点だ。
個人の錯乱ではなく、集団への影響という異常さがこの事件の気味の悪さを際立たせている。

異常個体の発生

後年発見された《黒斑のウソッキー》たちは、失踪との直接的な関係を証明されたわけではないがその存在は決して偶然ではないはずだ。
通常の個体とはかけ離れた姿と行動、そして異様な攻撃性は単なる生態変化で説明するには不十分だ。
むしろ、森という生態系全体に何らかの歪みが生じた結果、ポケモンまでもが変質したと見るべきだろう。
ウソッキーという本来は穏やかな種が環境要因だけでここまで異形化するとは考えにくい。
それは擬態という種の特性を極限まで歪められた、ナニカ別の意思や影響が作用していた結果かもしれない。

消えた異常の森

最も不気味なのは数十年後に行われた再調査で《全てがなかったこと》になっていた点だ。
森は静まり、異常個体も痕跡も完全に消失し、ただ言い伝えだけが残された。
これは自然が傷を癒やしたというより、《痕跡ごと異常がどこかへ消えた》ような印象を受ける。

森が喰らい、森が覆い隠し、森が忘却させる。
そこに関わった全ては消え、最後には静かな山林だけが残る。
この不可侵性こそがクロガネ山麓で起きた事件の恐ろしさの核なのだろうと思う。

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