発生日時:2023年4月
発生場所:カロス地方・アール=リュ村
関与ポケモン:ミルタンク(複数・トレーナー所有)
関与人物:レミ・グルニエ(農夫/逮捕)
【解決済】選定の毒ミルク
春の訪れとともに、カロス地方各地で子共達が原因不明の嘔吐や痙攣、錯乱といった重篤な症状に見舞われる事態が相次いだ。
一部の自治体では《ウイルス性の集団感染》を疑って対応が進められたが、やがて患者全員が共通して《アール=リュ村産の乳製品》を口にしていたことが判明する。
その乳製品を製造・出荷していたのが《グルニエ農場》だった。
現地に入った保健当局が農場を調査したところ、飼育されていた《ミルタンク》の体色は通常と異なる色味をしており、動きや反応も鈍く不自然だったという。
後に行われた検査の結果、全てのミルタンクから《アルカロイドやアトロピン》などをはじめとする《複数の毒素が体内から検出》され、毒性のあるミルクが生産されていたことが判明した。
農場主である【レミ・グルニエ(当時52歳)】は、かつては地元でも真面目な農夫として知られていた人物だった。
しかし数年前に妻を亡くしてから徐々に近隣住民との交流を断ち、孤立気味に過ごすようになった。
ある日、彼がとある宗教を信仰するようになり、それからはより顕著に人との交流を断ち、牧畜に没頭するようになっていったという。
グルニエが信仰していたのは《L’Unité Absolue(リュニテ・アブソリュ)》と呼ばれるカロス各地に少数の信者を抱えるカルト的宗教団体だった。
その教義は【人類は地に増えすぎ、選定者が間引かねば滅ぶ】という思想を根幹に据え、神に選ばれし者のみがその間引きを行う資格を持つと説いていた。
グルニエは教義に傾倒し、団体から供与された《聖水》と称する薬剤を混ぜた餌を与え続けることで、数年のうちに品種改良を行い《ノーマル・毒複合型のミルタンク》の育成に成功していた。
事件が発覚するとグルニエは即座に逮捕され、同時に全国へ出荷されていた乳製品の回収と摂取回避の呼びかけが行われた。
しかし既に流通していた製品を口にした人も多く、その後一ヶ月以上に渡りさらなる被害が発生。
やがて市民の間に《乳製品そのものへの不信感》が広がり、カロス国内の流通業者は大量の製品在庫を廃棄せざるを得ない状況にまで追い込まれた。
そして彼の逮捕後、問題となったのは毒性を持つミルタンクたちの処遇だった。
保健当局やポケモン保護センター内では即時処分を求める声もあがったが、【命ある存在として治療と再保護の道を探るべき】という意見が支持を集めた。
だが当時、大量のミルタンクを保護できる施設がなかったため、最終的には《エーテル財団カロス支部》が【広大な専用牧区を保有しており、安全に隔離・飼育・治療が可能である】と説明し、全ての個体を一時的に引き取ることで決着した。
だが、それ以降の経過については一切が非公開とされ、事件から約1年後、ポケモン保護センターが【受け入れ準備が整った】としてミルタンクの移送を申し出たがエーテル財団はこれを拒否。
理由としては以下のような説明がなされた。
『ミルタンクたちは今の環境に完全に順応しており、移動は極めて大きなストレスになる。
毒性も徐々に弱まってきている今、環境を変えることで再活性化する可能性がある。
これはミルタンクたちのための判断であり、保護センターの理解と協力を願いたい。』
それを受けてセンター側が施設の立ち入りを求めたもののこれも拒否された。
以後も交渉は続いたが保護センターの職員が財団施設に足を踏み入れることは一度もなかったという。
ミルタンクたちが今どのような状態で暮らしており、毒性は本当に薄まったのか。
その真実を知るのはエーテル財団のごく一部の関係者だけである。
ただ1つ確かなのはそれ以降、毒性を持つ乳製品が市場に流通することはなくなったということだ。
現在も乳製品を避ける人や警戒心を持ち続ける市民は少なくないが、カロス地方の食卓には再びミルクの味が戻りつつある。

――文・【エメ・クラヴォー】(カロス地方農業災害調査協議会)
【管理人の感想】
命を育てるはずの営みが人を選別し命を奪う手段へと転化したのは極めて恐ろしい事である。
宗教の名を借りて行われたグルニエの行為はただの毒物混入ではなく選民思想による大量加害だった。
毒性を持つミルタンクたちを意図的に作ったのも極めて冒涜的であると言える。
だが事件の本質は真の加害者は別にあるといえることではないだろうか。
短期間で生物を変質させるような《聖水》を扱っていた宗教団体の摘発は今なお行われておらず、再び同様の被害が発生する可能性すらある。
そして一度は保護を約束したエーテル財団が以降のあらゆる申し出や確認の機会を拒絶し続けているという事実は重く受け止めざるを得ない。
どこで、誰が、どう管理していて、なぜ移送も立ち入りも認められないのか。
なぜあらゆる情報が一切公表されないのか。
そのまま歴史から消され、知らぬ間に《別の用途に使用されるのではないか》という不気味な憶測をたててしまう。
構事件録
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