【解決済】虚ろな電気

発生日時:2019年9月2日
発生場所:ジョウト地方・ハガネダケの森
関与ポケモン:ルクシオ(3体・野生)


【解決済】虚ろな電気

9月2日の夜、ジョウト地方北西部にある《ハガネダケの森》にて単独で下山していた男性登山者が樹間に漂う三つの青白い光点を発見した。
それが懐中電灯や反射材ではなく、一定の間隔を保って滑るように進む無音の列であることに気づいた瞬間、足元で落ち葉が微かに震え、空気の粒子が帯電する気配とともに乾いた火花が静かに散り、焦げた草いきれが鼻腔に残ったという。
登山者は距離を保ったまま携帯端末で森の管理事務所に連絡し、位置情報と視認状況を報告し、応答に出た当直は安全な退避を指示しつつレンジャー隊へ直通回線を回した。

通報から15分後、地元のポケモンレンジャー隊2名が麓の詰所から出動し、赤外線双眼鏡と絶縁装備、可搬式の放電吸収器を携行して中腹へ進入し月明かりに薄く浮かぶ光列を尾行した結果、対象は3体のルクシオであることが判明した。
3体はいずれも尾の先端が持続的に青く発光しており、歩行と同調するように微弱な電気が地表へ走る異常が見られたものの通常の巡回時に観察される警戒音や咆哮は一切なく、レンジャーには目もくれずゆっくり滑るように移動していたという。
レンジャーは前方の植生の焦げと金属臭に着目し、火災リスクを抑えるため尾行しながら風下側から緩く扇状に距離を詰める作戦に切り替え、同時に保全局へ原因調査班の招集を要請した。

この時点で森の北端では新設の送電施設における試験通電が行われており、仮設フェンスの一部が資材搬入のために開放されたままだったことが後の記録照合で明らかになる。
電力会社が提出した運転ログには同日18時台に短時間の地絡(大地への漏電)警報、20時台に変圧器周辺の磁界強度が設計値を上回る異常が記録され、設備近傍の土壌水分が高かったために地表へ拡散した微弱電流が特定区画で斑状に滞留していたことが示されていた。
また、生態班の分析によれば電気タイプであるルクシオは環境電位の偏在に敏感で、過剰な電荷の集積域に侵入すると毛根部の電気感受器が過刺激を受け、逃避や闘争ではない《放電優先モード》に切り替わることがあるとされ、今回の3体は工事区画へ入り込んだ際に一時的な過充電状態に陥り、神経興奮が抑制されるかわりに余剰の電気を連続して逃がす挙動へ固定化されていた可能性が高いとされた。

レンジャー隊は光列が尾根の鞍部から市街側の支尾根へ抜ける手前で初期封鎖を試み、先行役が進行方向斜面に放電吸収器を三脚固定し、後続が側面から絶縁ネットを展開する《挟み込み捕獲作戦》を選択した。
接触の直前、隊員2名はハンドサインと光の明滅で合図を交わし光列の中央個体が尾を振り上げて放電を強めた瞬間、吸収器のコアを最大出力へ切り替え、網の縁を地面へ接地し逃走方向の電位差を吸い上げる形で進路を鈍らせた。
抵抗は短く、3体は緩慢な足取りのまま順にネットへ乗り体表から漏れ出る電気は数十秒ほどで収束し危険な火花の飛散は見られなかった。

捕獲後は保全局の移送車両で直ちに専用施設へ搬送し、低刺激環境下で段階的に電荷を抜く措置がとられた。
導電性の床材と微弱な逆位相パルスを用いた《電圧テーパリング》により心拍と体温の上昇を抑えつつ、筋線維に蓄積した過剰電気を数時間かけて外部へ逃がし、血中の乳酸値とストレスホルモンを測定。
翌朝には咀嚼と排泄が平常化したため、個体識別用の微小タグを付してハガネダケ保護区の奥地へ段階放逐が実施された。

一方、原因究明の現場調査は夜明けとともに始まった。
送電施設の仮設フェンスの開口部から30メートルの範囲で焦げたシダ類と黒化した倒木が点在し、地表には細い焼痕が連なっているのが確認された。
工事関係者の聞き取りでは当日の午後に雷害対策の接地棒の追加工事が後ろ倒しになり、一時的に接地抵抗が規格値より高い状態で試験通電を開始していた事実が確認され、加えて侵入防止ネットの一部が未固定であったことが判明した。
電力会社はこれを受け即日で試験運転を停止し、接地工事のやり直しとフェンスの二重化、遮蔽板の増設、夜間作業時の音・光・電磁ノイズの同時低減ガイドラインを策定し作業員教育の再徹底を公表している。

事案の収束後、ハガネダケの森では登山道の夜間閉鎖区間が見直され、送電施設の近傍では進入路の付け替えと案内板の更新が行われ、荒天時や試験運転時に発光や火花を視認した場合の通報フローが掲示された。
保全局は学校や山岳会と連携し【森で光と出会ったら危険の兆候である】と、電気タイプの野生個体が見せる放電行動の違いと距離の取り方を啓発する講習を開始した。
以降、夜間の発光通報は皆無となり工事現場での電気障害も再発していない。

――文・【ミナセ・タクヤ】(ジョウト自然環境事件調査会)


【管理人の感想】

夜の森に浮かぶ無音の光という一見不気味な光景が結果として安全に収束したという結末は救いがあったように感じる。
ルクシオたちの行動は一歩間違えば火災や感電といった重大事故につながりかねなかったが、迅速な通報とレンジャーの冷静な対応が事態を大きく変えたはずだ。
特に現場での絶縁装備や放電吸収器を駆使した捕獲は野生個体の安全を確保しつつ人間側の被害を最小限に抑えた好例だったように思える。

また、原因が工事現場での電気障害という明確なものだった点も印象的で、人間の活動が野生環境に思わぬ影響を与えることを改めて突きつけられた気がする。
幸いにもルクシオたちは健康を取り戻し保護区で再び自然の中に戻ることができたことは喜ばしい限りだ。
電力会社や行政による再発防止策も即座に実行され、地域の安全性が向上したこともまた大きな成果だと感じる。

この一件は危険が潜む自然環境での異常な兆候を見逃さず、迅速かつ冷静に動く重要性を示しており、森の光景に潜む美しさと危うさを同時に教えてくれる出来事だった気がする。

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