【未解決】口ずさむ殺意

発生日時:2024年3月
発生場所:カロス地方・ブティーヌ駅
関与ポケモン:ドクロッグ(1体・野生)


【未解決】口ずさむ殺意

カロス地方南部、かつて山間の通学路として親しまれていた《ブティーヌ駅》はおよそ40年前に閉鎖され、今では地図にも載らない廃線の終着点となっている。

ブティーヌ駅へ通ずる唯一の道は洞窟状の旧トンネルという特殊な構造をしており、現在駅舎もホームもすでに半壊し、線路は苔と草に覆われて目視での確認は出来ないほどで荒れ果てていた。
そんな駅を訪れた廃墟マニアの間では《帰りのトンネル内で誰かの鼻歌が木霊する》という噂が広がりだしていた。
事件が起きたのは3月18日の深夜、6人の若者たちが《肝試し》と称して駅へ足を踏み入れて数分後のことだった。
なお、肝試しに訪れた彼らのうち1人(青年A)がその様子をライブ配信していたことが後の証拠映像として残された。

序盤ではカメラに映るのは暗いトンネル内を懐中電灯で照らしながら騒いで進む青年らの姿だった。
しばらくするとトンネルを抜け、廃墟と化した駅が映り込み、カメラは足元の生い茂った草や崩れた柱、濡れた床などを映しながらより一層騒ぎ始めた。
直後、それぞれが散り散りになり、各々が駅のあちこちをスマホで撮影している様子を撮影者である《青年A》が面白おかしく実況していた。

数分後、奥の暗闇の方にいた1人、《青年B》が突然『あっ…』という短い声を上げた。
その直後、まるで水風船が地面に叩きつけられたような鈍く湿った破裂音が駅に響き渡った。

当初《青年B》によるイタズラかと思った《青年A》はライトを《青年B》がいた方へ向けたがそこには誰もいなかった。
だが、《青年B》が立っていたはずの場所の床には《ドロドロとしたスライム状の粘液》が広がっていた。
その粘液は淡い黄緑色で照明が反射するほどの光沢と粘度を持っていたという。

《青年A》が自らの顔を映しながら怖がる素振りをして面白おかしく実況していると、《青年C》《青年B》の名前を呼びながらスライムの方へ歩み寄っていった。
すると次の瞬間、《青年C》のくぐもった呻き声が一瞬したため、即座に《青年A》がライトを向けた。
そこには《首から上が無くなっている青年C》が立っており、その直後まるで水風船が割れたかのように弾けてスライム状の粘液へと変わっていった。

 

残されたメンバーたちはパニックに陥り、叫びながら洞窟の入口方向へと走り出したが背後からは次々と《くぐもった声》《弾ける音》がトンネルに響き渡った。
カメラは上下に激しく揺れながら、駅入口にいたため先頭を走っていた《青年A》の姿を捉えていた。

しかし出口が見えたかと思ったその瞬間、《青年A》が小さく声をあげたのと同時に画面が回転しながら落下した。
落下時に激しく地面を跳ねたため画面にはヒビが入り、以降の映像は不鮮明となったがハッキリと《青年A》が弾ける音が入っていた。
するとスマホを一度だけゆっくりと覗き込む影が映り、その後その影が洞窟の奥へとゆっくり戻っていった。

離れていくに連れ暗いながらも謎の存在の輪郭が浮かび上がってきた。
膝を曲げ、腕を前に垂らし、尖った指を地面に引きずるように歩く……それは1体の《ドクロッグ》であった。

ライブの視聴者の通報により即座に現場に警察とレンジャー隊が出動したが、駅構内にもドクロッグの姿は見当たらなかったという。
その後の映像解析と採取された粘液の性質や足跡の特徴からも殺害したのはドクロッグで間違いないとされている。
しかし通常ドクロッグはここまで強力な毒を使うことはなく、人間をスライム状に溶解するような能力も確認されていないため《別のナニカもいた》のではないかと囁かれた。

 

後の聞き込み調査で興味深い証言を残していた人物がいる。
近隣に現在も住む老婦人【マルグリット・アランソン(82)】はかつてこのブティーヌ駅から通学、通勤していた一人だった。
彼女は以下のように語った。

『あの駅に昔はいつも一匹のグレッグルがいたの。
小学校へ向かう子供たちの横でいつも楽しそうに駅のメロディを口ずさむ可愛い子だったわ。
怖がる人なんて誰もいなくて、みんなで可愛がってたりもして。
誰が名付けたかはわからないけど気がついたらみんな彼のことを《フレド》って呼んでたの。
きっと《fredonner》から来てるんでしょうねぇ。

フレドは駅のメロディだけじゃなく、誰かが歌えばそれを真似て口ずさみながら踊ったりもしていたの。
そんなフレドのことがみんな大好きでした、もちろん私も。

でも、私が会社勤めになってしばらくしたある冬の日に、下校途中の数人がホームで足を滑らせて、そのうち1人が線路に落ちたのよねぇ…
列車は止まらず、子供は即死だったわ…本当に悲しい事故だったの。

あの時、フレドが助けようとしてたのを見たのよね…でも、届かなかったの。
それからはあの子、歌うことはなくなっていつも駅に立ったまま皆のことをジッと見つめるようになったの。
その翌年からフレドの姿を見ることがなくなって、数年後に私は引っ越してしまったからその後のことはわからないのよねぇ…』

 

いったい何がキッカケでフレドが駅に戻ってきたのか、そして廃墟に訪れた者は他にもいるのになぜあの時だけ殺戮を行ったのかは誰もわからないままである。
今はトンネルごと封鎖され、廃墟となった駅に誰も訪れることはなくなったが、もしかしたらフレドは今も静かに懐かしいメロディを口ずさんでいるのかもしれない。

――文・【レミ・ジャルダン】(カロス超常災害記録課)


管理人の考察

本当に《野生個体》だったのか

公式には《野生のドクロッグ》とされているが、老婦人の証言からかつての《フレド》は通学・通勤する人々に受け入れられており、明らかに人間社会に深く馴染んでいたといえる。
駅に常駐し、子どもの歌を真似、愛称まで与えられていた存在が単なる野生の個体だったとは考えにくい。
人との強い関わりを持っていた事からもしかしたら《誰かが既に所有していた》という可能性はないだろうか。

異常なまでの毒性

ドクロッグの毒が人間の肉体をスライム状に分解する例はこれまで存在していない。
だが今回のケースではいずれも全身が粘液状に変質し、爆ぜるように崩壊している。
通常の毒とは異なる特性が確認されており、《怒りや悲しみといった強い感情》が能力を異常進化させた可能性も考えられる。

殺戮の理由

この廃駅には他にも多くの訪問者がいたはずである。
だが事件が起きたのは《配信》という形で駅を娯楽として消費した若者たちが訪れた時だった。
記録され、嘲笑され、切り取られていくその風景はフレドにとって《忘れられた過去をさらに踏みにじる行為》に見えたのではないだろうか。

かつて誰かに愛され必要とされた場所を笑いのネタにした者への報復であったと考えれば自然な事とも言える。

ドクロッグの行動と消失

最後に姿を見せたドクロッグ青年Aのカメラを覗き込み、その後静かに奥へと引き返していった。
これはもしかしたらドクロッグなりの人間との決別の表れだったとも考えられないだろうか。
過去のように人と共に生きるのではなく、孤独に戻る選択を自ら選んだのかもしれない。

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