発生日時:2012年10月
発生場所:ガラル地方・フィンベルシティ
関与ポケモン:ドンカラス(1体/トレーナー所有)
関与人物:マルコム・レイストン(探偵/逮捕)
【解決済】金貨口詰め連続殺人事件
5年間にわたってガラル北部の【フィンベルシティ】を騒がせた《金貨口詰め連続殺人事件》は2012年10月、ついに幕を下ろした。
不可解な死因と異常な現場状況、そして何より《捜査に協力していた人物》の名が容疑者として浮上した瞬間、街に静かな衝撃が走った。
この事件の被害者はいずれも成人男性で口の中には複数の金貨が押し込まれ、舌を引きちぎられていた。
現場には争った形跡もなく、目撃者もいなければ周囲にある防犯カメラにも不審な影すら映らっていなかった。
数々の謎を解き明かし警察からも市民からも信頼されていた私立探偵の【マルコム・レイストン(当時37歳)】と彼の相棒である《ドンカラス》は事件発生当初から積極的に現場に入り、警察よりも先に情報をつかんで提供していた。
癖のある人物だったがフィンベルシティ中の裏路地や半グレの名も組織構成も正確に把握しており、今となっては誰もが《事件解決は彼なしでは進まない》とすら思っていた。
だがそのマルコムをもってしても一向に解決されないこの事件に市民は感じたことのない恐怖に包まれていたという。
事件解決の発端はある地方都市に暮らす女性から警察に寄せられた一本の失踪届だった。
通報内容自体は『兄と急に連絡が取れなくなった』という簡素なものだったがその背後には奇妙な符合があった。
行方不明となった男性は過去に発生した一連の殺人事件の一部の被害者たちと《不思議な共通点》を持っていたのだ。
彼らはそれぞれ立場も関与も異なるが、かつてとある裁判の場に居合わせていた。
そして失踪した男性が最後に妹へと送っていたメッセージが『マルコムと会わなきゃならなくなった』との事だった。
この事から彼が初めて《調査対象》として名前を挙げられることとなった。
しかし当初警察内部では彼を疑うことにためらいを覚える声が多々あった。
『マルコムに限ってそんなことはないだろうけど、一応ね』
そんな軽い口ぶりで、まるで茶飲み話の延長のように警察官が調査の名目で彼を訪ねた。
それに対しマルコムはいつもの穏やかな笑顔で応じ、自宅兼事務所の扉は自ら開け放たれ、警察官たちは形式的な手順で内部を確認していった。
だが寝室を調査中に想定外の出来事が起きた。
整理された部屋の壁面、家具の裏側を確認していた隊員がふとしたきっかけで奇妙な凹みを見つけた。
調べてみるとそれは明らかに人工的に設けられた隠し扉であり、押し込むようにして開いた先には狭く暗い空間が広がっていた。
懐中電灯の光が照らしたその部屋の光景に皆言葉を失った。
金属製の棚に無数のガラス瓶が並べられており、その全てに《液体に包まれた舌》が入っていた。
警察官が瓶を手に取るとその全てに丁寧な筆致で《被害者の名前》が記されていることに気づいた。
警察は即座にマルコムを拘束したが、その際彼は一切抵抗を見せなかったという。
微笑みながらただ一言、『バレてしまいましたか』と呟いたという。
取り調べでマルコムは協力的で、淡々と彼の過去と動機が明らかになった。
マルコムはかつてガラル南部の貧困地区で兄とともに暮らしていた。
両親は早くに消え、兄が唯一の支えだったがある日『金を手に入れる方法を見つけた』と言ってとある組織に加入した。
だが、組織の一人がヘマをやらかした際に、兄はマルコムに全ての罪を着せる事で組織としての地位を上げることに成功した。
そしてマルコムは自身がやってもいない麻薬取引の罪を着せられ、13歳で少年院に送致される事となった。
その中で待っていたのは人として扱われない地獄の日々だった。
食事は与えられず、腕を折られ、言葉を発することさえ許されなかった。
だがそんな地獄でマルコムは運命的な出会いをすることになる。
それはマルコムが普段通り施設の端で身を潜めていた時に巣から落ちて見離された《ヤミカラスの雛》を見つけた時だった。
マルコムはヤミカラスを自室へ連れ込み、数少ない自身の食事を与えて夜は抱きしめて温めていたという。
数日後、元気になったヤミカラスは今度は羽で彼の涙を拭き、眠れない夜に寄り添い、二人は静かに絆を深めていった。
釈放後マルコムは偽名と偽造書類で探偵の資格を得るまでに12年を費やし、その過程でかつて自分を地獄に落とした男たちが《普通の市民》として生きている現実に直面し復習の炎を燃やしたという。
殺めた被害者たちはかつて彼を売った者、嘘の証言をした者、記録を改ざんした者、傍観した者などであり、その中にはマルコムの兄も含まれていた。
そして遺体の口に詰められていた金貨は兄がマルコムを売った際に得た金額だった事を静かに語った。
『あれはただ黙らせただけなんです。
同じ金の重さで。』
裁判でマルコムには終身刑が言い渡された。
同時にドンカラスを犯行で利用していた事からポケモン更生専門施設で保護される事となった。
施設に入ってから一度も鳴き声を上げず、誰の命令にも従わないまま静かに佇んでいるという。

――文・【アデル・フォレスト】(ガラル犯罪心理記録室)
【管理人の感想】
マルコム・レイストンという人間は徹底して《声》を奪われ続けた存在だった。
社会に裏切られ、兄に裏切られ、13歳で少年院に送り込まれて以降、自分の正しさを証明する手段もなければ、誰かに訴える術も持たなかった。
彼の人生はずっと言葉にならない苦しみで埋め尽くされていたのだろう。
探偵としての知識も努力も、行動全てが復讐のためであったのがあまりにも居た堪れない。
異常な手口もその意図が分かってしまえばむしろ彼の中に《確固たる秩序》があり、彼の中では《正義》であったことを示しているようにさえ感じる。
そしてそんな彼の隣にずっといて唯一心を通わせていたドンカラスが《声を奪う役割》を担わされていたというのはあまりにも皮肉が効いている。
舌を抜かれ、口を塞がれた被害者たちは《かつてのマルコムそのもの》だったのではないだろうか。
果たしてドンカラスは命令に従っただけだったのだろうか。
それとも、長年寄り添うなかで自らその意思を引き受けたのか。
事件後、まるで魂の抜け殻のように命令も拒絶し、静止したまま沈黙を続けるドンカラスの姿はただの《共犯者》ではなく、もっと深く、もっと哀しく《一心同体》だったとさえ思える。
構事件録
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