【解決済】祈りの石像

発生日時:1993年5月
発生場所:カントー地方・ハナダの洞窟
関与ポケモン:ゴルーグ(1体・野生)


【解決済】祈りの石像

1993年5月中旬、カントー地方《ハナダの洞窟》周辺で発生した不可解な失踪事件は後に古代ポケモン《ゴルーグ》による《儀式の一端》だったことが判明し、関係者の間に静かな衝撃を与えた。
事件の発端は都内在住の【ハセガワ・タクミ(当時19歳)】が両親と妹とともにハナダの洞窟を観光目的で訪れたことに始まる。
元々ベテラントレーナー以外立ち入り禁止だったこの洞窟の一部は観光整備計画の一環で近年部分的に解放されていたが、構造は複雑で未踏破区域が多く残っていた。

問題が発覚したのは予定された帰宅時刻を大幅に過ぎた夕刻にタクミ一人がふもとの宿泊施設に戻ってきた事だった。
疲弊しきった表情で受付に現れた彼は震える声で『家族が消えてしまった』と告げたという。
彼の話によれば探索中に妹が足を滑らせて転倒した後、両親と一緒に奥へ進んで様子を見に行ったが途中で両親も見失いそれきり誰も戻らなかったという。
連絡を受けた保安員と山岳警備隊が洞窟の内部を捜索したが姿を見たという証言がある一帯でも足跡や持ち物などの手がかりは得られず、失踪直後の現場はまるで《誰も存在していなかった》かのような静けさを保っていた。

 

だが、異変はさらに続いた。
翌日の早朝、隊員がタクミを呼びに宿泊施設へ訪れると彼が滞在している部屋はもぬけの殻だった。
周囲の聞き込み調査により最後に彼の姿が目撃されたのは夜明け前のハナダの洞窟入口付近で、険しい岩場を迷いなく進んでいったとされている。

これを受けて捜索隊は人員を増やし改めて洞窟の立入禁止区域を含めた全面的な探索を実施。
そして約36時間後、洞窟の奥深く、かつての採掘坑跡とされる閉鎖された区画でタクミは発見された。

発見当時彼は膝をつき、まるで祈るような姿勢で岩の前に座り込んでいたという。
しかしその目は見開かれつつも焦点は合っておらず、口元はかすかに動きナニカを呟いているという異常な状態であった。
隊員たちが近づき救助を試みようとしたその時、タクミの前にあった《岩の塊》が音もなく立ち上がった。

それは当時カントー地方では発見例のなかった《ゴルーグ》だった。
全長およそ3メートルの巨体は洞窟の天井にかすかに届くほどの大きさで、胴体には魔法陣がありかすかに青白く発光していた。
その場にいた隊員が即座に捕獲を試みたが技の発動を受ける前にゴルーグは洞窟の奥へと滑るように消えていった。

残されたタクミは救出され、その後極度の精神混乱状態と診断され現在に至るまで一貫して心神喪失状態にあるという。
取り調べで得られた証言はわずかで、繰り返し呟かれていたのは【ゴルーグのために捧げたから大丈夫】という言葉だけだった。

 

数日後、再調査のために発見地点を改めて精査したところ現場の地面に不自然な盛り上がりと掘削の痕跡が見つかり、慎重に掘り返された結果丁寧に埋葬された3つの遺体が現れた。
それはタクミの父母と妹であり、いずれも死因は滑落による複雑骨折と内臓破裂で外傷の状況から生存の可能性はほぼなかったとされる。

この一連の出来事に対しポケモン学者たちの見解は分かれているが過去にイッシュ地方の遺跡で確認された《死者を埋葬し祈るゴルーグ》との類似性を根拠に一部では今回の個体も《かつての護送者》の記憶をそのまま継いでおり、家族を助けた存在であったと語っている。

事件以降ハナダの洞窟の未開放区域は再び封鎖され地図上からも一部の区画が削除された。
ゴルーグの姿が再び目撃されることはなくタクミも現在は施設で静かに療養を続けている。

――文・【タニグチ・ユウト】(カントー民俗自然史記録班)


【管理人の感想】

タクミが祈るように跪いていた姿は恐怖や錯乱とは異なるナニカ…
ある種の狂気的な信仰のようなものすら感じさせられた。
まるで《自らの意志》を犠牲にしたことにより救いを得たかのようにも思えた。

人が真の絶望を感じた時、そこに現れた救いの手を拒む術はないのではないだろうか。
それが本当に求めた救済であったのかは最早確認のしようがないが、それでも彼の心が救われていればと切に願う。
タクミの精神が未だ戻らないのはやはり全て差し出してしまったからなのかもしれない。
この事件には善も悪もなく、ただ起きてしまった悲劇と失われた数々のモノが重く残り続けているようにも思える。

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