発生日時:2022年11月3日
発生場所:イッシュ地方・ヒウンシティ
関与ポケモン:シャンデラ(元トレーナー所有)
関与人物:ルカ・メルシエ(ホテル経営者/故人)
【解決済】魂灯る静寂のホテル
イッシュ地方最大の港湾都市【ヒウンシティ】。
その中心街から南西に数ブロック離れた湾岸地区に、かつて一軒の静かな高級ホテルが佇んでいた。
その名を【ザ・セレニティ・コーブ・ホテル】、通称【セレニティ・コーブ】。
街の喧騒から距離を置き、《静謐と孤高》をテーマに上質な長期滞在空間を提供していたことで知られていた。
建物は白を基調としたクラシカルな洋館風の造り。
館内には古風なシャンデリア、重厚な木製家具、豪華なスパとともに海の景色を満喫でき、穏やかなクラシック音楽が静かに流れていた。
このホテルを経営していたのは名門メルシエ家出身のオーナー、【ルカ・メルシエ】。
彼は徹底した礼節と美意識で知られ、オーナーになってからホテルはより素晴らしいものとなっていた。
しかし2022年秋、そんな格式高いホテルが突如として連続変死事件の舞台となった。
発端は11月3日、宿泊中の女性が自室のベッドの上で心停止状態で発見された事だった。
第一発見者はルームサービスを担当するスタッフで、女性は目を見開き、顔をひきつらせたまま硬直していたという。
当初は持病や事故の可能性も疑われたが異変はそれだけに留まらなかった。
同日、さらに9名が同様の状態で死亡している事を別のルームサービス担当者が相次いで発見した。
いずれも異なる部屋で発見され、身体には争った形跡もなく、薬物や毒物反応も検出されなかった。
その時点で共通していたのはその《恐怖に引きつった表情》だけだった。
その後の調査で全員が【オーナーのルカから特別招待を受けていた】という事実が浮かび上がる事となる。
さらに、この招待客たちは過去に【セレニティ・コーブ】にたびたび滞在し、その都度問題を起こしていた事が発覚した。
客室の調度品を壊す、従業員に対して傲慢な態度を取る、大声で騒ぐなど、かなり悪質だった。
一時はネット上でも話題になり、ホテルの評判は次第に陰りを見せていったという。
それでもルカ・メルシエは過去の迷惑行為を帳消しにする条件で招待し、最高のもてなしを提供したという。
それが彼なりの《最後の慈悲》だった事を知らぬまま、招待客はまたしてもトラブルを起こすこととなった。
特に彼の亡き妻が愛していた高価な飾り皿が破壊されたことが、限界を超える引き金になったとも言われている。
翌日、調査中の捜査員がホテル最上階のスイートルームにてルカ・メルシエの遺体を発見した。
彼は椅子に座ったまま事切れており、その傍らには一匹の【シャンデラ】が静かに灯を揺らめかせながら佇んでいた。
遺体に外傷はなく、安らかで、まるで眠っているようであったという。
このシャンデラは彼が幼少期から共に育ち、ホテルの象徴として客人を出迎えていた存在だった。
ルカとシャンデラの絆は深く、妻を亡くした後も彼の心の支えとなっていたと関係者は語っている。
遺体の横には、丁寧に書かれた遺書が残されていた。
そこには、ホテルの評判が落ち続けていること、妻の形見が壊されたこと、信じていた《最後のチャンス》すら裏切られたことが綴られていた。
そして、遺書の最後はこう締められていた。
『あの者たちの魂は、もはやこの空間にふさわしくない。
最期のもてなしはあの子に託した。
あの子を一人残してしまう事は悲しくもある、だがそれ以上に私はもう疲れてしまった。
どうか最期くらい、後悔と反省の中、燃え尽きて欲しい。
そしてこんな事をお願いする私の魂も、この身も、焼き尽くされるべきである。
私がどんな状態で発見されても、どうかあの子を罰しないでください。
これは全て私が強要した事でしかないのだから。』
シャンデラは現在イッシュ地方にあるポケモン保護施設にて隔離されている。
暴走の兆候は見られないが、毎晩、ルカが亡くなった午後11時32分になると、空を見上げて静かに炎を揺らすという。
関係者によれば、それはまるで遠く離れた大切な人へ送る《弔い》のようだと語る。
【セレニティ・コーブ】は事件後すぐに閉館し、翌年には解体された。
跡地は現在立入禁止区域に指定されているが、地元では《夜になると青い炎が灯る》といった噂が後を絶たない。
愛した友の魂をも燃やした灯は、今もなおあの場所で揺れているのかもしれない。

——文・【レオン・バルデール】(イッシュ中央通信)
【管理人の感想】
読み終わってから、しばらく何も考えられなかった。
ただただ、胸の奥に何か重たいものが沈んでいく感じがした。
ルカ・メルシエという人は、すごく繊細で、美しいものを守りたかった人だったと思われる。
ホテルの設計やコンセプトを見ても、それがすごく伝わってくる。
あの空間はたぶん…彼の人生そのものだったんだろう。
それだけに、最後にあのような結末を選ばざるを得なかったというのがとても辛い。
きっと何度も我慢し、何度も許したんだと思う。
でも、それでも変わらなかった人たちに、彼はとうとう《魂を燃やす》事以外考えられなかったのかもしれない。
遺書を読んでいて、一番苦しかったのは【どうかあの子を罰しないでください】という一文だった。
シャンデラと一緒に過ごした時間がどれほど大切だったのか、どれほど信頼していたのかがすごく伝わってきた。
シャンデラが今も毎晩、空を見上げて彼に思いを馳せているかと思うと泣けてくる。
多分あの子にとってもルカが全てだったんだと思う。
きっと本当はともにまだ生きたかっただろうに、それでも彼から、きっと笑顔で最期のお願いをされて…
いったいどんな気持ちで彼の魂を燃やしたのだろうか。
傷もなく安らかに眠る彼の事を考えると、優しく葬ったんだと思う。
その後、保護されるまで彼の側にずっと佇んでいたのも…やはり受け入れられなかったのではないだろうか。
真面目な人ほど時に全てがどうでもよくなり、心が疲れ果ててしまう瞬間がある。
妻を亡くし、それでも思い出の詰まったホテルを大事にして、生き続けたルカ…
彼はその一線を超えてしまっただけだったんじゃないかと思う。
やったことが正しいとか、間違っているとか、そういう判断をする気にはなれない。
ただ、青い炎が今も誰かの心に残ってるなら、それはまだ彼が誰かに想われてるってことなんじゃないかと思った。
忘れ去られるより、きっとずっと幸せだ。
ホテルはもうなくなったけど、彼が守ろうとしたモノは今もどこかに漂っている気がする。
構事件録
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