【解決済】強制された終焉

発生日時:1928年3月
発生場所:カントー地方・タマムシシティ
関与ポケモン:ゴチルゼル(1体・トレーナー所有)
関与人物:サエグサ・ゴロウ(医師/逮捕)


【解決済】強制された終焉

1928年3月、カントー地方の商業都市《タマムシシティ》で夜ごと石畳の街路にふらつく人影が現れ、誰の呼びかけにも応じずにただ歩みを続ける姿が幾人も目撃された。
また、同時期に市内や周辺の路地裏など人の寄りつかない山道で不可解な死体が相次いで発見されるという二つの異常な出来事が重なっていたという。
人々は当初これらを別々の事件と考え、ふらつく人々は単なる心神喪失か泥酔者であり、散発する変死は盗賊や不慮の事故によるものではないかと噂したが後に両者が密接に繋がっていることが明らかとなり、背後に潜む冷酷な実験の存在が暴かれたことで町全体が恐怖に包まれた。

発端となったのは一人の男性が数週間にわたり面会も許されず消息も知らされなかった入院中の恋人を夜の石畳で目撃したことだった。
彼女は目は虚ろで、白衣を纏ったまま無言でふらふらとしながらも明確な目的地があるかのように真っすぐ歩みを進めており、必死に呼び止めても反応はなく、彼女はそのまま人通りの絶えた路地へ吸い込まれるように進んでいった。
そのまま追いかけると彼女は唐突に立ち止まり、所持していた木の棒で自ら首を貫き、穴に指を突っ込んで引き裂いて辺り一帯を血で染めながら絶命した。
恐怖と動揺に苛まれた彼はその場を叫びながらあとにし、通行人に助けを求め、その場で警察へ通報し、彼女が通っていた病院名を告げたことで捜査の焦点が定まっていった。

その後警察は町の一角にある精神病院を訪れ記録を照合したところ、これまでに発見された死体の多くが同院に入院、または通院していた患者であることが判明した。
こうして病院全体が疑いの中心となり警察は本格的な捜索を開始する事となった。
そして判明したのはこの病院は表向きは清潔で静謐であるが、地下へと続く隠された階段があり、その先へ進んだ捜査員たちが目にしたものは地獄のようなこの病院の真の姿であった。

窓ひとつない地下室には粗末な寝台が並び、拘束具や鎮静用の器具が散乱し、机の上には無数の記録簿と血の付着した衣服が積み重ねられていた。
図表には患者ごとの脳の反応や精神の崩壊過程が細かく記録されいかに計画的に《観察及び実験》が行われていたかが示されていた。
さらにその中央には院長の所有する《ゴチルゼル》が虚ろな瞳を真っ直ぐに前へ向けながら捜査員へ何も反応を示さずまるで魂が抜けているかのように立っていたという。

押収された記録により入院患者たちは投薬により意識を鈍らされた後、ゴチルゼルの精神干渉を受けて幻聴を植え付けられていたことが明らかになった。
曰く《完成》すると患者たちは意思を奪われて頭の奥から響く命令に従い街へと徘徊し、自ら思う人の寄りつかない《廃棄場所》へ進むとそこで自死するようにされていたという。
これら残酷極まりない実験を院長である【サエグサ・ゴロウ(54)】が行っており、彼はゴチルゼルの力を使って患者が命を絶つまでの過程を映像に映し出すことにより詳細に記録し、精神がどの段階で崩壊し完全に思い通りに使えるようになるかを《研究》と称して追い続けていた。

その後サエグサは逮捕され取り調べでは【あらゆる生物の意識を支配する】という思想に取り憑かれ、己の行っている事は必ずいずれ理解され、必要となると目を輝かせていたという。
裁判の場で彼は一切悔意を示さず、終身刑を言い渡され医療の名を借りた冷酷な実験は幕を閉じた。

ゴチルゼルは保護されたのち専門の施設で隔離された上で治療を受けたが改善の兆しは見られず、その後どのような処遇が下されたのかを示す資料は残されていない。
石畳に響いた無数の足音と囁きは町に消えぬ記憶を刻み、人々は今も花を手向けて亡き者を悼み静かな祈りを捧げ続けているという。

――文・【フカザワ・アヤカ】(カントー怪奇事件調査班)


【管理人の感想】

徘徊する人々も地下に残された記録の数々もただの異常行動や冷酷な研究の痕跡だけではなく、一人ひとりの命の尊厳が崩されていった証そのものだと感じる。
平和な街の中で誰にも気づかれぬ事無く繰り返しそのような恐ろしい実験が行われていた事には何よりも恐怖を覚える。

また、ゴチルゼルの事を考えると複雑な感情が湧いてくる。
ゴチルゼルが人をコントロールしていたのは間違いないが、ゴチルゼルそのものも既にどこか壊れてしまっていたのではないだろうか。
人間の野心や歪んだ欲望に巻き込まれただけではなく、もしかしたら薬物などを使用されていた事から《改善の兆しを見せなかった》という結末に至ってしまったのではないかと考えられる。

加害者となった医師の言葉には科学への執着を超えた自己陶酔が表れており、悔意を示さず自らの正当性を語り続けた姿は歪んだ知識や研究が人の心をどこまで狂わせ得るかを示す一つの例であると感じる。
彼が終身刑という形で裁かれたとはいえ残された遺族や地域の人々にとっては償いなど到底果たされないのだろう。

石畳に花を手向ける人々の行為は亡くなった命を悼むと同時に事件を忘れないという誓いでもあるように映る。
街に染みついた静かな祈りが消えずに続いているという事実はこの出来事がただの過去ではなく今も地域の記憶の中で生きていることを物語っている。

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