発生日時:2004年11月
発生場所:パルデア地方・ベマリナ海沿岸
関与ポケモン:ランクルス(1体・野生)
【解決済】静かなる抱擁
2004年11月、パルデア地方ベマリナ海沿岸にある廃港区にて長らく水面下で続いていた違法ポケモン密輸に関与する一味の摘発が行われた。
数ヶ月にわたり複数の監視情報と物流データを洗い直した結果、港湾倉庫群の一角で《大規模な取引》が行われる可能性が高いと判断した警察はその深夜、強行突入に踏み切った。
倉庫のシャッターをこじ開け、中へ突入した警官たちが最初に目にしたのは暗く静まり返った倉庫内に浮かぶ1体の大きな影だった。
それは泡膜のようなゼリー質の体表に包まれた、通常の三倍ほど大きな《ランクルス》であった。
ランクルスはその腕に1人の少女を抱きかかえたまま、ゆっくりと警察達のほうへ視線を向けた。
少女は力なく抱きかかえられ、その顔は血色を失っており、うっすら開いた瞳は虚空を見つめていたため傍目から見ても既に死亡しているのがわかる状態だった。
異様な光景に皆言葉を失っていたが、一人の警察官が拳銃を取り出そうとした瞬間、ランクルスの目がわずかに光を帯びた。
次の刹那、先頭にいた警官2名が凄まじい勢いで吹き飛ばされ、そのまま背後のパトカーに叩きつけられた。
ランクルスがさらなる攻撃をすることを恐れた隊員達は即座にポケモンを繰り出し、応戦することとなった。
しかし、ランクルスが放ったチカラの奔流は異常なほどに強力で、繰り出されたポケモンたちは何も出来ないまま次々と倒されていった。
中にはエスパー対策を施している警察官とポケモンもいたが、同様に全く歯が立たず数秒で戦闘不能にされた。
ポケモンが全て制圧されると次に複数の隊員が宙に浮き上がり、首を絞められるような姿勢で空中に吊るされた。
その時、後方で必死に応援要請を行っていた隊員がおり、その声を聞いたランクルスがまるで何かを悟ったかのようにチカラを緩め、隊員達をそっと地面に降ろした。
戸惑いながら隊員達がランクルスを見上げていると、ランクルスはゆっくりと倉庫の奥を指さした。
その先に明かりを照らすとそこには《怯えた表情で身を寄せ合う6人の子供達》の姿があった。
それを見た一人の女性警察が考えるよりも先にランクルスの下を通り過ぎるように走り抜け、子供達の元へと駆けつけた。
その際ランクルスが何もしてこないことを確認した他の警察官も後を追うように続々と倉庫の奥へと突入した。
子供達は極度の脱水と栄養失調状態ではあったが命に別状はなかったという。
後に判明したことだが、みな行方不明者リストに記載されていた子供達で、今回摘発予定だった組織が《人身売買》にも手を染めていた事が判明した。
隊員が子供達を全員保護するのを見届けたランクルスは少女と共に何も言わずその場から姿を消した。
そしてその直後、保護現場から少し離れた倉庫の奥から血の匂いを感じ取り、隊員が奥へ進むとさらに衝撃的な光景を目撃した。
暗がりの中、内側から破裂したかのように変形し、肉や皮膚のほとんどが飛び散り、かろうじて胴体の骨だけが原形を留めている《17体分の遺体》が散らばっていた。
こちらも後の調査により全てが密輸と人身売買に関与していたとされる人物たちだったことが判明している。
連日ニュースでこの事件を取り上げていたところ、警察署に1本の通報が届いた。
通報者はランクルスと共に消えた少女の両親で『子供は帰ってきているから捜索する必要はない』というものだった。
曰く、事件発生翌日の早朝に家の呼び鈴が鳴らされて玄関へと向かった所、表に巨大なランクルスが浮いていたという。
最初は少し驚きと恐怖を覚えたが、ランクルスが抱えていた大きな布を手渡して状況は一変する。
そこにはブランケットに包まれ、体を綺麗にされた、既に亡くなっている娘の姿があった。
それを見て両親が泣き崩れると、ランクルスは静かに俯き、長い時間その場に立ち尽くしていたという。
両親が数々の疑問をランクルスに投げかけても一切反応を示さず、しばらくするとまるで存在していなかったかのようにその場から姿を消し、以降見ていないとのことだった。
ランクルスがなぜあの日倉庫に現れ、なぜ子供達を守ったのかは謎のままである。
ただ確かなのはあの夜、この海辺の町で一人の少女が命を落とし、それに関与した17人が無惨な死を遂げたということだった。
事件以降、ベマリナ海沿岸付近では警察とレンジャーによる合同監視体制が敷かれることとなり、防犯カメラも複数設置された。
それ以来ランクルスの目撃情報は一度もなく、同様の事件も一度として再発していないという。

――文・【エリック・マイヤーズ】(パルデア州警察協会記録課)
【管理人の感想】
警察が倉庫に突入する際にシャッターを破壊していたが、そのような事を行ってもなおランクルスは攻撃をせずただゆっくりと振り向いたのみであった。
もし警察官が拳銃を抜く素振り、すなわち《攻撃の意志》を見せていなければそのまま奥の子供達のほうへ案内されていたのではないだろうか。
ランクルスは彼らが《助けに来た人間》なのか、《たった今惨殺した犯罪者達の仲間》なのかを見極めていたのかもしれない。
ランクルスがいつからこの組織の事を知っていたのかはわからないが、少なくとも子供達を全員無事に帰したかったのは間違いないだろう。
なぜ少女が一人亡くなってしまったのかも不明ではあるが、ランクルスはそれを傍観していたのではなく、きっと助けに来た時には既に手遅れだったのではないかと思う。
倉庫内に残された17体の変形死体がこの事件を凄惨なものにしているが、やはりそれ以上に印象的だったのはランクルスが両親に娘を届けた事である。
守りきれなかった命に対する償いのようにも、あるいは最後まで寄り添おうとした意思のようにも見える。
多くは語られていないので不明だが、通報があったのは事件から数日後ということを考えるともしかしたら当初両親はランクルスが犯人の一味であると勘違いしたのではないだろうか。
つまり《届けてくれた感謝の言葉》は一度も発せられる事はなく、罵詈雑言と恨みつらみを浴びせたのかもしれない。
連日のニュースを見て、ランクルスが助けてくれた存在だと気づき、ランクルスと少女を探している事を知ったため通報したと考えると辻褄も合う気がする。
助けることができず、人の言葉を理解できるランクルスが黙って聞いていた時の気持ちを考えると苦しくなる。
ランクルスがその後一度も確認されていないというのも、もしかしたら人間と関わるのが嫌になってしまったからなのかもしれない。
構事件録
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