発生日時:2021年3月21日
発生場所:カロス地方・パルファム大学美術学部棟 地下回廊
関与ポケモン:ドーミラー(疑い)
【未解決】鏡に残された指紋
カロス地方有数の伝統校【パルファム大学】。
その広大な敷地の一角、美術学部の地下にはかつて展示会場として使用されていた《回廊展示室》がある。
現在では学生の通行用にのみ利用され、特に深夜帯は人の気配がほとんどない静かな場所だ。
だが2021年春、そこに設置された《鏡の前で人が消える》という未曽有の異常事態が発生した。
事件が発生したのは3月21日午後10時10分頃。
美術棟での制作作業を終えた男子学生とその友人2人が最短ルートで帰宅しようと地下回廊を通っていた。
『俺達はただ早く帰ろうと思って通り過ぎただけなんです。
でも友人の方を向きながら喋ってる時にふと…
鏡の中の自分が微妙に遅れて動いてるのに気づいてしまって…』
そう語る目撃者の証言によれば、高さ2メートルを超える精緻なフレームに縁取られた鏡の中の自分の動きが《ほんの数テンポ遅れていた》という。
違和感を覚えた彼が立ち止まり手を動かすと、鏡像はまるで追いつこうとするかのように《遅れて》動いた。
さらに、瞬きをするたびに《鏡の中の自分が一度も目を閉じていない》ことに気づいた。
『まるで向こうにナニカがいて、それがこっちの真似をしてる感じでした。
ホント不気味ですぐ離れたかったんですけど…友人の一人がすごく興味津々で。
あいつ、こういう怪談とか都市伝説とか好きだったんで…
めっちゃテンション上がってたんですよ。』
好奇心旺盛なその友人が鏡の前でいくつか動きを試し始め、残る二人も彼が満足するまでその場に立ち止まり雑談して待っていた。
彼は鏡の前で数分間、身振りやポーズ、ライトを当てての反射テストなどを繰り返したという。
だがふと気づくと静かになり、その好奇心旺盛だった友人がその場から消えていた。
回廊内を見渡しても彼の姿どこにもなく、名前を呼んでも返事はなかった。
すぐに通報し、かけつけた大学警備と警察が調査をしたところ鏡に《四本指の両手の跡》が発見された。
それらは人間の指に酷似していたが指の本数が足りず、指紋の渦も不自然にねじれていたという。
指紋に触れることができず、それはあたかも《内側から押しつけられたように》存在していた。
その後、当該鏡の周辺では以下のような異常が記録された:
- 通路の照明が、人が近づくと一定のリズムで明滅する
- 鏡の前で立ち止まった者が『足元だけ映っていなかった』と証言
- 通路に設置された防犯カメラが、事故の数分前から断続的にノイズを記録
- 付近でスマホ撮影していた映像から異音が発生
これらの現象について専門家は【ドーミラー】が関与している可能性を指摘している。
ドーミラーは一部の古代遺跡で鏡像干渉を引き起こすとされており、強い精神反応を受けた場合鏡の《内と外》を接続してしまうという仮説も存在する。
ただし、この地下回廊において実際にドーミラーの姿が確認されたわけではなく、決定的な証拠もない。
事件発生から数日後、大学側は回廊の当該区域を完全封鎖し、鏡には黒布がかけられた。
現在もそこは立入禁止区域となっており、他のルートより遠回りになるため不便を感じる学生もいるが、それでも誰一人としてあの回廊を通ろうとはしない。
『不便なのは確かだけど、文句言うやつなんていないですね。
あの鏡の前を通るくらいなら、余計に10分かかったって構わないです。』
という学生の声もある。
消えた学生はいまだ発見されていない。
誰もが知っているが、誰も口に出さない《封印された通路》。
そこには今もなお、ナニカがこちらを模倣するように静かに待っているのかもしれない。

――文・【フタミ・サネ】(カロス地方特派ジャーナリスト)
【管理人の考察】
鏡像の遅延は《模倣者》の存在を示していたのか?
この事件の最大の違和感は、鏡に映る自分がリアルタイムで動いていなかった点にある。
通常の鏡は光を反射するにすぎず、映像の遅れなど起きるはずがない。
それが数テンポ遅れていたとなると、そこに映っていたものは《自分》ではなく《自分のふりをした何か》だったと考えるのが自然だ。
つまり、鏡面の向こう側にはこちらの動きを観察し、追従して模倣する《ナニカ》がいたという仮説が浮かび上がる。
一見すれば鏡でしかないソレも、もしかしたら別のナニカだったのかもしれない。
指紋痕が《内側》に存在した意味
鏡に残された痕跡は通常の物理的接触では説明がつかない性質を持っていた。
それは触れることができず、視覚的にのみ認識される《内側から押しつけられた》ような痕。
さらに、左右非対称で渦の歪んだ指紋は、模倣しきれていない存在の《ひずみ》とも読み取れる。
つまりこれは、完全には再現できなかった《偽の存在》の痕跡であり、同時に《境界を越えようとした意思》の名残とも考えられる。
好奇心が接続を生んだのか?
失踪した学生は、鏡に興味を抱き自ら動いて試し、何かを確かめようとしていた。
その強い意識が結果として《内と外》の境界を緩ませ、ドーミラーによる空間干渉の引き金となったのかもしれない。
ドーミラーが古代から《別世界へと扉を繋げる存在》とされていることを踏まえると別世界への干渉域が開いたのではないかとも思える。
【管理人の感想】
読んでいて凄く静かな恐怖を感じた。
派手な事件じゃないのにじわじわと怖くなってくるのは、きっとその違和感が日常に紛れているからだと思う。
鏡の中の自分が遅れて動く、瞬きをしない、そして消えたのは一番楽しそうにしていた友人…。
彼はあくまでも興味をもっただけだったはずだと思う。
怖がらずに、ほんの少しだけ不思議な現象を楽しんで、ちょっと試してみた…
その結果がこれだなんて、あまりにも理不尽で恐ろしい。
《怪異は好奇心を持つ人を狙う》というが、今回もその典型だったのではなかろうか。
それにしても指紋…手形が、内側からついていた描写がものすごく印象に残った。
その手は《彼》だったのか、それとも模倣された《ナニカ》だったのか。
今も鏡の中では《ナニカ》がゆっくりとこちらの真似をしながら、次の扉が開くのを待っているんじゃないかと思う。
構事件録
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