【解決済】狂気の聖水

発生日時:2019年11月
発生場所:カロス地方・ベルエールシティ
関与ポケモン:ドサイドン(1体・トレーナー所有)
関与人物:エティエンヌ・モロー(神父/消息不明)


【解決済】狂気の聖水

2019年11月、カロス地方北西部《ベルエールシティ》から徒歩十数分ほどのところにある《ルメル丘陵地帯》にひっそりと建つ古びた礼拝堂の地下にて夜な夜な儀式が行われていた事が発覚し、街が恐怖に包まれた。

事件の発端は旅の途中にこの地を訪れていた若い女性トレーナーが夜の礼拝堂を探索していた際に、祭壇奥に据えられた石像から淡い光が漏れていることに気づいたことだった。
その像を動かしてみたところ地下へと続く階段が現れた為、彼女は慎重に下っていくと奥から人の声がしたため身を潜めながら内部を覗き込むことにした。
すると暗い石造りの空間の奥では《エティエンヌ・モロー神父》が信者を集めて何らかの液体を飲ませながら異様な儀式が行われていたという。
液体を口にした信者たちは当初苦しみ悶え叫び声をあげていたがやがて一様に陶酔したかのような表情に変わり、その後自ら体を傷つけ血まみれになりながら狂ったように笑い続ける地獄の光景が広がっていた。

その異常な様子を目撃したトレーナーは危険を察して相棒のポケモンとともに地下の儀式場に飛び込み、信者たちを救い出そうと試みた。
しかしモロー神父は驚く事も怒る事もなく冷静なまま《ドサイドン》を繰り出し侵入者を排除するよう命じると再び儀式を再開しだした。
若きトレーナーと相棒ポケモン4体は必死の攻防を繰り広げるがドサイドンは彼女が今まで戦ったどのポケモンよりも強く、ものの数分で全て戦闘不能に陥り敗北に追い込まれてしまった。
戦闘が終わった事に気づいたモロー神父は儀式に用いられていた《聖水》の入った瓶を手にし、地に伏し怯える彼女のもとへゆっくりと迫ってきた。
その際彼女に一言だけ『キミにも神の声を届けよう』と発していた事が後の証言で明らかとなっている。

絶対説明のその刹那、激しい戦闘の衝撃音を聞きつけた近隣住民の通報により駆けつけた警察が階段を降りて現場へと突入した。
姿を現した警察官たちを目にしたモロー神父は一瞬驚いた表情をみせたもののすぐさま普段の冷静な表情に戻り、淡々とドサイドンに石室の壁や柱を破壊するよう命じて煙と粉塵が舞う混乱の中、一言も言葉を発すること無く奥の通路へと姿を消していった。

この時そこに居合わせた多くの信者たちは崩落に巻き込まれ、石材の下敷きとなって命を落とした。
2名の信者は救助隊の奮闘により辛うじて救出され、混乱の只中で奇跡的に命を取り留める事となった。
だが助け出された信者達の目は虚ろで意味不明な言葉を繰り返し口にしておりまともな証言を引き出すことは不可能であったという。

その後、警察は地下石室の残骸を徹底的に捜索し辛うじて原型を留めていた数本の瓶とわずかに残った《聖水》を押収した。
鑑定の結果その中身は《樹液》であることが判明したが既知の植物種には該当しない成分を多く含んでおり、これまで見たことのない種類の木から採取されたものである可能性が高いとされた。
さらに検査を進めるとその樹液には《複数のポケモン由来のDNAが混ざっている》ことが明らかとなり、意図的に何らかの方法で調合されたものであることが示唆された。
専門家はこの液体が強い幻覚作用をもたらす劇薬であり、摂取者を極端に興奮状態に陥らせつつ一種の催眠状態にさせる事から強制的に《神の声》を信じ込ませる効果を狙っていた可能性を指摘した。
警察と研究機関はこの調合の正体を追及したがどの樹木から採取された樹液か、またどのポケモンの遺伝物質をどの割合で配合したのかは解明できず詳細は闇の中に残されたままである。

ただひとつ確かなのは彼が信者たちを【神の声を届ける】と称してこの液体を無理やり飲ませ、半ば監禁状態のまま信仰心を狂信へと変質させていたことであり、その過程で多くの人命が失われたという事実である。
石室の崩壊によって全貌は明らかにならず、地下に広がっていたはずの通路も瓦礫に埋もれたまま調査不能となっており、逃走したモロー神父ドサイドンの行方も未だ分かっていない。
事件から数年が経過した今もルメル丘陵地帯にある礼拝堂跡は立ち入り禁止とされ周辺住民は夜になると誰も家から出たがらなくなったという。

――文・【クロード・ベランジェ】(カロス異常事件調査班)


【管理人の感想】

聖水と呼ばれていた液体を飲んだ信者たちが苦悶から陶酔へと変わり、自傷しながら笑い続ける姿は、人が信じる対象を誤った時にどれほど残酷な末路に辿り着くのかを突きつけられたと感じる。

警察が突入した際のモロー神父は冷静さを崩さず、信者の死を顧みる様子もなく、ただドサイドンに崩落を引き起こさせて姿を消した。
そこに人間らしい動揺や感情は見えず、容易に儀式の場も信者も淡々と切り捨てており最早どこか壊れているとさえ考えられる
彼にとって信者は信仰の証ではなく実験の駒に過ぎなかったのではないだろうか。

聖水の正体が《未知の樹液》《複数のポケモン由来のDNA》の劇薬であった事実は超えてはならない境界を踏み越えた禁忌の領域であり、それを宗教儀式の形で使用し信者を破壊していた事に恐怖を覚える。
生還した信者達は命は救われても心は戻らず、儀式は彼らを取り返しのつかない場所へ導いてしまったのだと考えるとむしろ命を落とした人々よりも残酷な運命を背負ったのではないだろうか。

宗教と科学、信仰と狂気、その境目が見えなくなった時にどれほど恐ろしいことが起こるのかを突きつける事件だった気がする。

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