発生日時:2003年5月
発生場所:シンオウ地方・クロガネシティ
関与ポケモン:ゴンベ(1体・野生)
【解決済】そこにいるキミ
2003年初夏、クロガネシティ中心部の再開発区域にある空き店舗のウィンドウガラスに《ガラス越しにだけ見える少年》が現れるという奇妙な噂が広まった。
目撃した住民たちによれば少年は決まって店内の奥に立ち、無表情のままジッと前を見つめて動かず、数時間経つとその姿は自然に消えていたという。
中に入っても誰の姿も見当たらず、振り向いたり歩いたりする様子もないため、まるで古い映像の断片が静かに投影されているような印象だったと語られている。
一見すると無害に見えるこの現象だが不気味なのはその《少年の姿》を見た複数の住民が同じ夜に高熱を出し悪夢にうなされたという点だった。
夢の内容には個人差があったがいずれも『閉ざされた部屋で身動きがとれず、自分自身と隣に立つ《ナニカ》に見下ろされているようだった』と語る者が多く、強い不安感や自己像の歪みを訴えていた。
翌日には熱は下がったが体験者のほとんどがその後はガラスの前を避けるようになったという。
この一連の騒動のあいだ、ほぼ毎日決まった時間に店舗前に現れていたのが1体の野生の《ゴンベ》だった。
午後になると現れては誰にも構わず、ただジッとガラス越しに店内を見つめ続け、少年の姿が現れてから消えるまでの間動かずに留まっていたという。
食べ物を探すでもなく、近くの人やポケモンにもまったく反応しなかったためその不自然な行動は一部の市民の間で静かに注目されていた。
周辺住民への聞き込みからもゴンベは数年ほど前から現れるようになり、毎日のように決まった時間にそこへ現れては変わらず同じように座っていた。
誰にも懐かず、興味も示さず、ただガラスの向こうを見つめるだけのゴンベの行動はまるで何かを待っていたか、忘れられない光景を見つづけていたかのようだったという。
調査が進む中、この店舗が10年前に発生した《少年の失踪事件》と関係していることが明らかとなる。
当時の記録によれば少年はこの店に入ったのを最後に行方が分からなくなっており、当時の店内及び周辺を捜索しても有力な手がかりは得られなかった。
だが、ガラス越しに見える少年の姿がその失踪した少年の服装や髪型と一致していたことが明らかとなり再度店内を捜索することが決定した。
その後結成された専門チームによって床下や壁の中まで徹底的に調査され、最終的には建物自体も解体されたが事件の痕跡は一切見つからなかった。
ゴンベは解体作業中にも現れたが、その時はいつもの場所で座り込まず、通りの向こうから呆然と立ち尽くして解体さされる様を眺めていた。
その後も連日、重機が建物を壊していく様子を静か見つめており、解体が完了するといつもの定位置に立ち、呆然と中を見つめながら数日、何も食べずその場に留まっていたという。
以降、ゴンベは一度も街に現れておらず、少年の姿も目撃されることはなくなり、更地となった元店舗はやがて駐車場へと変わり怪異は完全に途絶えた。
ゴンベが他の人同様《少年の姿》を見ていたのか、それとも《別のナニカ》が見えていたのかは不明である。
だが悪夢にうなされる人もいなくなり、街の人々も次第に話題にしなくなっていき、今は誰もゴンベがそこにいたことを思い出すこともなくなったという。

――文・【ナギサ・ヴァレリア】(シンオウ精神反応環境研究室)
【管理人の感想】
今となっては誰の記憶にも残っていないというのが静かに刺さり、切なくなる。
怪異体験は結局のところ自分自身が体験しない限りどこまでいっても《他人事》であり、忘れ去られるんだと思いしらされた。
ガラスの向こうをずっと見続けたゴンベだけは、今も終わった事件ではなく、どこかで向き合い続けているのかもしれない。
食欲旺盛なゴンベが食べ物にも反応せず、誰にも懐かず、座ってガラスを見つめていたというのは極めて異様な光景だと思う。
それほどゴンベを惹きつけ、縛り付けるほどの絆が少年との間にあったのか、それとも《ナニカ別のもの》が見えていたのか、その回答も得られないまま事件は風化してしまった。
捜索という名目で解体したのも、結局のところ10年も空き店舗になっていた事を考えると、オーナーとしても無料で処分できるのであれば喜んで引き受けたとも考えられる。
その後ゴンベが一切目撃されていないことを考えると、証拠も少年も何もかも、解体時に消えてしまったのだと思う。
果たしてそれが本当に最善策だったのか、もっとやりようはあったのではないかなど考えずにはいられない。
構事件録
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