発生日時:1985年7月
発生場所:カロス地方・ロゼールシティ
関与ポケモン:ダグトリオ(1体・野生)
【解決済】排斥された英雄
1985年7月、カロス地方《ロゼールシティ》で三日三晩の嵐が続いた事により街路は洪水で埋め尽くされ電力も通信も途絶え数千人の行方不明者を出す大災害へと発展した。
救助に訪れた多数の隊員がロゼールシティを囲う《ヴァロワ山脈》の稜線で足止めを余儀なくされる中、三日目の夜中にかけてヴァロワ山脈の一部が崩れ、巨大な岩石と粘土質の土砂が谷筋へ奔り出し、土砂崩れと濁流は市街地中央に開けた石畳の広場へ直進するかに思えたが、突如地鳴りを伴って弧を描きながら広場を外して周縁の家屋を巻き込みながら下流で扇状に力を失うというありえない軌道を描くのを目撃した。
その後雨脚は衰え、夜明け前には待機していた救助隊がヴァロワ山脈を超えて市域へ進入し、医療班と土木班が散開して排水路の仮設と負傷者の搬送を同時に進めた。
広場はほぼその形を保っている一方で広場を避けるように出来た二本の巨大な溝から流れ込んだ大量の土砂や樹木が辺り一帯の家屋を全て破壊しており生存者は他のエリア以上に絶望的であるのが一目で分かる状態であったという。
街から洪水が引いた数日後に改めて溝を地質班と測量班が確認すると数か所の巨大な穴がが段差を刻むように開口しており、一部の樹木等が下まで流れずそこに吸い込まれていた痕跡が確認された。
重機で樹木等をどかし、穴の内部へと進み中を確認すると各穴は浅層で合流し同一方角に伸びていたため後日改めて護衛用にポケモンレンジャーが参加した調査チームが組まれて穴の出口を目指し進むとヴァロワ山脈の中腹の崖沿いに至り、壁には人の背丈を二つ重ねてもなお余裕のある巨大トンネルが発見された。
トンネル内部の空気は湿り気が少なく床には乾いた土粒が細かいうねりを作っており、ところどころに新しい盛り土が見られ《ナニカ》が現在進行形で生息していると判断し、ポケモンレンジャーをはじめとする最小限の人員で奥へ進むことにした。
程なく進むと暗闇の中に動く影を発見しライトを当てるとそこには一体の《ダグトリオ》が佇んでおり、隊員が声をあげようとした次の瞬間には目にも止まらぬ速さで地中へ潜り、1秒もしないうちに隊員の目の前に再度出現したため、それに驚き数人が腰を抜かす事となった。
それを見たダグトリオは心配するように寄り添い、立ち上がれるように自らの身体を支えとして使えるように差し出したのを見て人間にとても慣れており尚且つ攻撃意思がないと判断され、レンジャー隊員が携行していた登録照合機で反応を確認すると数年前までトレーナー所有だった個体である事が確認された。
そのトレーナーはロゼールシティの元住人で数年前に死亡していることが後の聞き込みにより判明している。
彼らはいつも広場で昼下がりに並んで過ごしている姿を多くの市民が記憶しており、またトレーナーが亡くなる数日前にダグトリオを手放して野生へ返し、以降ヴァロワ山脈に棲みついていたことがわかった。
その後、救助隊が目撃した嵐の最中に発生した異常現象はダグトリオが広場を守るために掘削した事により発生したと断定し、ダグトリオが街への被害を抑えてくれたことを住民へ広く報せていった。
それを聞いた人々の多くはダグトリオのおかげで街は救われたとして喜び、山裾で心配そうに街を眺めるダグトリオを見かけた住民が歓迎し、子供達が広場前にできた巨大な溝へ花を一輪ずつ挿していくような微笑ましい光景も生まれ悲劇に見舞われたロゼールシティに一時的に活気と笑顔が戻った。
だが、数週間ののち再建計画が公表され立ち入り禁止区域の拡大や仮設住宅での長期生活が避けられないと知れ渡るにつれて住民は不満を募らせていき、やがて行き場のない怒りと不満は『もっと早く守れたはずだ』や『別の場所へ流すべきだった』という避難の言葉となりダグトリオへと向けられていった。
責を負わせる先を必要とする人々と行為の帰結を受け止めようとする人々が争いを始める中、仮設住宅や移転反対の座り込みのデモが発生し工事は滞り、やがて直接ダグトリオへ罵声を浴びせ石を投げる者とそれを止めようと殴りかかる者なども現れ、その争いを見ていたダグトリオはある日を境にふいに姿を消した。
ダグトリオへの不満と怒りが残っていた過激な一団が夜の山へ分け入ってダグトリオの巣であったトンネルを荒らし、新たな住処を探したが一向に見つからず徐々に感情が収まっていき、それを聞いた感謝を口にしていた住民達が交代でヴァロワ山脈で一ヶ月以上に渡り捜索したがその姿はどこにも無く、ここに来てようやく街は取り返しのつかない事をしてしまった事に気づいた。
その後、デモ活動は終わり住民は市の指示に従うようになったため、秋のはじめには再建の方針を改めて示し避難計画の流れを一本化して仮設住宅の増設と生活導線の確保を急ぎ、冬の到来前に全世帯分の居室を整え、翌春から段階的な宅地造成と河川改修に着手していき、災害から1年後の夏には市街中央の広場に記念樹と小さな石碑が置かれ、石碑には現れなくなったダグトリオとかつての伴侶の名が刻まれており、市民の憩いの場として今でも活用されている。
災害から15年が過ぎた頃、ロゼールシティはかつてより発展し様々な商業施設やビルが立ち並び再び人々で賑わい、かつての災害の痕はほぼ見受けられなくなっている。
住民の多くは今でも再びダグトリオが現れてくれる事を願っており、次こそは街一丸となってダグトリオに感謝の気持ちを伝え、迎え入れたいと考えているという。

――文・【アデル・ルフェーブル】(カロス災害記録調査会)
【管理人の感想】
自然の猛威が街を飲み込む時、人の力では到底及ばないことを改めて痛感させられた。
だがその最中でかつて人と暮らしていたダグトリオが記憶に刻まれた広場を守ろうと必死に立ち向かった事実には胸を打たれるものがある。
野生へ戻ってもなお、大切な人と過ごした時間を忘れずその思い出の場を命懸けで守ろうとした姿は災害の恐ろしさと同時にポケモンの愛情と忠義深さを示していたのではないだろうか。
それにも関わらず人々がやがて恩を忘れ不満の矛先としてダグトリオに不満をぶつけ、理不尽に責め立てる姿はたとえ災害で苦しんでいたとしてもあまりにも哀れで醜悪であったように感じられる。
生き延びられたことを奇跡と受け止めるよりも、失ったものへの怒りを投げつけるしかできなかったその悲しい姿を見せつけられたダグトリオが街を離れたのも当然の結末だった気がしてならない。
ただ、それでも街は再建されていきやがて石碑には英雄の名が刻まれた。
人々の暮らしは立ち直り、今では活気に満ちた都市へと姿を変えている。
これらは喜ばしいことではあるがその裏にある愚かさを思えばどうしても複雑な気持ちになる。
ダグトリオが再び現れてくれると願う住民の声も聞かれるがそれはどこか的外れのようにも感じられる。
自ら追い出した存在を都合よく『また戻ってきてほしい』と望むのはあまりに身勝手ではないだろうか。
それでももし本当に戻ってきてくれるなら、それは街にとって救いであり、新しい関係を築く最後の機会になるのかもしれない。
願うだけではなく戻ってこれるような環境を作り、今度こそ感謝と敬意を持って迎え入れられるかどうか…その姿勢が問われ続けている気がする。
構事件録
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