発生日時:2010年4月
発生場所:カントー地方・ニビシティ
関与ポケモン:サイホーン(1体・野生)
【解決済】崩落の後に残る平穏
2010年4月、カントー地方《ニビシティ》で 深夜の住宅街に単発の強い衝撃音が響き、起床した住民が外を確認すると解体工事中だった商業ビルが輪郭を失い、敷地は街路灯の光に照らされた白い粉塵に覆われているのを目撃した。
相次ぐ通報により警察と消防およびポケモンレンジャー隊が数分で現場に到着し、人の流入を抑えるため周辺道路を即時封鎖しガスや送電の遮断手順を確認してからビル跡地の中央へ進入するとレンジャー隊員が崩れた瓦礫の奥に《ナニカ》の影を視認し、ヘッドライトを当てながら距離を保ちつつ近寄るとそこには1体の《サイホーン》が月明かりの方向へ頭部をわずかに向けたまま静止していた。
サイホーンは光を当てられても微動だに反応を示さず終始落ち着いた状態で、目立った外傷も見当たらず威嚇や突進の兆候は一切観測されなかったという。
隊員は緩衝マットを展開して足場の鋼材を踏み抜かない導線を作り、サイホーンの角に保護カバーを装着し頸帯と簡易ハーネスで固定してから声と手振りの合図で微速の後退誘導を行い、そのまま特殊合金のフレームで覆われた収容檻へ収納し、その後クレーンで台車へ吊り上げて搭載し揺れを抑えるベルトを複数追加した後《ニビポケモン保護センター》へ搬送した。
対象のビルは外壁と内装が撤去され柱と床のみの躯体で足場と養生は前日に外されていた事から垂直方向にのみ崩落し層状へ沈下して瓦礫等は全て敷地内に収まり、離隔を確保していた街路側のガラスは破損を免れ粉塵付着のみに留まった。
また、近接する店舗看板や停車車両にも顕著な被害は認められず電線やガス管の圧力にも異常は出なかったという。
その後の現場検証では市西端の丘陵からビル周辺のアスファルトへ連続する浅い削り痕が確認され、ガードレールや境界杭は進行方向へ倒伏していたことからサイホーンが市外から直線的に進入したことが確認された。
サイホーンは通常、移動時には直線的に進む傾向が強く、急旋回は愚か少し転回するのも苦手とする特性が知られており、西側丘陵の固い地盤の踏み跡が解体敷地の開口と一直線につながっていた状況と相まって骨組みに正面から接触して内部を押し進め床版を次々と落とし敷地中央で停止したと断定された。
なお、ビル周辺の防犯カメラでもぼんやりとサイホーンが歩いている姿が映っており、カメラの死角に消えた数分後には激しい揺れと共に粉塵が立ち上がる様を捉えているのが確認されている。
搬送後の診察では外傷のみならず皮下出血などの怪我も一切なく、極めて健康体であったことから一時的な鎮静と採血検査を経てから短期の経過観察ののち市外の低地へ放逐されることとなった。
だが、その後サイホーンは繰り返し夜間に郊外の空き地や倉庫壁面に現れたため事故が発生する前に再度捕獲し、以降は保護対象に切り替え起伏のある広い土場と土系路面を備えた保護施設で生活することとなった。
解体中の建物は再建用途が未定であったため今回のことをキッカケに所有者と市は協定を結び、敷地を公園化し残存材は表面処理のうえベンチ脚や遊具基礎へ再利用し、公園中央には噴水と事件について記載された文字岩を設置して野生ポケモンとの接し方の記録を残した。
その後数年かけて樹木を段階的に植え込んでいき、災害時の一時集合の導線を合わせて整備した結果、現在では日中に多くの児童や高齢者が利用できる憩いの場として活用されている。
市は本件を災害対策資料に編入し、夜間の警備方針の見直しや防犯カメラの増設を行い警察・消防・レンジャー間の初動連絡系統や道路封鎖手順を訓練で共有していった。
以後、夜間の静穏は保たれており、野生ポケモンと適切な距離を保ちながら街は平穏に包まれていった。

――文・【シライシ・サエ】(カントー都市災害調査班)
【管理人の感想】
サイホーンがまっすぐ進む性質を持つことは広く知られているがその単純さゆえに街と衝突することになったのはある意味で当然の結果だったのかもしれない。
解体中の建物に突入してしまったのも視界に入っていても避けようとすら思わないその特性の延長線上にあったのだろう。
ビル崩壊に巻き込まれたにも関わらず外傷もなく落ち着いたまま収容された経緯を見ると、サイホーンにとってそれは決して特別な事ではなく、偶然の歩みによって巻き込まれた出来事であり、急に空が明るくなった事の方が興味を惹かれたのかもしれない。
その後も夜間に何度か街の端へ現れたという記録からサイホーンの中ではすでに街の一部が自身の移動経路に組み込まれてしまっていたのではないだろうか。
直進するのみであるがその習性から意図せず同じ道を繰り返す要因となり、それが新たな事故を招きかねない状況を生んでいたため行動そのものは単純でも街にとっては予測の難しい脅威となり得たことが浮き彫りになっている。
やがて警備が強化され保護対象として施設へ迎え入れられた事は都市が野生ポケモンとどう折り合いをつけるべきかを示しているように感じられる。
過剰に恐れるのではなく、互いに適切な距離を保つための工夫を重ねることが重要だということだろう。
最終的に敷地は公園として再整備され人が安心して集える場となったが、1つの衝突から学びを残し静けさを取り戻したその姿には穏やかな循環のようなものが感じられた。
構事件録
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