発生日時:2022年11月
発生場所:ホウエン地方・キナギタウン郊外
関与ポケモン:バリヤード(1体・トレーナー所有)
関与人物:ロウ・サクマ(研究者/死亡)
【未解決】断絶された宿
2022年11月、ホウエン地方【キナギタウン】の南端に広がる海岸林地帯でかねてより人気の高かった小型ロッジ型宿泊施設の一棟にて極めて異常な状況が発生した。
事件の発端は数日前からそのロッジに滞在していた者達の家族や友人から『連絡が一切取れなくなった』という複数の通報が相次いだ事であった。
その後地元警察が現地に急行したが問題のロッジには《物理的に近づけない》という奇怪な現象が確認された。
視覚上はロッジは確かに眼前に存在していたが一定の地点から先に進もうとすると気がついたら反対側、もしくは同じ場所で《ロッジに背を向けて》立っており、まるで《ロッジごと空間が消失している》か、《映像が映し出されている》かのような不可解な現象だった。
加えてロッジにいくら近づいても内部の音は完全に遮断されており、どのような手段で呼びかけても応答はなく現場の隊員の多くが動揺を隠せなかったという。
ホウエン地方警察はポケモン研究所に在籍する《亜空間研究員》を現地に派遣し、ポケモンの技や最新機器による特殊光波観測、念波解析など複数の手段で調査を試みたがいずれも効果はなく、進展のないまま数日が経過した。
ところが通報から6日目の早朝、突如としてロッジにかかっていた《空間の障壁》が消失し、まるで最初から何もなかったかのように自然にドアへと近づけるようになった。
直後、現場に待機していた警察と救助隊が即座に突入すると想像を絶する光景を目の当たりにした。
まずはじめに隊員の目にとまったのはロッジのリビングスペースに《20cm四方の立方体の肉塊》が床に積み重ねられており、血液と体液の乾いた痕跡が部屋全体を覆っていた事だった。
部屋の奥には一脚の椅子があり、そこには《顔がえぐれるように削れた》男性が腰掛けて死亡していた。
側にある小さなテーブルには手書きの遺書が封筒に収められており、後に彼はロッジに同行していた民間研究団体《パスアーク研究連盟》の調査主任である【ロウ・サクマ】と確認された。
その後、警察が回収した遺書と現場に残されていた複数の実験記録ノートによって事件の全容が部分的に明らかになった。
それによればロウ・サクマは長年同行していたパートナーのバリヤード、そして《山中で偶然出会った《ナニカ》》と称される存在と共に【空間を切り取って固定する技術】の研究を行っていたという。
実験の一環としてこのロッジを選び、自らと関係者数名をともに閉じ込めた状態で隔絶空間の維持と時間経過への影響を観測していた。
だが、結果的にその空間は外界との時間軸すらも遮断し、外ではわずか数日でも中では《20年》に相当する時間が経過していたことが判明。
実験記録によると初期段階でバリヤードと同行者たちは《ナニカ》の干渉により《立方体状の肉片》に変形され、《その状態でなお10年以上生存していた》と綴られていた。
サクマは彼らと暮らしながら実験の継続と解除手段の模索を続けたが、彼らが次第に何の反応も示さなくなり、そこからさらに10年孤独に過ごしたという。
絶望に苛まれていたある日、物言わぬ《ナニカ》が突如としてサクマに接近した。
彼は死を直感しその最期の瞬間を綴ろうとしていたが、以降は判読不能であったため何が起きたのかは不明である。
事件後、公表されたのは以上の概要のみで実際に用いられた空間切断技術の詳細や《ナニカ》の正体については一切が非公開とされた。
しかし一部の研究者からは数年前イッシュ地方【セイクリフタウン】で起きた《少年が立方体で発見される事件》と極めて類似した立方体であったことから、《空蝕》と同一の《未知のウルトラビースト》が関与していた可能性が高いとの指摘もなされている。
ロウ・サクマが遺した技術や知見は現在もいかなる研究機関にも引き継がれておらず、ロッジ跡地は現在も封鎖され訪れる者はいない。

――文・【杉森 慎太郎】(ホウエン時空境界災害研究室)
【管理人の考察】
異なる空間へ誘われたロッジ
ロッジ周囲で起きた《物理的に近づけない》という現象は空間そのものの構造が通常の三次元的連続性から逸脱していた可能性を強く示唆している。
視覚的には存在するが接近すると反対側へ出てしまうという報告からも《空間が折り畳まれた》かあるいは《同一座標に何らかの転送干渉が発生していた》とも考えられる。
音すら届かないという事からもこれは《干渉不能な断絶空間》が意図的に形成されていたことを意味しており、《ナニカ》の影響下、管理下にロッジ全体が置かれていたと見て間違いないだろう。
《誰が》実験をしていたのか
ロウ・サクマの遺した記録から読み取れるのは当初このロッジを《観測実験の場》として選定した明確な意図である。
自らも閉じ込められ空間維持技術の応用を図っていた点は明らかに制御の確信があったことを示す。
だが、関係者や相棒のバリヤードまでもが《生きたままキューブ化》されたという異常事態を見る限り、実験は早い段階で破綻していた可能性が極めて高い。
そもそもサクマ自身が《ナニカ》の観察対象または実験対象とされていたのではないだろうか。
長期間の観察の意味
外部からは6日、内部では20年という時間のズレは空間とともに時間軸までもが歪められていたことを証明する。
このような現象は既知のポケモンや技術では説明できず、やはり《未知のウルトラビースト》との関連が強く疑われる。
サクマは記録の中で【キューブ状の彼らは10年以上も肉片のまま生きていた】と書き残しているがそれは単なる物理変形ではなく、意識を保ったまま存在の形状を維持するという恐るべき干渉を意味している。
こうした変質が何を意図したものかは定かでないが、《観察と保存》の意図があったと考えられる。
顔を失った死と最後の瞬間
サクマの死は《顔をえぐられていた》という異常な状態で発見されている。
この点は単なる自殺や衰弱死とは明らかに異なり、《ナニカ》による殺害だったと考えられる。
生前の彼に接近したという《ナニカ》が最期に何を語り、何を行ったのかは記録が途絶えており不明だが《観察の終了》もしくは《記録の抹消》を意味していたのかもしれない。
《空蝕》との関連
《空蝕》や《セイクリフタウン事件》との類似性は単なる偶然とは言い難い。
同一存在あるいは同一種の《未知のウルトラビースト》の影響と見るのが自然だろう。
問題はその《ナニカ》が《観察者》として行動しているのか、それとも《直接実験を行っている》のかという点にある。
もし後者であれば遭遇した時点で避けることも理解することも不可能に近く、今後同様の事象が再発した場合にも人間側に為す術は存在しないのかもしれない。
サクマの研究の継承が絶たれているため、今後第2、第3の災害を意味しているのかもしれない。
構事件録
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