【解決済】蝶が舞う毒泉

発生日時:2011年2月
発生場所:シンオウ地方・アペマレウレウ山麓
関与ポケモン:ビビヨン(複数・野生)
関与人物:タカギ・マモル(温泉経営者/逮捕)


【解決済】蝶が舞う毒泉

2011年2月、シンオウ地方北東部に位置する《アペマレウレウ山麓》の観光名所として人気を集めていた温泉郷《アペマレウレウの湯》で入浴中の複数の利用者が皮膚の異常を訴えはじめる事件が発生し、62名が病院へ搬送される事態となった。
彼らの皮膚には激しい紅斑や水疱、ただれのような症状が現れ、一部の患者は皮膚の壊死や全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症。
うち8名は重度のショック状態に陥り集中治療を受けるなど事態は深刻なものとなった。

被害者の多くが口を揃えて語ったのは温泉に入浴している最中に空一面を覆うように現れた《ビビヨンの群れ》の存在であった。
無数のビビヨンが湯けむりの上を優雅に飛び交う光景に観光客たちは最初こそ歓声を上げていたが直後から皮膚に異常なかゆみや灼熱感を覚え始めたという。

当初は温泉水に混入した化学物質の可能性が疑われたが詳細な調査により原因は《ビビヨンの鱗粉》に含まれる成分であることが突き止められた。
通常ビビヨンの鱗粉は微細なアレルギー反応を引き起こす程度のものとされているが今回検出された鱗粉には高濃度の神経毒性物質と炎症誘発物質が含まれており長時間皮膚に付着した場合深刻な皮膚障害や中毒症状を引き起こすことが明らかになった。

警察および環境調査班による追跡の結果、温泉から北に数百メートル離れた山道の途中にある小さな丘陵地帯で異様な光景が発見された。
そこには《バスケットボールほどのサイズを持つ布製の袋》がいくつも木々の間に吊るされており、その周囲には大量のビビヨンが群がっていたという。
化学分析の結果袋の中には《ビビヨンを強く誘引するフェロモン成分》が高濃度で含まれており、これが群れを局所的に集中させていたことが判明した。

さらに捜査の過程で温泉の経営者【タカギ・マモル(58歳)】がフェロモン袋の設置を自ら行っていた事実が明らかとなる。
タカギは逮捕後の取り調べで自身の動機について次のように供述している。

かつて客足が低迷していた時期に上空を通過したビビヨンの群れを偶然撮影した宿泊客がその映像をSNSに投稿したことで温泉は一躍話題となり一時的に客足が回復したが、ビビヨンは極稀にしか同じ場所を通過しない事が発覚。
再び客足が遠のくことに焦りを感じていたタカギは自ら山に分け入り群れが集まる木を見つけ、その樹液を抽出しフェロモンとして使用し始めたという。
しかし成分調査の結果、高濃度の樹液とそれを包み込むために使用した素材が化学反応を起こし、長期間触れているとビビヨンの鱗粉に猛毒が含まれるようになる事が判明。
タカギは毒性については『全く知らなかった』と供述しており、あくまでも集客目的であった事と反省の意を繰り返し口にした。

事件発生後《アペマレウレウの湯》は即座に営業を停止。
保健当局および環境保護団体の指導のもと周辺地域は徹底的な除染と毒性の再調査が実施された。
鱗粉は空気中や地面、水質に微量ながら長期に残留することが確認されており安全性の評価には数年を要する結果となった。

そして5年後、安全が確認されたことを受け地元自治体は再開発計画を進め新たな運営会社による温泉施設の再開が実現した。
しかし、ビビヨンの群れが舞う幻想的な風景を目的に訪れていた客層は戻らず、過去の事件がもたらした負のイメージも根強く残っていたため開業からわずか18ヶ月で経営破綻。
以降その土地は再び放棄され現在も利用されていないままとなっている。

シンオウ地方では近年観光地におけるポケモン利用や装飾演出をめぐる安全基準の見直しが強く求められており今回の事件はその象徴的な転換点となった。

――文・【神谷 仁志】(シンオウ環境リスク対策研究所)


【管理人の感想】

空に舞うビビヨンの鱗粉がここまで強い毒性を帯びるなどという例は過去にも例がないのではないだろうか。

光を反射して広がる群れの姿はただ見ているだけなら幻想的ですらある。

だがその美しさに見惚れていた人々が次々と重篤な病に冒された事実はその幻想がいかに危ういものであったかを物語っている。

経営難に直面し一時的な成功に味をしめた末の行動だったとしてもタカギの判断にはやはり無理があったと考えられる。

もともと悪意があったわけではないにせよ客の反応に安堵しながらも徐々に逸脱していった過程には危うい人間の心理が透けて見える。

ビビヨンという野生の存在を人の都合で操ろうとしたことの代償としてはあまりに大きすぎた。

事件後に温泉地は再開発されたがそれも長くは続かなかったというのは致し方ない事なのかもしれない。

その背景には《もう一度やり直せる》と誰も本気では信じきれなかったのではないだろうか。

《ビビヨンの群れ》という幻想は確かに人を惹きつけたがそのあとに残されたのは癒しとはほど遠い《毒の痕跡》だけだった。

観光、自然、そしてポケモンとの共生とは何か。

その問いを強く突きつけられる重く静かな事件だったように感じる。

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