発生日時:1972年12月
発生場所:カントー地方・ナナシマ7のしま
関与ポケモン:ヒノヤコマ(1体・トレーナー所有)
関与人物:マコト・タチバナ(無職/逮捕)
【解決済】還らぬ者照らす業火
1972年12月、カントー地方南方に位置するナナシマ群島のひとつ《7の島》の港で深夜に倉庫火災が発生した。
通報を受けた消防団と地域住民の協力により火は日の出前には鎮圧されたものの倉庫3棟が全焼し、周辺に停泊していた小型漁船数隻も炎に巻かれた。
幸い人的被害はなかったが地元の海運業者が保管していた大量の荷が失われ、損害額は当時の金額にしておよそ6億8000万円にのぼった。
火災後の現場検証で警察と専門調査官による調査が行われた結果、火元となったのは海側倉庫の出入り口に置かれていた《燃え尽きた謎のオブジェ》であり、近くにあったオイル缶へ引火したため被害が拡大したと判明した。
オブジェは原型を留めていないため何かは判明しなかったものの、誰かが意図的に持ち込み放火したとして捜査が行われた。
その後捜査線上に浮かび上がったのは数カ月前から7の島に居着いていた元船員の男【マコト・タチバナ】とその相棒《ヒノヤコマ》であった。
島の住民によれば彼は昼間から酒をあおっては岸壁に座り沖を見つめる姿をよく見かけられていたという。
彼はいつもヒノヤコマを肩に乗せながら海をボーッと眺めており、島民が話しかけても反応を示さなかったという。
抵抗なく逮捕されたタチバナはその後静かに全てを語りだした。
話によれば彼の一人娘は5年前、船旅の途中で事故に遭い7の島近海で行方不明になっていた。
遺体は見つからず父親であるタチバナはその事実を受け入れられないまま時を過ごしていたという。
『灯りをつけてやりたかったんだ、あの子が戻れるように』と彼は呟いた。
火を灯せば暗い海の底からでも娘が父親の存在に気づくのではないか。
そう信じた彼は毎年娘の命日にヒノヤコマの放った灯火で港の一角を照らしていたという。
だが年々灯火の規模が大きくなっていき、1972年のこの日その炎はついに倉庫群へと燃え広がった。
彼は意図的な破壊を否定しあくまで【目印としての火だった】と語ったが損害の大きさと放火という重大性から最終的にトレーナー資格を剥奪され、実刑がくだされた。
事件後ヒノヤコマはすぐに保護されたが施設内の検査では異常行動は確認されず、訓練された通りの動作を忠実に行う賢さがあった。
その後数ヶ月にわたる専門家の観察ののちヒノヤコマは別の家庭に引き取られ新たなトレーナーと共に暮らすこととなった。
その家は島から離れた山間部にあり、かつて海を見つめていた鳥の羽ばたきは今では静かな森を温かく照らしているという。

――文・【ヤマサキ・レン】(カントー災害記録報道部)
【管理人の感想】
《灯りをつけてやりたかった》という一言には含まれる重い過去からタチバナの深い哀しみからおきた悲劇である事が痛いほど伝わってくる。
当然タチバナの取った行動は明らかに誤ったものであるがそこに悪意はなく、むしろ何かに縋るような祈りのようなものが感じられた。
港に立ち尽くして海を見つめていたのも、もしかしたら娘が《どういう形であれ》帰ってくるかもしれないという希望を待ち続けていたのではないだろうか。
誰にも相談できず、誰にも止められず、ただヒノヤコマと共に灯し続けたその行為は既に過去を取り戻すことなどできないとわかっていながら、それでも何かを繋ぎとめようとする最後の手段だったのかもしれない。
ヒノヤコマが新しい家庭で穏やかに暮らしているというのには少し救われた気持ちになった。
あの火は多くを奪ったがそれが誰かの恨みや怒りではなく、ただ一人の父親の祈りだったことを思うと哀しみだけでは片づけられない何かが残る。
今ヒノヤコマが照らす森の灯りはあのときとは違うぬくもりでまだ誰かの帰りを待っているのかもしれない。
構事件録
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