【解決済】生い茂る殺意

発生日時:1965年7月
発生場所:カントー地方・トキワシティ
関与ポケモン:フシギバナ(1体・野生)


【解決済】生い茂る殺意

1965年7月の夜明け直後、《トキワシティ》西の伐採帯で巡回点呼の際に欠員が出た為、林業会社の職長が現地確認に向かったところ、前日まで土が露出していた斜面が若い葉と蔓に覆い返され、重機の履帯や牽引ワイヤが土と芽吹きに沈み工区の輪郭そのものが変わった異常な現場の中段に二名、上段に三名の作業員が不自然な体勢で倒れているのを発見した。
遺体はいずれも胸から頸にかけて柔らかい薄緑の芽と繊細な根が皮膚の隙間に入り込み細い蔓が縫い付けるように四肢を固定し、口内からは赤く肉厚な花弁を持つ見慣れない花が咲き出しており、唇の周囲には粘り気のある透明な蜜膜が乾きかけていて斜面全体には強烈な甘い香りが溜まっていた。

通報を受けたトキワ署と市の林務課は一帯を封鎖し遺体の位置や工具の散乱状況を実測し土壌の硬さや水分のばらつきを区画ごとに採取し、現場写真には油圧ショベルのブームが半分まで若芽に抱き込まれている様子やワイヤが新芽に絡まれて引き出せない状況が記録され、植物学の専門家は作業員の衣服や手袋に付着した粘液と花粉を回収した。
検視はその場で先に簡易的に進められ、体中を掻きむしった痕と鼻腔から気管にかけて甘い樹液に似た物質が膜状に固まり気道の狭窄が見られ、胸郭から生えた植物は体の中心部から発生して背中側には根を張っており、生きたまま体から植物が生え、その後窒息により死亡したと判断された。
また、衣服や機械表面に付いた蜜膜は時間とともに弾性を失い、乾くと薄い樹脂片のようになったため採取後の二次変化を避けるため冷却保管が指示された。

現場検証の最中、突如森の奥から湿った葉擦れと地面の沈む低い音が連なり一際大きな影が蔓と葉を押し分けて斜面に姿を見せた。
そこには背に赤紫の大きな花を載せた全身が黒に近い濃い紫色をした巨大な《フシギバナ》が佇んでいた。
フシギバナの花からは現場に淡く漂っていた甘香が遥かに濃い濃度で風に乗って流れてきたので関係者は一斉に防毒布を口元に当て後退線の確保に移り警察は盾を前に出し臨戦態勢を取ったが植物学者は相互刺激を避けるべきだと進言し後退をさせた。
巨体は長い時間こちらを見据え花弁の縁をわずかに震わせ土中の根の位置を確かめるように足場を踏み替えた後低く短い声を発してから背を向け森へと戻り、その足跡の縁には薄い蜜膜が短い道を描き強烈な香りだけが現場に残されていったという。

その後の調査で会社の帳票と現場日誌が照合されると月半ばから伐採速度を引き上げる方針が示され、現代では法的に全国で使用禁止となっている劇薬と言える除草剤を広範囲に散布していたことが判明した。
散布直後に大量の昆虫が死滅し、翌日には複数の区画で小型の草ポケモンや虫ポケモンが死亡、付近の鳥の飛来も激減し、現場のあらゆる植物が枯れ果て樹木が傾き始めた経過等が記録に残されている。
また、会社側の記録には散布対象から外すべき保護区の境界表示が薄れていたことと現場研修の短縮が同時期に行われていた事実もあり、管理責任の不備が行政審査で指摘され工事計画は全面見直しとなり、その後完全撤退し伐採帯の中核は緩衝林として指定替えが行われ長期の立入制限と監視巡回の枠組みが整えられた。
遺骸は粘着層の化学的処理と蔓の切除を経て家族のもとに引き渡され現場の重機は分解と洗浄を受けたが金属表面の微細な溝に蜜膜の痕が残り除去には熱と圧を伴う処置が繰り返され斜面の一部は掘り起こしをやめ自然更新を促すための土留めと植生回復を行うように切り替えられたという。

一連の対処が整った後、現場で目撃された巨体は再び人前に姿を見せることはなかったが季節が巡るたびに斜面の色は深まり、若い広葉と苔が重ね合わさり伐根跡の周りには長く柔らかな蔓が集まり、夏になると赤い花が咲き誇り低く揺れながら甘い香りに満たされ、人々が森を守り続ける形で関わっていった。
現在この一帯は緑陰の濃い保全域として市民に親しまれ学校の観察路には当時の記録写真が掲示されている。

――文・【ササキ・ユウタ】(カントー森林異変記録班)


【管理人の感想】

この事件に限らず、記録を追う中で当時の伐採現場においてどれほど安全や配慮が軽視されていたかが強く浮かび上がってくるのを常に感じる。
より早く木を倒し、より広く土地を切り開くために今では到底許されないような強い薬剤が何の躊躇もなく散布され、その影響が虫や小型のポケモンの大量死として直ちに現れている。
それでも作業は止まらず、危険な環境においても安全対策を軽視して動いていたことを思うと今回のような犠牲者が出るのは必然だったのかもしれないという重苦しさを感じる。

一方でフシギバナの行動は怒りや報復という単純なものには見えなかった。
現場に立ち現れ、甘い香りを強く放ちながらも人間を直接襲うことなく森へと戻っていった姿には侵された土地を守ろうとする存在の大きな意思のようなものが透けていた気がする。
人間から見れば異様で恐ろしい出来事だったに違いないが、自然の側から見れば生きるための当然の反応であり、冒された環境に対する最後の防衛のようにも思われる。

伐採地がその後保全域へと変わり季節ごとに赤い花を咲かせる場所となった経緯を知ると自然の回復力の強さに圧倒されると同時に、人が学ばなければならない教訓の大きさも感じ取れる。
あの時目の前に立ったフシギバナの姿は単なる野生の脅威ではなく、人間が自然にどう向き合うかを突きつける象徴だったのではないのではないだろうか。

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