【解決済】毒粉に焼かれた川

発生日時:1845年5月
発生場所:ホウエン地方・フエンタウン
関与ポケモン:ドクケイル(複数・野生)


【解決済】毒粉に焼かれた川

1845年5月、ホウエン地方《フエンタウン》北西の丘陵地を抜け《オネト川》を渡ろうとしていた小規模の商隊が夜間の薄明かりのもとで唐突に砂嵐のような規模の毒性の鱗粉に包まれ列の前後から視界を断たれたのち、羽音とともに《ドクケイル》の群れが降下して荷馬と人員を囲い込み、叫び声と共に灯りが次々と倒れこみ、後続の商隊が急ぎ引き返すという事件が発生した。

同時刻に対岸の段畑で灰除けの焚き火を守っていた炭焼きの男が川面に向け伸びる帯状の薄紫の膜を見ており、灯りに吸い寄せられる翅の反射が層になって重なりながらぬらぬらと光るのを遠目に捉えたため、そのままフエンタウンの役所へ走って告げ道案内役を買って出た。
通報を受けた町の警邏隊と護衛稼業の者数名が即応し、風上に回り込む形で川道へ降りたが、霧と灰が混じる空気は重く、隊列先頭の警吏が掲げた油皿の火が弱まりはじめると同時に上流側の闇から粉が新たに巻き上がるように吹きすさび、隊の前衛と側面を一気に覆い尽くし、布一枚しか装備していなかったためその場にいた全員が目と口腔が焼けるような痛みに襲われ倒れ込む者が続出し、直ちに背後の防風溝まで撤退を余儀なくされたた。

その後、護衛稼業のウチの一人が2体のコータスを繰り出して辺り一帯の粉を焼き払う策を試みたが、燃えた粉がそのまま爆発的に引火し、上昇気流を伴いながら炎の壁となり渦巻いて隊の頭上で広がり大半がそのまま川へと避難する結果となった。
周囲が燃え盛る中さらにドクケイルの群れが大量に粉を撒き散らし、引火し被害は拡大していったためこれ以上の戦闘は被害拡大を止める術がないと判断して危険と撤退を報せる鐘を鳴らしながら全部隊が町へ退いた。

幸いにもその後土砂降りの雨が降り注ぎ、夜明け直後の再出動時には粉は消え失せ火は全て鎮火していたため、隊員は念の為口鼻を酢で湿らせた布で覆いながら皮手袋を二重にした状態で川へ進入し遺体と荷の回収にあたったが現場は凄惨極まりなかったという。
遺体はいずれも原型を留めておらず周囲の肉塊は混じり合っていたため識別は不可能で、尚且つ触れれば形を保たず糸を引いて崩れるため《掬い上げて》回収したものの人数分の全身といえる質量は見つからなかった。
また、渡河点に近い中州では荷馬が複数グズグズに溶けた状態で死亡しており、そこから先は斑に黒ずむ帯が地面を覆い、草は溶けたように丸まり、藁縄は水で煮た後のように柔らかく伸びて金具は触れるとボロボロと崩れ落ちたという。

最終的に死骸の判別はかろうじて残された衣類や装身具の破片と荷札に頼るほかなかったがいずれもボロボロに朽ちており、また、回収を行っていた者達も残っていた毒素を吸入したことでその後生涯咳に悩まされ、気道内には黒褐色の凝結が見られたという。

その後の研究で荷の中にあった干した果実や樹皮から抽出した香料と動物性の油脂などが混ざり発生した匂いと、灯りが産卵期のドクケイルの群れを引き寄せた可能性が高いとされている。
ドクケイルは産卵期になると雌雄とも強いフェロモンを放出しそれに反応して大量に集まる性質があり、尚且つ攻撃性が高まる事から隊員達に執拗なまでに攻撃を繰り返したにも関わらず退却時には追わずに同じ場所で旋回していた事の説明になるという見立てが主流となっている。

そのため事件後フエンタウンは直ちに《オネト川》の渡渉点を封鎖し、以降荷を運ぶ者へは柑橘と香料を一括して積まず布で封じ、尚且つ一定量以上が同時に通らないように荷を全て確認する関所を設けることとなった。

――文・【サカモト・ユキノ】(ホウエン異常事件調査班)


【管理人の感想】

まだドクケイルの生態が十分に解明されておらず尚且つ荷物の扱いや運搬の規則が整っていなかった時代にこうした事件が起きてしまったことは決して偶然ではなく、いつか起こるべきして起こる事だったのではないだろうか。
そして今私たちが当たり前と思っている安全の仕組みや規則は多くの場合こうした悲惨な犠牲の上に積み重なってきたものだろう。

現代を生きる私たちは不便に思える決まりごとに直面するとすぐに疑問を抱きがちだが、その一つ一つに過去の惨禍が影を落としているのかもしれない。
関所を設けて運べる荷を制限するという細かな決まりさえ、背景を遡れば命を守るために必要とされた措置だったのだと考えると単なる制約のように映る規則も違った重みを帯びてくるのではないだろうか。
そうした視点を持たなければ今の安全の意味を正しく理解することは難しいのかもしれない。

また、この事件はポケモンが本気で力を振るった時に人間がいかに無力であるかという現実をまざまざと見せつけられたように思える。
いかなる道具も鍛えられた部隊の力もほとんど意味を持たず、寄り添い助けてくれるポケモンが状況次第でどれほどの脅威に変わるのかという厳しい事実を突き付けているのではないだろうか。
適切な距離感を保ちつつ守られている今だからこそ、我々の無力さを忘れないでいることが必要なのだと強く感じさせられた。

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