発生日時:1942年8月
発生場所:ジョウト地方・マヒナ山麓
関与ポケモン:バクフーン(2体・野生)
【解決済】灰燼に帰す咆哮
1942年8月、ジョウト地方南部に位置するマヒナ山麓の小集落で未曽有の山火事が発生し村落の大半が灰燼に帰す災害が記録されている。
当時の報告によれば集落はわずか17戸、住人は50名ほどで、山の傾斜に沿って畑と水源を分け合いながら慎ましく暮らす共同体だったという。
火災によってそのうち43名が死亡、重軽傷者は合わせて5名、住居や倉庫のほぼ全てが全焼し事実上、村はその日を境に地図から消えることになった。
この火災の発生源として記録されたのは現場近くで目撃された2体の《バクフーン》の存在だった。
目撃したのは集落の外れに住む三人の少年達で、当日の午前10時頃、山中に遊びに出かけていた際に尾根越しに立ち上る黒煙と共に地響きのような咆哮を耳にしたという。
しばらくすると山が燃え始め、炎の中には直立時に少なくとも4メートル以上はある通常のバクフーンよりも明らかに巨大な個体が目撃された。
背中の火炎は山の斜面を焦がしながら幾度も爆ぜ、爆風と共に空気がゆらぎ、振動していたとされる。
『2体のバクフーンはケンカしているようには見えなかった。
お互い別の方向を向きながらただ怒り狂っているようだった。
何に怒っていたのかも分からないが全てを焼き払おうとしてるみたいだった。』
少年達の残した証言は後に調査団が現地入りする上で重要な手がかりとなった。
消防隊が派遣されたのは通報からおよそ4時間後で、到着した頃にはすでに集落の大半が炎に包まれていた。
延焼は山の南側から始まり、湿度の低い夏の空気と強風にあおられ北東に向かって一気に広がっていった。
水源を引いていた木製の水車小屋は序盤で崩落し消火活動は困難を極めた。
代替手段として投入された数体のポケモンによる消火活動もあまりに強い炎によりほとんど効果を発揮しなかった。
炎が完全に鎮火されるまでに3日を要し、その頃には最早村は跡形もなく焼き払われていたという。
十数年後、ジョウト地方の学術調査団とポケモン生態研究班が合同で現地を改めて調査を行った。
その結果、焦土の中心部と思われる山中からは2体のバクフーンが残したとされる足跡が確認され、足跡の大きさや歩幅と深さから将監通り通常個体を遥かに上回る体格であることが明らかとなった。
さらに、その後の調査においてマヒナ山一帯に古くから伝わる伝承によればおよそ百年に一度大地が震え、空が赤く染まり、山の奥に眠る《炎神の使い》が目覚めるとされている。
当時のバクフーンたちの出現と行動がこの伝承と一致していたことから偶然や単なる縄張り争いではなく、外的要因とは無関係なより根源的な衝動、周期的な覚醒に基づくものだったのではないかとの仮説が浮上した。
更に数年後、マヒナ山の調査中に灰に覆われた石積みの祠が発見された。
祠には苔むした石板が祀られており、古代文字で【炎を見よ。声を聞け。触れずに祈れ。】という3行の文が刻まれていた。
この祠は伝承にも残されておらず、近隣住民も存在を知らず、地図にも記されていなかったという。
今回の事件と石板との関連性は断定されていないが、直後に調査団によって周辺一帯は立入禁止区域に指定された。
当時の火災から生還した数少ない村人たちは近隣のハナギ集落に移り住み、今もマヒナ山を《カグツチ様の背中》と呼び、《火の神が眠る聖域》として語り継いでいる。
夕刻、山肌に陽が落ちる頃になると赤く染まった尾根の向こうから今も風に乗って低く唸るような音が聞こえることがあるという。
その音を聞いた者は決して谷に入らず足を止めて頭を下げる。
声の主があの日全てを焼いたまま姿を消したバクフーンの咆哮かどうかは誰にも確かめられていない。

――文・【アサクラ・ヨウタ】(ジョウト歴史災異調査会)
【管理人の感想】
生活の全てを山に委ねていた小さな集落が2体の《バクフーン》によって焼き尽くされ、集落の形そのものが記録からも風景からも消えてしまった。
バクフーンが縄張り争いなどをしており、その過程で燃えたのであればまだわかるが、まるで《ナニカ》を顕現させるための儀式の一環だったのではないかと思える異常現象だった。
この事件がただの喧嘩や災害ではなく、人が理解し得ない《ナニカ》の覚醒等によってもたらされたのだとしたら、あの時犠牲になった村人たちは一体何に巻き込まれたのだろうか。
数十年を経てなお《風に乗って響く声》を聞いた人々が自然と頭を垂れるという風習に畏れがシッカリ根付いていることが分かる。
それは単純な祈りというよりも《火の神》に背を向けられぬようにと願うような防衛反応に近いものなのかもしれない。
全てを焼き払った咆哮の正体は今も山の奥で眠っているのだろうか。
もたらされた村の静寂以上に今も沈黙する山に眠る《ナニカ》が未だ消えていないのではという恐怖が残る。
構事件録
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