【解決済】開花の代償

発生日時:1994年8月12日
発生場所:ホウエン地方・ミナモシティ
関与ポケモン:モジャンボ(1体・トレーナー所有)
関与人物:クサナギ・ユウリ(植物学者/故人)


【解決済】開花の代償

1994年8月12日、ホウエン地方ミナモシティで植物学者【クサナギ・ユウリ(32歳)】が自宅の温室で死亡しているのが発見された。
第一発見者はユウリの助手で、数日間連絡が取れないことを不審に思い自宅の温室を訪れたという。

温室の扉を開けた瞬間、鼻をつく腐臭とともに荒れ果てた室内が目に飛び込んできた。
床には割れた薬品の瓶や土が散乱し倒れた鉢植えがいくつも転がっていた。
中央には一体のモジャンボがうずくまっており、その蔦でユウリの遺体を抱きしめるように包み込んでいた。
通報を受けた警察が到着してもモジャンボはユウリの顔を見つめたままジッと動かなかったという。

その後の検死によりユウリは死後数日が経過しており、窒息による死亡と断定された。
彼女の身体にはモジャンボの蔦が何重にも絡みついており、その締め付けた跡が全身に残っていた。
しかし不思議な事に発見時、モジャンボの蔦にはほぼ力がなく、優しく抱き抱えるように巻き付いていたという。

ユウリは植物園に勤める植物学者としては優秀だったが私生活では周囲と距離を置き、日々自宅の温室で研究に没頭していた。
温室には彼女が卵から育てたモジャンボが暮らしており、ユウリにとって1番の理解者であり、1番の相棒でもあった。
そんなモジャンボの凶行は仲間の研究者らを震え上がらせたが、温室にあった彼女の研究ノートを見てその考えは変わったという。

 

ノートによると、ユウリの研究内容は《植物の成長と開花》だった。
幼少期から植物の成長に強い興味を持っていた彼女は《咲かない植物に花を咲かせる》というテーマに執着していた。
そして、通常花を咲かせることがないモジャンボに独自の栄養剤や薬品の調合を繰り返し、花を咲かせようとしていたのだ。

ユウリのノートには開花促進剤の配合比率や与えるタイミングが事細かに記されており、そして驚くことに《モジャンボの蔦に花芽がついた》と数ヶ月前に記されていた。
だが、その後には何度も【花芽がついても咲かずに落ちる】とも記載されており、彼女の落胆と葛藤が伺えた。

 

その後の捜査で事件当夜の状況が徐々に明らかになっていった。
ユウリはその夜も温室でモジャンボに栄養剤を与えていた。
花芽は膨らみ始めており、あと少しで咲きそうな気配を見せていたという。

だが、ユウリは焦っていたのだろう。
《このままではまた開花しない》と判断した彼女は通常の倍以上の量の促進剤をモジャンボに投与した。
過剰な栄養がモジャンボの蔦に一気に流れ込み、それはモジャンボ自身の制御を超える負担となり暴走に繋がったのだ。

モジャンボの蔦は無意識のうちに伸び、ユウリの身体に絡みついた。
彼女は必死にモジャンボを呼びかけ、なだめようとしたがその蔦の力は増すばかりであった。
やがて彼女の身体は締め付けられ、彼女の声も、鼓動も消えた頃にモジャンボの暴走が止み理性が戻ったという。
気付いた時には既に全てが遅すぎて、モジャンボはユウリの身体を抱きかかえるように蔦で包み込み、そのまま数日ただジッと動かず彼女を見つめていた。

 

事件後、モジャンボはホウエン地方のポケモン保護施設に収容された。
当初は時折興奮状態になり誰も近づけない状態が続いたが、数ヶ月が経つと徐々に落ち着いていき、何事にも反応を示さずボーッとするようになっていった。

そして事件から3年後、施設内でモジャンボが花を咲かせたという報告が届いた。
モジャンボの蔦に咲いたのは青紫色の花でそれは通常のモジャンボには見られない珍しいものであった。

施設の職員たちは、その花を《ユウリの花》と呼び、モジャンボは《開花するモジャンボ》として訪れる子供たちの人気者となった。
それでもモジャンボは花を咲かせたまま、喜ぶ姿もみせず、ただボーッと蔦を丸めて座り込んでいるという。
その姿はまるで今でも彼女を抱きしめているかのようであった。

――文・【フカザワ・アリサ】(ホウエン異常事件調査班)


【管理人の感想】

ユウリとモジャンボの夢はユウリの命を奪った末に咲いたというのが何とも皮肉だ。
さらに、その成果を1番分かち合いたい人がもういないモジャンボの気持ちを考えると切なくなる。

これは《モジャンボの暴走》《悪質な研究》として語られがちだが、ユウリの研究ノートにはモジャンボへの深い信頼と愛情が綴られていたという。
ユウリにとってモジャンボはただの研究対象ではなく、愛する家族の一員で、モジャンボにとってユウリも《何より大切な存在》だったのだろう。

暴走が止んだ後、その手にユウリの遺体があったモジャンボの気持ちを考えると胸が苦しくなる。
記憶がなく気がついたらそうなっていたのも、暴走していた時の記憶があるのもどちらもやりきれない。
発見されるまでの数日間、何を思って彼女を抱き続けていたのだろうか。

施設で開花した《ユウリの花》が親しまれているというのもなんとも言えない後味を残す。
開花はユウリの夢の結実でもあり、モジャンボが彼女の遺志を継いでいるかのようにも感じられる。
だがその花が咲いている限りモジャンボはユウリの事をずっと思い返すのではないだろうか。
当初は何かを思い出すように暴れていたモジャンボが、今となっては全てを諦めたかのように虚ろになっている姿は痛々しくもある。

もう二度と彼女の声がモジャンボに届くことはない。
それでも、モジャンボの蔦に咲いた花が、ユウリとの思い出を静かに語り続けているかのようにも思える。

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