【解決済】暴走の電撃メロディ

発生日時:2024年5月16日
発生場所:ガラル地方・エンジンシティのショッピングモール
関与ポケモン:エレズン(1体・トレーナー所有)
関与人物:リアム・アシュクロフト(無職/自称ミュージシャン)


【解決済】暴走の電撃メロディ

2024年5月16日、ガラル地方エンジンシティのショッピングモール内で突如停電が発生。
停電はほんの一瞬だったがその直後、館内のスピーカーから《美しいメロディ》が流れ始めた。
その音色は切なくも甘やかな、どこか哀愁を帯びたギターの旋律でショッピングモール全体に響き渡り、多くの買い物客たちが足を止めた。

聞いたことが無いメロディに違和感を覚えつつ館内を巡回していた警備員が屋上へと続くドアが焼け焦げ破損しているのを発見した。
その瞬間、相棒のポケモン達を全てボールから出し、厳戒態勢でモールの屋上に向かった。
そして屋上にたどり着いた彼が目にしたのは《一人の青年とエレズン》だった。

青年の名は【リアム・アシュクロフト(21歳)】
彼はギターを抱え、うつむいたまま淡々と弾き続けていた。
その傍らでエレズンは目を閉じたままゆっくりと揺れ、体から淡い電流を放っていた。
エレズンの体には複数のコードが絡まっており、それは《館内の音響設備》と接続しているものだとのちに判明した。

警備員が声をかけてもリアムは振り返ることなくただギターを弾き続けたため、やむなくエレズンの電流を無理やり遮断する決断を下した。
しかし、エレズンは攻撃を受けた際に本能的な抵抗なのか高出力の電気を発生させ、館内の電源設備が次々とショートし完全に停電し、復旧作業には数日を要してしまった。

 

その後、通報を受けた警察が到着しリアムはその場で逮捕。
一緒にいたエレズンも保護され今回の騒動に関する責任について追及された。

取り調べ室で、リアムは落ち着かない様子で膝を揺らしながら語り始めた。
その目はどこか遠くを見つめ、うっすらと微笑みを浮かべていたという。

『俺、ずっと路上で演奏してたんです。
でも誰も立ち止まらなかった…誰も、俺の音楽を聴いてくれなかった…

そんな中、エレズンだけは違った…!
アイツだけは毎日、俺の前に座って…俺のギターをじっと聴いてくれたんです。
嬉しかった…俺の音楽は何も間違ってないんだって思えた。
エレズンは俺の最初の観客で…今では俺の大事な相棒なんです。

それで、まぁ、俺、気づいちゃったんですよ。
自分の音楽が伝わらないのは《音が届いてないだけ》なんだって。
路上じゃ雑音にかき消されて誰にも届かない。
でも、もっと多くの人にちゃんと届く場所があれば俺の音楽は必ず評価される!
エレズンと一緒に、俺たちの音楽を聴かせられる場所があれば俺たちはビッグになれるってわかっちゃったんです。』

すると最後に、リアムは瞳を輝かせながらこう尋ねた。

『それで…どうでした?
俺の演奏、みんな…どう思ってくれましたか?
俺の音楽はちゃんと、届いてましたか?
みんな、俺たちの演奏…聴いてくれましたよね?
その反応を、喝采を聞けなかったのが1番悔やまれる…!
だからせめて教えて下さいよ! ねえ、どうでした?!』

その無邪気な質問に担当警察官は思わず言葉を失ったという。
彼の目には純粋な期待と狂気が入り混じったような光が宿っていた。
まるで彼の中で《強制的に聴かせた》という認識すらなかったかのように。

 

その後彼は《営業妨害》《器物損壊》の罪が課せられ収監され、エレズンはポケモン保護施設に預けられた。
施設の職員によればエレズンはほぼ毎日、リアムが弾いていたギターのメロディを鼻歌で静かに奏でるという。
その際、エレズンの体からは僅かな電気が放たれいるが、周辺には一切影響がないので特段禁止にはせずにいる。

今もエレズンは施設の片隅で《彼のギターのメロディ》を口ずさみながら、静かに再開の時を待ち続けている。

――文・【シラヌイ・タクマ】(ガラル異常事件調査班)


【管理人の感想】

路上で誰にも聴かれない音楽を弾き続ける日々と、唯一の観客であり理解者だったエレズン。
彼にとってエレズンはただの相棒ではなく、自分の音楽を唯一肯定してくれた存在だったのだろう。
だがそんな《ファン》の存在が青年に純粋故の狂気を帯びさせていったのも確かだ。

彼のみならず、エレズンも《強制的に聴かせた》という自覚がなかったのではないだろうか。
むしろ彼らの中では《やっと人々が聴いてくれた》という高揚感に満ちていたのかもしれない。

今もエレズンは施設で青年が帰ってくる日をただひたすらに待ちながらあの日のメロディを鼻歌で奏でているという。
彼のギターの音色がいつか再び響く時、エレズンの心もまた震えるのだろう。
しかし、施設送りになったポケモンは通常、元の持ち主の手元に戻ることはない。

エレズンが彼の音楽にまた触れる日が来るのは当分先になりそうである。

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