発生日時:1996年9月
発生場所:ジョウト地方・アサギ山荘
関与ポケモン:モルペコ(1体・トレーナー所有)
関与人物:シミズ・ナオユキ(元教師/コテージオーナー)
【解決済】空腹満たす宿
1996年9月、ジョウト地方西部のアサギ山に建つ一軒のコテージで些細ながら奇妙な出来事が続いていた。
山頂近くに位置するこの宿泊施設《アサギ山荘》は元教師の【シミズ・ナオユキ】が静養のために建てた私設の山小屋で、退職後に妻とともに改装し、知人や旅人を迎える簡素な宿として開放していた。
その山荘である時期から宿泊者たちの食料が夜のうちに少しずつ減っていくという現象が相次いで報告されるようになった。
封の開いていないパン、冷蔵庫に入れておいた果物や干し肉、菓子類などが、翌朝にはわずかに齧られた跡を残して消えていた。
山荘には常時客が泊まっているわけではなく、持ち込み制の食料を客同士が盗む可能性は低いと判断したシミズは夜、自ら厨房を見張ることにした。
ランタンの灯を落とした山荘内は静寂に包まれ時計の針の音すらはっきり聞こえたという。
そして午前2時を回った頃、冷蔵庫の隙間からするりと忍び込んできたのは、丸くて小さな1体のモルペコだった。
空腹時に性格が豹変する習性を持つモルペコだが、荒れたり暴れたりすることはなく黙って果物を静かに食べていた。
捕獲することも追い払うこともせず、シミズは黙ってしゃがみ込むと自らモルペコの前に一皿のミルクパンを置いた。
当初警戒心を見せていたものの、やがてそれを食べるとモルペコは無言で厨房の隅に座り込み、そのまま夜が明けるまで眠ってしまったという。
以降、モルペコは山荘の一員となりいつしか《コテージのお手伝いさん》として親しまれるようになった。
玄関のチャイムが鳴ると真っ先に入口まで走り、宿泊客から荷物を預かり案内し、食事の時間には皿を運んでは一口分分け与えて貰っていたりなどした。
時には掃除機にじゃれつきながら廊下を滑り、シーツを整える主人のあとをついて回り、その姿は客たちの間で語り草となっていった。
10年、20年と時が経ち、山荘は口コミだけでひっそりと営業を続け、訪れる客の多くは山の静けさとモルペコの愛嬌に魅了されて帰っていった。
だが2021年の秋、オーナーであるシミズ・ナオユキが老衰で逝去。
後継ぎのいなかった宿は山荘の記録をまとめる一報とともに《今季限りで閉鎖予定》と常連客達に通達された。
それから数週間後、登山客がコテージに訪れた際に閉鎖されたはずの山荘の縁側でモルペコが客間の窓に背を向けて佇んでいた姿が報告される。
それを聞きつけたかつての常連客だったサカモト夫妻がコテージに訪れた際に、モルペコは嬉しそうに荷物を預かり客間へと案内していった。
そのモルペコの姿を見てサカモト夫婦が引き継ぐ事を決意し、営業が再開されることとなり、現在も《アサギ山荘》は予約制でひっそりと営業を続けている。
毎朝、モルペコは食器を並べ、部屋を掃除し、日が落ちる頃には客の膝に乗って丸くなっている。
時折モルペコは窓辺に座って陽の光を浴びながらまどろみ、遠くを眺めながらシミズの事を考えているような雰囲気を醸しているという。

――文・【フクシマ・エリ】(ジョウト山岳文化記録班)
【管理人の感想】
この山荘で起きた一連の出来事には特別な事件性や危険があったわけではないにもかかわらず深く印象に残るものがあったと感じる。
食料の消失という些細な異変から始まり、それが1体のモルペコの行動によるものと判明し、受け入れたオーナーのシミズからは静かな温かさを感じられた。
結果としてモルペコは山荘の一員となり宿泊客にとっては忘れがたい存在となっていったのも素敵なことだと思う。
年月が経ち、山荘の主がいなくなったあともモルペコが変わらず運営しようとしていたことにはシミズと過ごした確かな時間の重みと信頼を感じられた。
旅人を迎える役目を担っていたモルペコが今も変わらず毎朝同じように動き、同じように日差しのなかにいるというのは何よりもこの山荘の在り方を象徴しているのではないだろうか。
静かな山中で1人と1体が築いた営みが時を超えて続いているという事実に深い安堵と敬意を抱かずにはいられなかった。
構事件録
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