【解決済】氷菓に沈む声

発生日時:2014年7月
発生場所:アローラ地方・メレメレ島
関与ポケモン:バニリッチ(複数・トレーナー所有)
関与人物:モロ・ケアロハ(キッチンカー店主/逮捕)


【解決済】氷菓に沈む声

2014年7月、アローラ地方メレメレ島にて急性低体温症および凍傷をともなう原因不明の集団搬送が複数の医療機関で相次ぎ報告された。
最初に症状を訴えたのはホリデーマーケットに来ていた若い観光客のグループで、彼らは屋外にもかかわらず『身体の内側から凍えるように寒い』と語っており、その後すぐに嘔吐、失神、痙攣などの重篤な症状に発展した。
倒れた彼らを救急隊が搬送する最中にも近くのイベント広場や露天スペースから同様の通報が入り、最終的に短期間で48名が病院に運び込まれた。
うち32名は心肺停止または内臓の損傷が深刻であり、到着時には既に死亡が確認され、14名は治療の甲斐なくその日のうちに息を引き取った。
亡くなった者達は心臓や肺といった重要器官が凍結・損傷していたケースが多数を占め、いずれも外傷がないまま《内側から凍らされていた》ことが医師たちの間でも衝撃を呼んだ。

混乱の中で行われた現場調査によって、被害者の全てが共通してある1台のキッチンカーで販売されていた《アイスクリームを食べていた》ことが判明。
問題のキッチンカーは《アローラ産の天然冷気アイス》としてアローラ地方の各地で知られていた名店であった。
店主の【モロ・ケアロハ】アローラ原産の素材と《バニリッチ》を用いて冷却作業を行うスタイルは珍しさもあり、観光客にも地元住民にも好評だったが、ライバル店も多く数年ほど前から売上が減少していたことに悩んでいたという。
だが、数ヶ月前に誤って《バニリッチの欠片》が混入したロットを販売した際、購入者から『今までにない多幸感があり、忘れられない味』という感想が相次ぎ、それがSNSで拡散されると店には連日長蛇の列ができるようになった。

売れ行きに味をしめたモロは次第に意図的に微量のバニリッチ成分を加えるようになり、次第にその量は増し、徐々に成分管理や調合も雑になっていった。
事件当日にはバニリッチの体表を薄く削った破片を複数個体から直接投入していたことが、押収された調理器具や備品の分析から判明。
後の検証により、その時の冷気の強度は想定をはるかに上回るもので、摂取後数分で内臓温度を急低下させ、血中酸素量の急減とともに各臓器が凍結する極めて危険な状態を招いていた。
一命をとりとめた2名の証言では『身体が内部から無数の針で刺されながら崩れていく感覚を伴う激痛』という極めて恐ろしい表現がされた。

 

逮捕後の取り調べでモロ『バニリッチの力を借りて誰も味わったことのないアイスを作りたかった』と供述したが、事件の重大性に対してあまりに無自覚な態度をとり続けたことで批判が集中。
さらにこの事件を機にバニリッチの体は個体差によって異なる性質があり、表皮から分泌される微細成分には《脳内快楽物質に似た活性因子》が含まれていることや、《記憶定着作用》《時間感覚の希薄化》《末梢神経麻痺》など、これまで確認されていなかった複合的作用が含まれていることが明らかになった。
バニリッチの体組織は極めて容易に取れて、なおかつ体表の一部を失っても平然としている性質があるため調理や加工の場で【少量なら問題ない】と誤って扱われるリスクが非常に高いことが改めて指摘されている。

本来、ポケモン由来の成分を食品に利用するには厳格な成分試験と資格認定が義務づけられているが、近年は観光需要の高まりとSNS映えを狙った店の増加により無許可使用や未検査調理の事例が後を絶たない。
今回の事件もその氷山の一角だったとされており、とくに注目されたのは消費者側の反発よりも正規の資格をもって真面目に営業していた料理人たちの強い怒りだった。
【現状でも認可取得には何年もかかり、今回の影響で審査がさらに厳しくなれば営業活動に支障がでる】として多くの飲食業者が連日のように報道番組で声を上げ、制度の見直しや監視体制の強化を求める事態へと発展していった。

なお、押収されたバニリッチ達は事件後、長期間にわたる成分検査と観察を経て《食品として利用しなければ》無害であることが確認され、現在はアローラ地方の寒冷保護区にて他の氷タイプのポケモンと共に管理・飼育されているが施設内の公開予定はないという。
事件をキッカケにバニリッチを展示から外す水族館やテーマパークも相次いでおり、その後のポケモンとの共生における、主に食品利用のあり方に大きな影を落とす結果となった。

――文・【ミレイユ・シャンブラン】(アローラ自然調和研究機構)


【管理人の感想】

甘さと涼しさの象徴だったはずのアイスがここまで残酷なものに反転するとは思わなかった。
暑い日に食べたアイスでそのまま《内側から凍る》という形で亡くなるのは極めて恐ろしいと言える。

モロ・ケアロハの供述からは罪悪感は感じられないのはやはりモロが危険性を考えもせずどんどん雑に混入させていったからだろうか。
中毒性のあるアイスを作り、それを嬉々として配り続けていたのは最早麻薬取引を行っている売人と大して変わらないのではないだろうか。
まるで自らの過ちで人が死んだことすらどこか別の次元の出来事みたいに扱っているように感じた。

事件のあとに傷ついたのが被害者だけじゃないという事実も重い。
地道に正しくポケモンの力を扱ってきた料理人たちの怒りや失望は想像以上に深いと思う。
努力して認可を取り、ルールを守ってようやく得た信頼がたった一人の暴走で簡単に損なわれてしまう。
共生という言葉の裏にある責任の重さを誰よりも知っているのは彼らだったはずだ。

バニリッチも被害者であると言える。
自らのチカラを使ったことといえばアイスなどを冷やす事だけであり、体を削られていたのは本人の意志ですらない。
最初から悪いのは《使う側の人間》であり、人の倫理や想像力が最も凍りついていたのかもしれない。

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