【解決済】ヒュンゲル連続放火事件

発生日時:2022年1月
発生場所:イッシュ地方・ヒュンゲルシティ
関与ポケモン:ヘルガー(複数・トレーナー所有)
関与人物:チャールズ・ネイサン(警備員兼研究員/逮捕)


【解決済】ヒュンゲル連続放火事件

2021年の冬、イッシュ地方北部にある【ヒュンゲルシティ】で再開発予定地域を中心とした不審火が立て続けに発生した。
対象となったのは既に居住者の退去が済んだ空き家や立ち入り禁止となっていた古い集合住宅ばかりで幸いにも人的被害は出なかったものの、その出火回数と発火の規則性からすぐに警察と消防局による合同調査が開始された。

出火原因はいずれも自然発火ではなく明確な人為的要素を含んでおり、調査チームは深夜から早朝にかけての巡回を強化したが火の手は止まることなく繰り返された。
市民の不安が高まり、ついにヒュンゲルシティ市長が非常対策会議を召集し、市警だけでなく民間警備会社の協力を仰ぐ方針を発表した。

その中でとりわけ注目を集めたのが《エーテル財団イッシュ支部》の申し出だった。
財団は《無償での支援》を申し出、夜間警備に加えてポケモンを伴ったパトロール隊を提供。
さらに、独自開発されたAI解析技術による行動分析機能を備えた最新型の防犯カメラをこれまた無償で市内全域に設置した。
そしてそれらの新システムが稼働を始めた直後、放火は突然ピタリと止み、年末を過ぎても火災は発生せず市民の間には安堵の空気が広がった。

しかし、それは長くは続かなかった。

年明け早々、2022年1月4日深夜、ヒュンゲルシティから再び火の手が上がった。
現場となった家屋周辺には財団の監視カメラが設置されていない、死角となっているエリアだった。
周辺を警備していた民間警備員たちも放火の兆候にはまったく気づいておらず、犯人らしき人物を目撃した者も皆無であったという。

以降、火災は再び断続的に続き、警備体制が強化されていたにもかかわらず犯人像は依然として不明のままであった。
しかし、後に判明した事であるがエーテル財団は秘密裏に一見すると防犯カメラに見えない新たな防犯カメラの増設を行っており、死角となるエリアをほぼ全て網羅していたという。

そして1月16日深夜、新たに設置された防犯カメラの映像に奇妙な動きを見せる1体の《ヘルガー》が映り込む。
通常その地域に生息していないヘルガーが突如現れたのも異様な事であったが、迷うこと無く真っ直ぐとある建物の方へと向かった。
建物付近に到達すると微動だにせず闇夜に紛れ、付近の警備員が離れた直後、庭にある植木鉢などを集め、火の光がなるべく漏れないようにしながら家を焼き始めた。
犯人が明確になったものの、その行動パターンから野生個体には思えず、財団のAIによる調査を総動員し一人の警備員の名が浮上することとなった。

男の名は【チャールズ・ネイサン(34)】
年明けから新たに雇われたばかりの警備員だった。

 

警察への通報が行われ、同時に彼の素性を詳しく調べたところチャールズの過去が明らかになった。
かつて彼は《ポケモンの神経制御》に関する論文を学会に提出していたが、その内容の危険性から即座に問題視され、当時在籍していた学術機関を除名されていたのである。

論文では《ポケモンの脳へ直接指令を送る》ことで《外部からの制御による効率的な兵器化》が可能になるという極めて過激な理論が展開されていたという。

ただし現在、その研究資料や論文原稿はすべて破棄されており、具体的な手法や技術の詳細は一切確認されていない。

逮捕時チャールズは激しく抵抗し、モンスターボールを用いず口頭命令のみで複数のヘルガーが街のあちこちから駆けつけては彼を守ろうとしていた。
しかし、既にヘルガーのみならずほのおタイプへの対策を準備していた警察には手も足も出ず、ものの数分でチャールズは逮捕されることとなった。
先ほどまでの激情からうってかわって、取り調べ時のチャールズは何にも反応を示さずひたすら黙秘を貫いていたという。

その後、チャールズの自宅からは《設計中の新型プロトタイプ》や試作装置や手術道具、そしてヘルガーたちの行動パターンを克明に記録した複数の端末が発見された。
これによりチャールズは警備員という仮面の裏で自ら開発した《遠隔制御装置》を用いて、複数のヘルガー《脳に直接埋め込まれた》機械を使い、実験対象として操っていたことが発覚。
つまり、ヘルガー達は文字通りプログラムのように動いており、生理現象ですら機械で操作できるようになっていたということが判明し、現場にいた者達は恐怖に包まれたという。

また、全身の検査を行った際にチャールズ自身にも同様の機械が埋め込まれていることが明らかとなり、彼自信も既に《ナニカのコントロール下》である可能性が浮上した。
装置は複雑に脳や神経に埋め込まれ、連結されており無理に取り外せば命に関わるとされたため、事実上の《証拠と共に生きる存在》として今も厳重な管理のもと拘束されている。

 

だが、何よりも不可解なのはチャールズ自身がかつての論文で主張していたのはあくまで《ポケモンの制御》であり、《人間に対する応用》には一切触れていなかったという点である。
また、彼が自らに装置を埋め込むなど思想的にもあり得ないとする声が多く、ましてや《もし本当にチャールズが単独で研究していた》のであれば自分の脳や神経へ精密な装置を埋め込む手術を行えるとは到底考えられなかった。

さらに不信感を募らせたのはチャールズ逮捕後、エーテル財団は迅速に関与した全てのヘルガーを回収したことだった。
曰く【ヘルガーを元に戻せる可能性がある】との声明を出し、財団の管理下で保護・調整を行うとし、警察やその他研究者の介入が入る前にヒュンゲルシティ市長もこちらを許諾したという。
だが数カ月後に発表されたのは【今は平和に施設で暮らしているから問題ない】という曖昧な言葉のみであり、肝心の装置が取り外せたかどうかについては明言を避けた。

エーテル財団へ司法当局からはチャールズに埋め込まれた装置についての技術的情報の開示を求める正式な指導と要請が繰り返し出された。
しかし、エーテル財団は最終的に記者会見で発表したのは以下の通りである。

『まず初めに、今回の件に関して多くのご関心とご懸念を頂いていることに深く感謝申し上げます。

現在、当財団の管理下にあるヘルガーたちについてですが、彼らに装着されていた神経操作装置につきましては、現段階において安全かつ確実に取り外す技術は存在しておりません。
しかしながら、当財団の努力により、ヘルガーたちの半数は装置を取り外すことに成功し、残りの半分は装置はついたままですがいずれも穏やかな環境で安定した生活を送っておりますのでどうかご安心ください。

なお、この技術を人間に対して適用することが可能か否かについては我々としても明確な見解を示すことができません。
仮に実行するとなればそれは《人体実験》という極めて重大な倫理上の問題を伴うことになり、当財団としては一切そのような非人道的行為に加担する意志はございません。
つきましては、チャールズ・ネイサン氏に関連する更なる支援や対応について、当財団がこれ以上の協力を行うことは極めて困難であるという判断に至りました。

また、ヘルガーたちは事件以降、人間に対して強い恐怖心を抱くようになっており、その様子を一般に公開することは控えさせて頂いております。
ただし、繰り返しになりますが現在は安全かつ適切な管理のもと落ち着いた生活を送っていることをここにお伝え致します。

以上がお伝えできる全ての情報となります。
ご理解のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。』

 

以降、エーテル財団は一切の説明を行っておらず、ヘルガーたちが現在どの施設に収容されているのかも明かされていない。
その対応を巡っては

エーテル財団は装置の技術を当初から把握していたのではないか』

『全てが計画された自作自演の茶番だったのではないか』

といった疑念がSNSを中心に広まり、批判の声が相次いだ。
だがそれでも今なおエーテル財団は沈黙を守り続けている。

ヘルガーたちが本当に《穏やかな生活》を送っているのか、それを確かめる手段、今や誰の手にも残されていない。
ただ1つ事実として残っているのは、あれほど断続的に続いていたヒュンゲルシティの火災がチャールズの逮捕を境に一度として発生していないということである。

――文・【リアン・グライス】(イッシュ犯罪調査機構記録課)


【管理人の感想】

この事件において最も異様だったのは犯人像が明らかになってからのほうが不穏さが増していったという点にある。

チャールズ・ネイサンの行動には確かな狂気があった。
だがその狂気がもし《ナニカの手によって》作られていた感情と行動だったとすればこれほど恐ろしい事はない。
学会を追放されてからいったいどのようにして研究を継続できたのだろうか。
資金や施設、実験用のポケモンや動物の確保などを誰にもバレずに今まで単独で行っていたと考えるほうが違和感を覚える。
とりわけ不可解なのは《彼自身にも機械が埋め込まれていた》ことだ。

こうした一連の情報を整理していくと、どうしても浮かび上がってくるのが《エーテル財団》の存在だ。

警察や消防では対処できないほどの連続放火が発生し、エーテル財団による防犯体制の強化が行われると火災が即座に停止した。
その後再び火災が発生し、エーテル財団により街全体に一見すると防犯カメラとわからない形で《死角がない状態での監視体制》が構築された。
そしてチャールズ逮捕直後に見せたあまりにも素早いヘルガー達の回収。

ここまでの流れを《偶然》《優秀》の一言で片づけられる要素がいったいどれほどあるのか。
そのうえで彼らが語る声明はどこか歯切れが悪く、説明責任を果たそうという誠意も感じられない。

ヘルガー達は本当に穏やかに過ごしているのか、装置はどうなったのか。
財団の言葉だけでは何も信用できず、尚且つ誰も真相を確かめることができない。

むしろ、最初から事件も対応も全て自作自演であったという言葉が何より納得がいってしまう。
仮にそうであったならヒュンゲルシティで起きたこの一連の放火事件は《新技術の実地試験》に他ならなかったということになる。
今なお沈黙するエーテル財団の姿が何よりも恐ろしく見える。

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