【解決済】灯火の守り神

発生日時:1985年3月3日
発生場所:カントー地方・ヤマブキ市
関与ポケモン:シャンデラ(1体・トレーナー所有)


【解決済】灯火の守り神

1985年3月3日、春の訪れが感じられはじめたカントー地方の中心都市【ヤマブキシティ】
人通りの多い商業通りから少し外れた住宅区に建つ《桜ノ塔》という9階建のマンションでその夜発生した1つの火災が多くの命を呑み込んだ。

出火は午後10時過ぎ、3階の一室からガス給湯器の老朽化による爆発的な炎上が起きたとされている。
ガス配管にわずかな亀裂が生じていたにも関わらず古い設計と杜撰な管理により自動遮断装置も備わっていなかった。
火の手はあっという間に建物内部を駆け上がり、わずか10分後には3階以上の階層すべてが黒煙に包まれた。

当時その建物には160人以上が居住しており、消火と救出のためにヤマブキ市消防局が全隊出動したが構造の古さと夜間の混乱が重なり救助は困難を極めたという。
この火災によって32人が死亡し、40人が重傷70人が軽傷を負う、痛ましい事件であった。
犠牲となったその多くは高齢者や子どもを含む家族で、ヤマブキシティではしばらく深い悲しみに包まれる事となった。

だがそんな悲劇の中で奇跡のような出来事が同時に起きていた。
最上階である9階の一室に住む女性と彼女の二人の子ども、当時4歳と6歳の姉弟が火の回る階段をすり抜けるように《自らの足で外に出てきた》のだ。

当時現場にいた者たちはその光景をこう語っている。

『まるであの人たちのまわりだけ時間の流れが違うみたいでした。
《青白い光に包まれて》、業火と煙が渦巻く中をまるで何事もないかのように真っ直ぐ降りてきたんです。
あれは《守られていた》としか言いようがなかった』

 

その《青白い光》の正体が明らかになったのは後日、ポケモン研究所の職員がホテル内を調べていた時のことだった。
彼女たちの部屋に1体の【シャンデラ】が黒く焼け焦げた部屋の片隅に静かに佇んでいるのを発見した。
後の聞き込みにより、元は女性の祖母が生前にパートナーとしていたポケモンであった事が判明。
調査により、シャンデラは祖母の死後、部屋の隅に置かれた古い棚の奥にある小さな仏壇にひっそりと潜んでいたという事が発覚。

なお、火災の夜、女性が警報音で目を覚ますとその時点で家族全員が大きな青くほのかに揺らめく炎に包まれていたという。
部屋の外は熱と煙でほとんど視界が効かず、泣きじゃくる子どもたちを抱き寄せながら彼女は恐怖に飲み込まれそうになっていた。
だが突然、ふわりと風が流れたように部屋の空気が動き、炎に包まれていた廊下の炎が消し飛んで《青い光の道》が現れた。
女性はその後も炎や煙だけではなく降り注ぐ瓦礫等からも守ってくれる青い光の道を突き進み、無事に徒歩で脱出ができたというのが真相だった。

 

その後マンションは取り壊されたが、現在同じ場所には高層マンションが建っており、女性もその建物に住んでいる。
成人した子どもたちが時折帰省する家のリビングには祖母の写真とともに小さなシャンデラモチーフのランプが置かれている。
また、仏壇に入っていた祖母が生前大切にしていた闇の石のペンダントを彼女は肌見離さず身につけているという。
今では彼女のポケモンとなったシャンデラが時折何かを思い出すようにジッとそのペンダントに触れることがあり、それが彼女は今一番好きな時間であると語る。

――文・【ヨシエ・ツバキ】(カントー地方特派ジャーナリスト)


【管理人の感想】

祖母の死後、誰にも気づかれず仏壇の奥で眠っていたシャンデラがあの夜家族のために姿を現した。
その姿を目撃した者が《守られていた》と語ったのは決して比喩ではなかったのだろう。

救出劇のように注目されるような派手さはないがこの事件に宿っていたのは確かな意志と記憶だ。
祖母とその家族への深い愛がシャンデラを動かしたのかもしれない。
炎に包まれた廊下が一瞬で道になり、降り注ぐ瓦礫の間をすり抜けるように導かれていく様子は奇跡とも言える。
人とポケモンの間にある絆の形をこれほど静かに、力強く見せてくれる例はそう多くない。

語られすぎることもなく、神話のように祀られることもなく、ただ今もその愛が当たり前のように続いているのはなんて素敵な事なのだろうか。

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