【解決済】街を揺らす咆哮

発生日時:2007年8月
発生場所:ホウエン地方・カイナシティ
関与ポケモン:バクオング(複数・野生)


【解決済】街を揺らす咆哮

2007年8月20日、ホウエン地方の港町《カイナシティ》で日頃から夜遅くまで賑わいを見せ、市民に親しまれていた老舗の遊技場が轟音と振動に呑み込まれながら突如として崩壊し、わずか数分のうちに人々の歓声が悲鳴へと変わり、館内にいた客や従業員あわせて約80名が巻き込まれるという未曾有の惨事が発生した。

生存者曰く、施設内では地震としか思えないような激しい揺れに襲われながら天井の照明が落下し、壁がひび割れる音とともに粉塵が視界を覆い、床は脈打ちながら波立っていたという。
店内の機器類が破損しBGMが停止すると館内には低い唸り声のような音が響き渡り、それが徐々に耳をつんざくような轟音へと変わりやがて誰もが鼓膜を押し潰される感覚に襲わながら崩壊に巻き込まれていった。
骨折や内臓損傷を負った者が多く、さらにほぼ全員が強烈な耳鳴りや鼓膜の損傷に見舞われ方向感覚を失い、声を出す事が出来ず、その場から自力で逃げ出すことは不可能であり死を強く感じた者が多かったという。
事件直後に消防局とポケモンレンジャー隊の救助班が現場に急行し瓦礫に閉じ込められた人々の救助活動を夜通し行ったが、それでも半数以上が命を落とし街は深い悲しみに包まれた。

その後、多くの目撃者によって判明したのが崩壊の直前に施設近辺の山に複数の《バクオング》が姿を現し、建物の方角へ向けて一斉に咆哮を繰り返していたということだった。
彼らの咆哮は次第に大きくなっていき、建物が崩れはじめても尚おさまらなかったものの、しばらくすると崩壊していく建物の様子を一定時間その場に静かにとどまって見届け、やがて再び山の奥へと姿を消していったという。

この時発生した轟音と地鳴りは街全体に響き渡っており、山から遠く離れた住宅街に住む人々も窓ガラスが揺れるほどの振動と音を体験しており、それはまるで都市全体が一斉にうなり声を上げているかのような異常現象だった。
こうした振る舞いは通常の生態では説明できず調査班は背後に意図せぬ人為的要因があると見て調査を進めた。

調査開始直後に原因として判明したのは、事故当時カイナシティ郊外の山間部で進められていた高速道路建設工事の存在だった。
重機が発する作業音が奇しくもバクオングの繁殖期における《メスの呼び声》に酷似していたことが確認され、この音に惹かれた複数の野生のバクオングが誘引されてしまったのである。
しかも確認された個体はいずれも通常より一回り大きな体格を持つオスであり、繁殖期特有の競争本能によって互いに咆哮を繰り返したことで建物内部は瞬く間に耐え難い音圧と振動に包まれ、老朽化の進んだ遊技場はこの衝撃に耐えられず短時間のうちに崩壊へと至ったと結論付けられた。

調査委員会は事故の直接原因をバクオングの集団咆哮にあるとしつつ、それを引き寄せた工事音の管理体制の不備を厳しく指摘した。
特に従業員の一部が事故の数日前からバクオングを目撃していたり不可解な低音や振動を感じていたにもかかわらずその報告が軽視されていたことは後に大きな問題とされた。
兆候を事前に察知しながら対応が遅れたことで被害が拡大したという見解が強まり、地元行政と建設業者は批判の矢面に立たされることとなった。

この事故を契機にホウエン地方の建設業界と行政機関は音や振動に敏感なポケモンの繁殖期に都市開発を進めることの危険性を改めて認識し、新たに規制を強化する方針を打ち出した。
特に音を行動の指標とするポケモンに関しては工事前に周波数分析を行い、必要に応じて警戒音を用いた試験運用を行うことが義務付けられるようになった。
またレンジャー隊の監視体制も強化され市街地に近づく危険性のある個体群の早期発見と誘導が制度化されていった。

事故による経済的打撃は大きく、街の娯楽の中心を失ったカイナシティはしばらく沈鬱な空気に覆われたが、2020年に旧遊技場跡地に新たな複合レジャー施設《カナリヤホール》が完成すると状況は一変した。
落成式には事故で負傷した市民も招かれ、彼らが笑顔でテープカットを行う姿は地元メディアに大きく報じられ市民の希望の象徴として記憶されている。

以降、同様の事故は一度も発生しておらず、再建された施設は今でも多くの人々に利用されている。
バクオングによる被害報告も途絶えあの夜の轟音は今では街の奥深い記憶に沈み、二度と繰り返してはならない教訓として語り継がれている。

――文・【カネモト・ユウジ】(ホウエン異常災害調査会)


【管理人の感想】

日常の楽しみを提供していた場所が一瞬にして破壊の現場へと変わり、大勢の命が失われたという衝撃は言葉にできないほど大きかったはずだ。
爆発や地震などといったものではなく人々が耳を覆っても防ぎきれないほどの強烈な音が人命を奪う災厄へと変貌した事実は自然の多様な脅威を改めて突きつけているように思える。

調査の過程で浮かび上がった工事音の問題には人の営みが自然とどう向き合うべきかという問いが含まれていると感じた。
開発のために用いられる技術が思いも寄らない形で周囲の生態と干渉し、悲劇に結びついてしまったのは痛ましいことである。
もし事前に報告されていた僅かな兆しを真剣に扱えていたならこのような被害はそもそも発生しなかったのではないかという悔いが残る。

それでも時間が経ち、跡地に新しい施設が建てられ、人々が再び集える場所となったことには救いを覚える。
失われたものが戻ることはないが、あの夜を教訓として歩みを続けた街の姿には強い再生の意志を感じる。
悲しみを抱えながらも前へ進もうとするその姿勢こそ、二度と同じ過ちを繰り返さないために必要な力ではないだろうか。

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