【未解決】旋律と消失

発生日時:2017年9月
発生場所:カントー地方・ミナト第一小学校
関与ポケモン:不明


【未解決】旋律と消失

2017年9月、カントー地方南部の沿岸部に位置する《ミナト第一小学校》で小学4年生の女子児童3名が放課後に忽然と姿を消すという失踪事件が発生した。
いずれの児童も普段から成績・素行ともに良好で特別なトラブルを抱えていた様子はなく、事件当日も通常通り授業を終え、それぞれ清掃活動や自由学習のために校内に残っていたとされる。
最終的な目撃は午後3時20分から3時30分の間でいずれも複数の児童や教職員によってそれぞれ別の場所で確認されている。
その後、午後4時を過ぎても下校の報告がなく、夕方になっても帰宅しなかったことで3人の保護者から学校に連絡が入り教職員らが校内を捜索する事態となった。

捜索にあたった教師の内一名が校舎裏の焼却炉の前で異様な光景を目にした。
そこには3人分のランドセルと上履き、水筒、筆箱、帽子などが無傷で並べられていたという。
焼却炉自体は使われておらず、内部には灰や燃えた痕跡は確認されなかった。
また現場周辺には人間やポケモンの足跡、引きずった痕、血痕、破損した草花といった異変は一切見られず、空気に異臭や煙の痕跡もなかった。

焼却炉の位置は校舎とフェンスの隙間にあるような場所で昼間でも人目に付きにくく、防犯カメラも設置されていなかった。
周囲には木製のベンチや給食コンテナの洗い場があるがその日は使用された形跡がなく目撃証言も一切なかったため、持ち物の所有者である児童らが焼却炉前に集まったのかすら謎であった。

事件当時、校内には30名ほどの児童が残っており、事情聴取の際にその内24名の児童が『どこかからオルゴールみたいな音が聞こえた』と証言していた。
しかし音の出所については《音楽室》《旧校舎の階段》《用具室の奥》《視聴覚室》《三階の女子トイレ》など、ばらつきが見られた。
ただし、その音が聞こえた全ての場所に人がいた形跡はなく、それ以外の物音もなかったという。

事件発生時刻と証言の整合性を検証するため《校内のチャイム装置》《音楽室内の楽器》《視聴覚室の再生機器》などが調査されたが、いずれも異常は認められなかった。
また、旧校舎は2005年の耐震基準変更により閉鎖され、以降は資材置き場となっていたがそこにも侵入や活動の形跡は確認されていなかった。
関係者の間では証言された《オルゴールの音》が幻聴である可能性も取り沙汰されたが、児童24名全てが個別の聞き取りにおいて同様の表現を用いたことから何らかの共通の音源が存在していた可能性は否定できなかった。

一方、野生ポケモンの関与を疑う調査も同時に進められたが当日校舎付近で目撃されたポケモンはいずれも《コラッタ》《ポッポ》《ニャース》など、ごく一般的で小型の種ばかりであり人間を襲う兆候は確認されなかった。
その後ワープ干渉、催眠、幻覚などを伴う異常行動を調査するため地方研究機関も派遣されたが現場から特定のポケモン由来とみられる体毛、鱗粉、残留エネルギーの類は一切検出されなかった。

さらなる調査の過程で旧校舎の建設時に廃材の中から《限りなく真球に近いと思われる正体不明の物質》が浮遊しているのが発見されたが触れようとしたところ半径5メートルにあったあらゆる者が消失し、以降その《真球に近い謎の物質》も目撃されていない。
なお、この消失の際に真球の側にいた隊員3名も行方不明となっている。
市教育委員会はこの件についてコメントを控えているが教職員の間では『あの時の球体が何か関係しているのでは』と囁かれるようになった。

 

事件から数ヶ月が経過しても3人の児童の行方は掴めておらず、校内の出入り記録、防犯カメラ、交通記録においても不審な影は映らなかった。
保護者の1人は後に涙ながらに記者会見を開き『人間の仕業ではないように思える』と語り、その言葉は多くの保護者たちの間でも共有されていった。

現在、焼却炉は金属製のカバーで完全に閉鎖され周囲には立入禁止の柵が設けられている。
だが、その封鎖が完了する前、一度だけ夜間に校舎から大きな鐘の音が響き渡り、その音と振動を全ての近隣住民が体感したという。
音の正体は不明のままだが現場近くに暮らす一部の住民の間では『時折遠くからオルゴールの音が聞こえてくる』という証言がされており、まだ事件は終わっていない不気味さが残っている。

――文・【フカザワ・アヤカ】(カントー超常事件調査班)


【管理人の考察】

焼却炉前の最後の痕跡

焼却炉前に水筒や上履きに至るまで整然と並べられていた点から、突発的な誘拐や事故とは異なる何らかの意図が作用した可能性を感じさせる。
《ナニカ》がどういう意図で持ち物を並べたのかはわからないが、本人たちが自発的に置いたとはどうしても思えない。
現状の科学力においてはポケモンによる干渉の痕跡が一切確認できなかったが、既知の超能力やテレポートとは異なる《何らかのチカラ》が働いていたのではないだろうか。

《音》の正体

24名の児童が共通して《オルゴールの音》を聴いたと証言した事実は事件に音を媒介とする何らかの作用が関与していた可能性を示唆しているのではないだろうか。
興味深いのは音源とされた場所が複数に分散しておりどれも物理的な音響機器や人の介在が確認されていないのと、校舎に残っていた教師は誰一人として音を聞いていないという点である。
この音が《同時多発的に錯覚された幻聴》であったと考える者もいたがそれでは説明しきれない整合性の高さがあるといえる。
特定の児童にのみ音を感知させる特殊な作用、あるいは局所的な認識の歪みが一時的に校内全域に及んでいた可能性も否定はできない。

真球の存在と消失現象

旧校舎で発見された《限りなく真球に近い物体》は現代の物理法則では説明し難い挙動を示している。
接触を試みた瞬間、半径5メートル内の全てが消失したという報告は従来のポケモンによる能力とも一致せず、また物質的反応としても異質な現象である。
この球体が事件の核であると仮定すれば消失した児童たちもまた何らかの形で《触れた》のではないかという仮説が浮かぶ。
ただし、その球体の出現経緯や構造が一切不明であることから存在自体が一時的な位相の揺らぎや異次元的干渉によるものであった可能性も考えられる。

継続する《音》

事件後も一部の住民が《遠くからオルゴールの音が聞こえる》と語っていることからもあの《音》が未だにこの場所に何らかの形で留まり続けていることを示唆している。
《夜間に鳴り響いた鐘》という現象も含め、音を媒体とする《ナニカ》が残存し断続的に周囲へ影響を与えているようにも考えられないだろうか。
果たしてそれは《ナニカ》の残響なのか、それともこの土地が持つ特異性なのか、その結論は未だ見えない。

人為の否定が残す恐怖

保護者の『人間の仕業ではないように思える』という発言は憶測を含んだものであるとはいえ、事件全体に通底する《痕跡のなさ》を的確に表現している。
あらゆる痕跡がなく、どこにも姿を残さず消失しているのは常識的な捜査の網から完全に外れている。
このような消え方をした存在を探すという行為そのものの妥当性すら問われる状況は、周囲の人々に対して不可逆な不安を与え続けているように感じられる。
《終わっていない事件》という表現がこの場合ふさわしいとすれば、それは捜索の未完ではなく《理解そのものが途絶している》ことの表れなのではないだろうか。

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