発生日時:1896年7月
発生場所:ジョウト地方・シラユリ村
関与ポケモン:不明
【未解決】沼に築かれたシルシ
1896年7月14日の早朝、ジョウト地方北東に位置する【シラユリ村】の《シラユリ沼地》で、農作業に向かっていた男性が浅瀬の水面にいくつもの衣服や布切れが浮いているのを発見した。
長雨で増水した沼の水は不気味なほど澄まず漂う布には泥がこびりついていたが、模様や織りの特徴から日用品であることは一目瞭然だったという。
通報を受けた駐在所の巡査が確認に向かったところ、それらの衣服は村内や隣接する【エンジュシティ】に暮らす複数の若夫婦の所持品と判明。
近隣住民への聞き取りによってこれらの夫婦たちが数日前から姿を見せていないことが明らかになり、当初は沼に足を取られて転落した事故かとも考えられた。
だが、最終的に失踪が確認されたのは8組16名の夫婦。
それぞれ住んでいる場所も仕事も異なり偶然の事故とは考えられず、エンジュシティ警察は異常事態として捜索隊を組織。
村人らの協力のもと沼地一帯を網羅する広域調査が始まった。
しかし、足場の悪さと濃霧により人にもポケモンにも厳しい環境で進捗は遅々として進まなかった。
二日目に投入された嗅覚に優れたポケモンたちも湿地特有の強い腐臭に感覚を乱され手がかりの収集は困難を極めた。
捜索開始から六日目、ある隊員が沼地の中ほどに存在する小さな丘陵地に足を踏み入れた。
背の高い雑草が密集するその場所は増水した沼の中で唯一高く突き出ており《沼の目》とも言える異質な存在だった。
中を突き進んでいくとふと、高さ約2メートルの奇怪な構造物がそびえているのを発見した。
それは《人間の四肢や胴体を切り離し、泥とツタで編み上げた儀式的なトーテムオブジェ》であり、泥に塗れて崩れかけた複数の顔面が判別不可能な状態で積み上げられていたという。
また、複数人の腕をつなぎ合わせたモノが異様な角度で空へと突き出され、先端にある複数の手には何かを掴むような形跡が残されていたという。
回収された遺体の断片は腐敗の進行と泥の侵食により身元の特定に時間を要したが、織物の模様や装飾品の破片などから失踪した夫婦のものであると確認された。
しかし、すべての身体部位が揃っていたわけではなく、頭部も10人分しか確認されなかったという。
警察はトーテムが置かれていた丘周辺を集中的に掘り返し探したが他の体の部位含めた被害者の痕跡は何一つ見つからなかった。
その後の調査で湿地に生息する野生ポケモンであるノコッチやウパーのような小型生物の通過痕等は散見されたが、あの巨大な構造物を作り上げられる存在は確認されず、凶行に関与したポケモンの種別はおろか、人の手によるものだったかどうかすら判然としなかった。
事件の異様さはその後も多くの憶測を呼び、一部では古代の風習や土着信仰による儀式殺人ではないかとする声もあったが、村の年長者たちもそのような風習を聞いたことはないと否定。
沼地は立入禁止区域に指定され近づく者は皆無となり、沼地の南側にあった複数の農地も放棄されることとなった。
その後、村の人口は徐々に減少していき現在ではシラユリ村には数える程度の住民しか住んでいないという。
だがこの地で同様の事件が起こることは一度もなく、あの一回で目的は成し遂げられたのではないかと考えられている。

――文・【タケル・ハシロ】(ジョウト地方事件記録局)
【管理人の考察】
狙われた夫婦
被害に遭った16名はいずれも若い夫婦だった。
住居や職業に一貫性はないとされているが、それでも《夫婦》という括りで標的が絞られていた点は無視できない。
つまり偶発的に巻き込まれたわけではなく意図的に選ばれ、連れ去られた可能性が高い。
しかしこれだけの人数を別々の生活圏から一度に、誰にも気づかれず沼地に引き込む手段があったとすれば、単独の人間や通常のポケモンでは到底不可能だ。
まるでそこだけ別の時間が流れていたか、異空間を通ったのではないかとさえ思えてくる。
人の関与
事件現場には小型の野生ポケモンの通過痕が確認された程度であり、大型のポケモンによる痕跡や明確な捕食の形跡等は見当たらなかった。
身体を解体し、編み込み、積み上げる行為そのものが高度な知性を示しており、我々の知り得ない宗教に基づいているのかもしれない。
行ったのが人間かポケモンであるかは断定できないが、少なくとも《獣》のそれではない。
問題はこのような事をポケモン単体で行う事例がないため、少なからず誰かしら人間が関与していた可能性が極めて高いという所である。
罰せられず、邪魔されずにいたその人物はその後どこで何をしているのだろうか。
一度きりの完結性
以降この沼地で同様の事件は一切発生していないという事実は犯人あるいは《ナニカ》の目的が既に完了していたことを示している。
さらに、これは模倣や突発の衝動ではなくあくまで《必要な行為》だった可能性を強める。
トーテムにされていない失踪した人も、《必要とされた数》だったのかもしれない。
だが、あくまでも《トーテム化》は達成しているのであって、《別のナニカ》はその後も継続して行っていたのかもしれない。
内容が全く異なるが、実は知らぬ所で繋がっている…そんな恐ろしい事件がまだ隠れている可能性がある。
村に残された空白
事件後に村が静かに崩れていったことはこの出来事が単なる事件ではなく《土地に根差した恐れ》として根付いてしまったことを物語っている。
信仰も風習も存在しなかったと語られるこの村に突如現れた未確認の暴力。
それがどこから来て、どこへ去ったのかは今もわかっていない。
ただひとつ言えるのは何かがこの場所を使って《ナニカ》を行い、そして《達成》したということだ。
もしかしたら《村から人がいなくなる》事すら儀式の一貫だったのかもしれない。
構事件録
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