【解決済】閉ざされた花壇

発生日時:1954年5月
発生場所:カロス地方・ベルモントタウン
関与ポケモン:フシギソウ(1体・トレーナー所有)
関与人物:マルセル・ロワ(園芸家/逮捕)


【解決済】閉ざされた花壇

1954年5月、カロス地方《ベルモントタウン》の外れで通行人が高い生け垣で周囲を覆われた庭園から異様な臭いを感じたため帰りがけに憲兵へその事を報告した。
その日の夕方に現場へ駆け付けた憲兵が門を開いて内部に入ると中心には太い茎と蔓が絡み合った植物の塊が塔のように立ち上がり庭全体が甘い花粉と腐敗臭が混ざり合った異常な空気に満ちており、最奥の中央には三基の石製祭壇が並び、その表面には黒く乾いた血痕が固着していたのを目撃した。
そのまま奥へ進もうとするも土は不自然に柔らかく足を踏み込むたび沈み、その影響で掘り返された箇所からは人骨や衣服片が露わとなったため現場は直ちに封鎖される事となった。

この庭の所有者である【マルセル・ロワ(56)】ベルモントタウンで長年園芸を営んできた人物であり、園芸学校で学びを得たあと薬草や花卉を扱いながら自らの一族が所有する敷地を改良しき庭園を築き上げていたという。
彼は地域では穏やかで理知的な園芸家として知られていたが敷地内ではどのような事をしているのかを知るものはおらず、このような儀式場を作り多数の人を犠牲にしたことに村は衝撃に包まれた。

その後の発掘調査により庭の各所から年代の異なる複数の埋葬跡が見つかり、最も新しい層は事件直前のもの、最も古い層は35年前に遡ると推定された。
出土した遺留品は近隣の村や街で行方不明になっていた行商人や労働者のものと一致しており、長期にわたって失踪事件の温床となっていたことが裏付けられた。

三基の祭壇はそれぞれ異なる状態で保存されており、最も古い一基は苔に覆われ四隅に金属の輪が固定されており、新しい二基には石を叩いた痕が残り中央部には蔓の結び目が埋め込まれていた。
周囲からは火皿や香の灰も発見され、長年にわたり夜ごとに何らかの儀式が繰り返されていたことが明らかとなった。

さらに庭の中央を掘り下げると1体の《フシギソウ》が埋められているのが確認された。
フシギソウは酷く衰弱しており花芽は開かぬまま肥大化し、目は虚ろで葉は色褪せていた。
土の層からは大量の粉末が堆積しており、分析の結果これらは強い睡眠作用、鎮静作用、さらに幻覚作用を持つ成分であると判明。
フシギソウはその場で長期間拘束され、動けぬまま儀式の一部として利用されていたと考えられる。

また、祭壇付近からは布片や革の切れ端が見つかり、杭や金属輪には人を縛った痕跡が残されていた。
検視の結果、致命的な外傷を与えるものはほとんどなかったため拘束と花粉によって意識を低下させほぼ全ての者が衰弱死に至ったと推定された。
裁判でロワは最後まで『誰も傷つけていない、罪を抱えた人々は皆自ら大地に眠ったのだ』と繰り返し無実を主張したが拘束具の存在はその主張を覆し、犠牲者が自由意思で儀式に参加した可能性は極めて低いと判断し、法廷は有罪判決を下した。

その後押収された手帳には【自然と同化し土へ還り花を咲かせれば罪は浄化される】といった文言が繰り返し書かれており、ロワが個人的な信念として人と植物の融合を追い求めていたことが浮き彫りになった。
なお、フシギソウベルモントタウンにほど近い《キナンシティポケモン保護施設》に移されたものの体力は戻らず、季節を一つ越した頃に死亡したという記録が残されている。

――文・【クレール・マルトー】(カロス異常事件調査班)


【管理人の感想】

ベルモントタウンの庭園に残された痕跡は人間の営みと自然との結びつきが歪んだ形で暴走した末路を示しているように感じられる。
長年地域に親しまれてきた園芸家がその裏で数十年にわたり人を庭に埋め、祭壇を築き、儀式を繰り返していたという事実は静かな日常とその背後に潜む異常性の落差があまりに大きい。
人骨や遺留品が世代を越えて積み重なっていたことからも失踪が偶発的ではなく持続的に繰り返されていた証左であり、地域社会がどれほど長く気づかずに見過ごしてきたかを思わせる。

中央に拘束されていたフシギソウは儀式に組み込まれる形で衰弱し続け、保護された後も体力を取り戻せず命を落としたという経緯はポケモンが人間の信念の犠牲にされた数少ない事例として強い痛ましさを伴う。
ロワ《人と植物の融合》を追い求めた結果もっとも近しい存在であるポケモンまでもが犠牲となったことはこの事件の異常性と救いの無さを際立たせているのではないだろうか。

手帳に残された《土へ還り花を咲かせれば罪は浄化される》という言葉には宗教的とも幻想的とも取れる思い込みが綴られているが彼にとっては一貫した信念でも外から見れば命を軽視した狂信としか映らない。
その歪んだ思想が地域の平穏を侵食し、多くの命を奪った事実は信念が暴走すれば取り返しのつかない惨劇を生むことを強く示しているように思われた。

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