発生日時:2023年4月
発生場所:カロス地方・ボルドノワ村
関与ポケモン:ワタッコ(複数・野生)
【解決済】漂う劇薬の綿
旅の途中、カロス地方南部の山あいにある【ボルドノワ村】を訪れた若きトレーナーは出会った村人たちの奇妙な様子に戸惑いを覚えた。
彼らは所在なげにボンヤリと立ち尽くしていたかと思えば、唐突に陽気に笑いだしたり叫びだすかと思えば、泣きながら抱き合い謝罪の言葉を口にする者などがいた。
しかもその変化は一日のうちに何度も繰り返され、話しかけてもほとんど要領を得ず、数時間後にはトレーナーの名前すら記憶にないような反応をされることも多々あった。
2日ほど経過すると、皆一様にどこかへと向かい、そこから戻ると陽気になっていることに気がついた。
違和感と不安を抱いたトレーナーが村人たちの後を忍びながら辿ると、村外れの林を抜けた先にある小高い丘にたどり着いた。
そこには一本の老木がそびえており、その枝という枝に大量の《ワタッコ》たちが群れをなして浮遊していた。
さらに、その根元では十数人の村人が地面に寝転び、あるいは酒瓶を片手に互いに絡みつきながら奇声を上げ、その殆どが羞恥も忘れたように全裸で身体を重ね合っていた。
花見というにはあまりに過剰で、狂乱というには幸福そうなその異様な光景に恐怖を覚えたトレーナーは数日前に助けてもらった《エーテル財団カロス支部の幹部》へ連絡を入れ、調査を依頼した。
数日後、現地入りした《エーテル財団》の調査により、この老木の樹皮から揮発する特定成分を吸収したワタッコの綿から自然界には存在しない合成物質《メチレンジオキシメタンフェタミン》が生成されていることが判明した。
これは既知の強力な幻覚性麻薬と類似した構造を持ち、吸引によって多幸感や知覚の変容、強い依存性を引き起こす危険性があった。
村の住人に対する身体検査の結果、多くが慢性的な不眠や記憶障害、情緒不安定、不安症状に悩まされていたうえ、自身の意思とは無関係に毎朝その木のもとへと足を運び日が暮れるまで騒ぎ続けるという行動を繰り返していたことも確認された。
さらに、中には転倒や川への転落事故によって命を落とした者や、重度の廃人状態に陥った者もいた。
それでも村人の多くは老木の元を離れようとはせず、村長も『もう自分達ではどうしようもない』と嘆いており、ほぼ全住民がが中毒症状により苦しんでいると断定された。
エーテル財団が介入してからわずか数週間のうちにそびえていた老木を覆うように《巨大な研究施設》が建設され、一般の立ち入りが厳重に制限された。
その後、村の事を知った記者などからは『木の伐採を行うべきではないか』という声も上がったが、エーテル財団は『この物質は極めて重要で今後の医学・生態学において極めて価値のある研究対象である』として樹木を保護する方針を正式に決定した。
発表後半月ほどすると複数人からなる警察が施設内の調査を行ったが『施設の管理体制は極めて適正』とする見解を発表したため、以降の介入は実質不可能となっている。
なお、当時木に群がっていたワタッコの一部は既に風にのって村外へ飛び去ったとされ正確な個体数は不明だが、施設建設前にエーテル財団により確認された個体群は全て捕獲され、現在も研究施設内で保護・管理されているという。
エーテル財団は『成分の安全性と作用機序の全容が明らかになるまで情報の開示は行わない』と発表しているが、一部では
『既に成分の解析は済んでおり、軍事や医療、精神制御技術への転用が進んでいるのではないか』
『調査に入った警察関係者はエーテル財団と癒着していたのでは』
といった疑念がささやかれており、現在も陰謀論的に拡散されている文書や映像がSNS上に流れ続けている。

――文・【イズナ・マコト】(カロス精神環境民俗研究所)
【管理人の感想】
ワタッコのような一見無害で愛らしいポケモンが人々の自我を奪い、生活を崩壊させていたという事実は衝撃的である。
だが勘違いしてはならないのはその原因がワタッコ自身の意思や攻撃によるものではなかったという点だ。
老木とワタッコにより生成された化学物質というのは偶然の産物としか思えない。
そんな偶然の産物に人間の脳が脆くも侵され、判断力も尊厳も奪われていく様子はただただ不気味である。
通い続けた村人たちは確かに理性を失っていたかもしれない。
だが誰も止めず、むしろ新たに誘いながら数を増やし自らの意思であの木のもとへ通っていたのであればそれはやはり『自身の意志である』とも言えるのではないだろうか。
その事を棚に上げて《薬物のせいだから》という免罪符を掲げて暴挙に出ることは断じて許されるものではないはずだ。
エーテル財団と警察が癒着していた可能性を考えると今もあの木とワタッコを使用してさらなる劇薬を生成している可能性すらある。
勿論、それが治療や医療に利用されるのであれば問題ないがあれほど簡単に人を壊す物質を果たして後遺症や副作用無しで安全に利用できるのだろうか。
今あの地に根を張っているのは老木でもワタッコでもなく、《人間の底しれぬ業》なのかもしれない。
構事件録
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