発生日時:2023年6月
発生場所:パルデア地方・ピケタウン
関与ポケモン:グレンアルマ(1体・野生)
【解決済】業火の祈り
2023年6月13日未明、パルデア地方・ピケタウン旧市街の廃墟群に佇む【旧聖バルデミオン礼拝堂】から夜空を焦がす火柱が立ち上った。
通報を受けた消防と警察が現場に急行したものの礼拝堂は既に業火に包まれており、鎮火作業は夜明けまで続いた。
火が収まったのは翌14日の朝6時過ぎで、ようやく遺構内部への立ち入りが消防により許可された。
焼け跡から発見されたのは、6体の炭化遺体。
いずれも祭壇前の十字架に向かって整列し、正座または跪いたままの姿勢で両手を胸前に合わせており、その体勢を崩すことなく炭と化していた。
焼損が激しく、当初は身元の判別が難航したが法医学的調査と歯型照合の末、身元が判明した三名は全て40年前に異端団体として摘発された【聖灰の巡礼会】の元構成員であると特定された。
残りの三名は不明のままだったが、同じく【聖灰の巡礼会】の関係者である可能性が極めて高いとされている。
【聖灰の巡礼会】はかつて【焰(ほのお)によって魂を浄化し、神と交信せよ】という教義を掲げ各地で小規模な火災騒ぎを繰り返していた過去を持つ。
その活動は過激さを増し、最終的には田畑への放火や《複数の民家を全焼》させるまで発展し社会的脅威として摘発された。
以降、表立った活動は途絶え撲滅に成功したとされてきたが、今回の事件により長年水面下で儀式を継続していた事実が明らかになった。
身元が判明した一人の自宅からは一冊の日記が発見された。
毎日びっしりと祈りの言葉と世界がいかに汚れているかが綴られていたが、事件前日には短く以下のように記述されていた。
『赦しの焰が我らを迎えに来る時は満ちた。
巡礼の祈りは整った。
真なる主の審判に肉の穢れを委ねる。
我が魂はついに浄化される。』
現場に設置されていた監視カメラは全て火災で失われていたが、映像データはクラウドに自動保存されていたため火災発生直前の様子が後日確認された。
記録映像によれば午前2時頃、礼拝堂内部にはろうそくの明かりのみが灯り、信者らしき人物たちが十字架の前に静かにひざまずいていた。
しばらくすると天井から《燃える甲冑を纏ったポケモン》がゆっくりと降臨してきた。
それは全身に炎をまとい、仮面のような顔と金属製の腕を有し、まるで中世の騎士のような威容を放っていた。
後に【グレンアルマ】と断定されるポケモンは無言のまま信者たちの前に立ち、片手をかざした。
その瞬間、最前列の1人の身体に突如として炎が灯る。
激しい火炎に包まれながらもその者はただ静かに祈りの姿勢を保ち続けた。
続けて2人目、3人目……と、順に同様の現象が起こり、6人全員が次々に焼かれていった。
誰一人として叫びも動揺もなく、まるで《待ち望んだ浄化》を受け入れるかのような態度で焼かれ続けていた。
6人全員が炎に包まれるとグレンアルマはゆっくりと腕を上に掲げた。
すると礼拝堂内は火柱に呑まれ、白飛びとノイズの中で記録は途絶えた。
その後周辺住民の聞き込みによって事件直後に礼拝堂裏手から森の方角へ向かって歩いていくグレンアルマを目撃したとの証言が寄せられた。
この証言と映像記録が一致したことで炎の騎士の正体は野生のグレンアルマであると断定された。
グレンアルマは一般的に強い忠誠心と騎士道精神を有し、安易に人間へ害をなすことはないとされている。
今回の件については【狂信的な信者たちの儀式によって心を歪めた】という説や【信仰対象に添えられたグレンアルマが、忠誠を尽くすかたちで信者たちが望む《神の審判》を実行したのではないか】などの推測が上がっている。
だがいずれも証拠不十分により今もなお結論には至っていない。
現在【旧聖バルデミオン礼拝堂】跡地は完全に封鎖され、行政当局の管轄のもと調査が継続されているが新たな発見は一度も見つかっていない。
内部はすでに崩壊しており、焦げ付いた壁面と祭壇の一部だけが灼熱の儀式の爪痕として残されており、今度こそ本当に【聖灰の巡礼会】を撲滅出来たのではないかと囁かれている。

――文・【パブロ・シエラ】(パルデア超常事象観測局)
【管理人の感想】
ただの火災や事件という言葉では到底足りないような不気味さと神聖さがあった。
姿勢を崩さず炭化した6人の信者、礼拝堂を包む炎、そして天から降り立った《燃える騎士》。
現実の出来事なのにどこかの宗教画をそのまま再現したような、不覚にも《完成された絵》のように感じてしまった。
最も印象的だったのは焼かれていく瞬間に誰一人として動かなかったこと。
激しい火に包まれながらも祈りの姿勢を崩さず、まるでずっとその瞬間を待っていたように沈黙し続けた。
本当に救いを求めていたのか、それとも絶望の果てに選んだ美化された最期だったのか。
真意はわからないが、しかしそこには確かに信仰があったと思える。
グレンアルマの行動も異様だった。
本来は忠義や正義を重んじるはずのポケモンが信仰の対象とされたことで自身の行動原理がねじ曲げられてしまったのだとしたら…
それは人間の祈りが生み出した《業そのもの》、または《呪い》と言えるのではないだろうか。
浄化を求めて灰になった彼らと、それに応じた炎の騎士。
この儀式が果たして本当に終わったものなのか。
それとも今もどこかで続いているのか…
その答えが見つからないままでいる。
構事件録
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