【解決済】一匙の罪と誇り

発生日時:2022年10月
発生場所:パルデア地方・ベマリナシティ
関与ポケモン:エクスレッグ(1体・トレーナー所有)
関与人物:リカルド・セリス(料理人兼店主/逮捕)


【解決済】一匙の罪と誇り

ベマリナ海に面した港町ベマリナシティで観光客に人気だった一軒の小さなカフェがある朝の営業を最後に静かに姿を消した。
キッカケは2022年10月、朝食メニューを食べた客数名が嘔吐と目眩を訴えそのまま病院に運ばれたことだった。
搬送された者のうち5名が治療中に【壁の模様が動いて見える、魚の鳴き声が聞こえる、天井から赤い液体が垂れてくる】など奇妙な幻覚症状に悩まされた。
これらの症状から医療機関は薬物もしくは毒性物質の摂取を疑い警察に通報。
ベマリナ署の捜査班は即日カフェの厨房と食材、調味料を差し押さえ関係者への聞き取り調査を開始した。

そこで真っ先に押収されたのは厨房の鍵のかかった棚のにある紫がかった粉末が入った瓶であった。
店主の証言と化学分析の結果それは《エクスレッグ》から分泌される体液を乾燥・加工したものであった。
この体液はエクスレッグが捕食対象に麻痺効果を及ぼすために使用するものであるため過剰摂取時には神経系に一時的な異常をもたらすことが知られている。
本来そのまま食材と使用する事は許されていないが、調理師免許の中でも【特別調合法資格(パルデア第IV等)】を所持しており正しい工程で粉末状に加工し、適量を使用するのであれば法的にも認められていた。

カフェの店主であり料理人の【リカルド・セリス】はこの特別資格の保持者であった。
彼の供述によれば問題の粉末はごく微量をソースやペーストに混ぜることで味に【濃淡の層】を生み出す目的で用いていたとのこと。
身体に害が出ない使用方法を完全に見極めておりこれまでも一度も事故は起きなかったと話した。

しかし事件当日、店が朝から混雑していたこともあり調理後すぐに片付けるべき瓶が開封されたまま調理台の脇に置きっぱなしになっていた。
悲劇をもたらしたのは数日前に入ったばかりの新人アルバイトが【いつもこの瓶から入れているのを見ていたから】という理由で【既に完成していた料理にさらに粉末を追加投入】してしまったという。
その結果、通常の数倍以上の濃度の成分を客は摂取することとなり事故に至ったことが明らかになった。

アルバイトは調理補助としての勤務であり当然資格も保有しておらず本来その成分には触れてはならない立場だった。
通常鍵のかかった棚に入っていた瓶も瓶自体に封印処理がなされておらず、またリカルド本人も瓶から目を離した時間があったことから【管理体制の不備】を重く見られる事となり逮捕された。
だが一部の店の常連客たちはリカルドが持つ調理資格と技術、そして長年事故なく提供し続けてきた実績を挙げて【罰せられるべきは無断で触ったアルバイトのほうだ】と抗議の声を上げた。
それを受けてリカルドは取り調べで以下のように述べている。

『どんな理由があろうと使用後は自分で鍵付きの棚にしまい他の者の手が届かないようにすることも含めて責任者たるものだ。
今回はそれができず、多くのお客様に甚大な被害を与えてしまったことは全て自分の過失だと受け止めています。』

この言葉を最後に彼はすべての責任を引き受け法に従って起訴されそのまま拘留された。
裁判では重篤な健康被害がなかったこと、本人の反省の深さ、事件の発生が初犯であることなどが酌まれたが調理資格保持者としての管理義務違反は重大とされ実刑判決が下された。

事件後カフェは閉店し現在ではその店舗のシャッターに店主の釈放を願う手紙が差し込まれた花が日々添えられているという。
一部の客たちの間ではあの味をもう一度味わいたいという声も根強く残っていが事件以降エクスレッグの成分を用いた調理そのものがパルデア全国で禁止されたため、その味が二度と戻ることはないだろう。

――文・【セルジオ・マルティン】(パルデア食文化安全局調査班)


【管理人の感想】

美食と誇り、そして責任が複雑に絡み合った事件だったと思う。
リカルド・セリスという人物はただ腕のいい料理人というだけではなく、法の枠組みの中で高度な技術を扱える数少ない資格保持者だった。
そんな彼が自らの技術と信頼を懸けて扱っていた素材によって結果的に客を傷つけてしまったという事実はどこかやりきれなさを感じさせる。

原因を辿れば新人アルバイトの軽率な行動に端を発している。
しかし、それを完全に否定するでも責任を転嫁するでもなく、自分がその場を離れ管理を怠ったと自ら罪を引き受けたリカルドの姿勢には誇りある職人としての強さと弱さの両方が滲んでいたように思う。

事件のあと、店の前に花が添えられ再開を望む声が消えないという事からも彼の料理がどれほど多くの人に愛されていたかが伝わってくる。
誰かを傷つけるつもりなどなかったはずなのに、それでも彼から全てを奪っていったという現実があまりに重く、胸に残る。

技術と信頼の積み重ねが一瞬の油断で崩れる儚さ。
だがその中で責任を引き受け法の裁きを受けた彼の姿はどこまでも料理人としての矜持を保っていたとも考えられる。

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