【未解決】揺蕩う最期の約束

発生日時:2015年7月16日
発生場所:シンオウ地方・クロガネ町中央病院
関与ポケモン:フワンテ(単体)


【未解決】揺蕩う最期の約束

【クロガネ町中央病院】――市内最大規模のこの病院で、ある入院患者の死と共に語り継がれるようになったお話しがある。

2015年7月16日未明、この病院の西棟4階に入院していた高齢女性が、静かに息を引き取った。

看取ったのは夜勤の看護師1人と、面会に訪れていた女性の孫だった。

担当看護師によると女性は亡くなる10日ほど前から毎晩以下の内容を繰り返し話していたという。

『ねぇ…?見える?あの風船、今日も窓のところにいるのよ。

ふわふわ揺れながら、こっちを優しい目で見てて…
なんだかね、懐かしくて…安心するのよねぇ……』

その都度看護師が窓の外を確認しても何もなかったため、当初はせん妄の一種と考えられていた。
だが後に女性の病室に設置されている監視カメラを確認したところ、7月6日以降毎晩深夜2時前後になると窓の外に《ふわりと浮かび上がる丸い影》が映り込むようになっていた。

病室の窓は換気用に小さく開くのみで、外には足場になるようなものは何もない。

影の動きは風の流れとは一致せず、基本的に静止し、時折小さく左右に揺れていたという。

亡くなる直前、看護師がいつも通りの検査等を行っていた際に、女性はふと窓のほうに顔を向け、こう呟いた。

『そっか…そうだったのね…
ありがとうね、アナタもそっちに帰るのね』

その直後、彼女の心電図モニターは静かに平坦な線を描いた。

苦しんだ様子もなく、あまりにも唐突に、まるで眠りにつくような穏やかな最期だったと駆けつけた医師は語っている。

だが、後日病室の映像を確認していた院内職員が、気になる《音》に気付いた。

心停止の直前、窓ガラスの外側で《ピュィ…ピュィ…》という電子音や金属の擦れるような、しかしまるで《鳴き声》のような音が記録されていたのだ。

これと同じ音は【フワンテ】の浮遊時に発生する音に類似しており、解析の結果周波数帯も一致していた。

さらに病室の非常用外階段の手すりには《小さな灰紫色の繊維》が残されており、これは【フワンテ】の触手に類似した微繊維と判定された。

亡くなった女性の孫は退院手続きの際こう語っていた。

『私がまだ小さい頃よく海辺にある祖母の家に遊びに行っていたんですが、ある時から遠くでこちらをジッと見つめてくるフワンテが現れるようになって…
最初は不気味だったんですが祖母優しく微笑んで、「怖くないよ、大丈夫だよ」って言ってくれて。
実際一度も何か怖い思いをしなかったんですよね。いつも遠くで見てるだけで、近づこうとすると消えてしまって…

私が10歳くらいの頃から祖母の家にあまりいかなくなって、ちょうどそのくらいの時期からフワンテも現れなくなったらしいんです。
たまに祖母の家に行くといつも少し寂しそうに庭先を見つめてあの子を探しているようでした。』

その後の追跡では、クロガネ町内で野生のフワンテが単独で行動していた痕跡は確認できず、現在も出現記録はない。

病院側はこの件について公式なコメントを避けているが、一部の看護師の間では

『あの西棟の4階、夜になるとふわっと甘い風が吹く時があるのよ』と噂されている。

もし、あの夜の影が本当にその時のフワンテだとすれば、それはたぶん――

何かの《約束》を果たしに来ただけなのかもしれない。

――文・【ナナオ・ミズキ】(シンオウ地方特派ジャーナリスト)


【管理人の考察】

【フワンテは当時と同一個体なのか】

記録された影の存在と金属音、繊維反応、過去の話しなどから来訪者(フワンテ)は明確に女性に会いに来たと考えるべきだろう。

通りすがりの野生ポケモンではなく、《過去に出会い想いを交わした特定の個体》であった可能性が極めて高い。

【幻覚ではなく確かにそこにいた】

映像に残った影、そして音の周波数帯が【フワンテ】特有の音と一致した点は非常に重要である。

これは幻覚やせん妄のたぐいではなく《実際にフワンテが存在していた》という証拠になると考えられる。

また、外階段の手すりに残された微繊維は他のポケモンとの誤認では説明できない構造を持っていた。

つまりこれは明確にフワンテの来訪があったと確信をもって言える話しである。

【なぜ今、再びフワンテが現れたのか?】

孫の証言から、フワンテはかつて海辺の家で無くなった女性と接触があったことがわかる。

しかし、彼女らが出会ったのは遥か前なのではないだろうか?
一度は離れたものの、彼女の命が尽きるその時を見計らったかのようにフワンテは再び姿を現したのではなかろうか。

これはもしかしたら《別れの約束》を果たすために戻ってきたのだと考えられる。

【女性の言葉『そうだったのね…アナタもそっちに帰るのね』の意味】

フワンテが《何かの役目を終えた》ことを彼女が理解していた様子が伺える。

まるでかつての仲間が最期を見届けたうえであちらの世界へ帰っていく姿を、静かに見送ったかのような…
また、彼女は当初フワンテのことを忘れていたようだったが、最期には全てを思い出し、別れを告げられた事に満足したのかもしれない。

【なぜフワンテは今はもう目撃されないのか?】

フワンテはその役目を終えたため、もう現れないと考えられる。

それは決して消えてしまったのではなく、《もう戻る理由がなくなった》ということではなかろうか?

彼はずっと約束を守り、そしてそれを果たしたからこそ、静かに姿を消したのだ。

その後に流れる《甘い風》は、今も誰かのために残された《お別れの余韻》にすぎないのかもしれない。


【管理人の感想】

この事件を知った時、最初に浮かんだ感情は【切なさと寂しさ】だった。

でも、それと同時に、きっとこの人は最期まで一人じゃなかったんだろうなとも思えた。

毎晩ふわりと窓の外に浮かぶ影、それが遥か昔、子供の頃に交わした《小さな約束》だったとしたら……

なぜ一度いなくなってしまったのかはわからないが、もしかしたら常に遠くから見守っていたのかもしれない。
そして忘れられていても、言葉を交わせなくとも、ただ一度だけ《そっと見送るため》にまた現れてくれたのではなかろうか。

人間とポケモンの関係が、バトルや育成だけでなく、こういう形でもつながっているのなら――

それはきっと、とても優しくて、切なくて、少しだけ羨ましい。

私もいつか最期を迎える時に《そっと浮かぶ影》が現れるなら……そんなふうに思った。

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