【解決済】春を撒く影

発生日時:2011年3月
発生場所:ホウエン地方・シダケタウン
関与ポケモン:キノガッサ(1体・野生)


【解決済】春を撒く影

2011年3月、ホウエン地方シダケタウン近郊の山中で1人の女性が命を落とすという痛ましい事件が発生した。
亡くなったのはシダケタウンに住む【イワサ・ユカリ(28歳)】

彼女は登山好きで知られ、その日も友人たちとともに春の山へとハイキングに訪れた。
当日は天候も良く、軽装でも歩ける穏やかなルートをユカリは友人たちと談笑しながら楽しんでいたが、昼過ぎの休憩中に『すぐ戻る』と言い残して一人で近くの小道へ姿を消した。
だが彼女は何十分待っても戻って来なかったため不安に思った友人たちが手分けして探しに行ったところ、わずか5分ほど離れた林の奥で彼女の遺体を発見した。

倒れていたユカリの身体は全身が白みがかった緑色の粉にまみれ、まるで《花粉を全身に浴びた》ようだったという。
目立った外傷はなかったが表情は苦悶に歪み、皮膚の一部には爛れたような痕が確認された。
ユカリのもとへと駆け寄ろうとした瞬間、それまで木の陰で見えていなかったがユカリのすぐ傍には1体の《青いキノガッサ》が立っていることに気が付き足を止めた。
しばらくお互い硬直し見つめ合った後、キノガッサは突然その場から逃げ去り、友人たちは急いで警察と救急に通報。
現場に駆けつけた救助隊により改めてユカリはすでに死亡していることが確認された。

検死の結果、死因はキノガッサが放出した《胞子》による中毒死だった事が判明。
不可解なのが通常キノガッサの胞子は麻痺や眠りを引き起こすことはあっても短時間で死に至らせるほどの毒性は持たないことで知られているものの、今回採取された胞子からは過去に一度も記録されたことのない《強い神経毒》が検出されたことであった。
詳しい調査の結果その毒性はごく微量でも短時間のうちに複数の人間が致死に至るレベルだったという。

この異常な反応は自然変異によるものか環境要因か、それとも未知の進化的な特異性か専門家による調査が行われたが結論は出なかった。
それを確認するためにも山岳救助隊と環境保護団体によって当該のキノガッサの捕獲を試みたものの数ヶ月にわたる捜索でも姿を確認することはできなかった。
山は広く、またキノガッサは俊敏かつ用心深いため人目を避けて行動すれば発見は極めて困難であり、やむなく捜索を断念することが決定された。

事件後、地元自治体は登山ルートの一部を閉鎖し、登山客には必ずガイド同行で登るよう呼びかける措置を講じた。
以降、同様の被害は報告されていないが現在も《シダケ山の青いキノガッサ》は山に生息しており、人が訪れたら容赦しないと語り継がれている。

亡くなったユカリの家族は命を落とした山の麓に静かに花を手向け続けており、彼女の死は小さな村の記憶とともに忘れ去られることなく語り継がれている。

――文・【イズナ・マコト】(ホウエン生態危機研究所)


【管理人の感想】

キノガッサの胞子による死亡という点だけを見ると不幸な事故に過ぎないが、《青いキノガッサ》という異常個体が絡んでいた事とその個体が以降一度も発見されることなく今もなお山のどこかに生きているというのが妙に心に引っかかる。

特に印象に残るのは被害者であるイワサ・ユカリがなんら特別な行動をとったわけではなかったという点である。
わずかに離れたほんの数分で命を奪われる理不尽さは誰にでも起こり得た事だったのだろうと考えられる。
事件の背景に明確な悪意や意図が感じられないぶん、かえって静かで冷たい不気味さが際立つ。

最終的にキノガッサは捕獲されず実在したのかも確認されないまま、ただ登山ルートが封鎖されたが、この処置は必要不可欠だったと考えられる。
人間の都合にあわせるだけでは、自然との共存はできないため、恐ろしい個体がいる可能性があり、その縄張りである可能性が高いルートは専門家以外は足を踏み入れるべきではないからだ。

いいね! 2 この記事が気に入ったら「いいね!」してね

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です