発生日時:2022年7月
発生場所:カントー地方・オウカ要塞跡
関与ポケモン:アブソル(1体・野生)
【解決済】翡翠の警告
カントー地方南西部の山間にある《オウカ要塞跡》は戦乱期に築かれた堅牢な砦として知られながらも長らく廃墟のまま忘れ去られていた。
しかし2022年4月、《ドンナモンジャTV》で歴史的遺産として公開されるとその姿は注目を集め、家族連れや歴史好き、写真家たちで賑わっていった。
同年5月には市が観光地として石畳や崩れかけた石壁の間に遊歩道や簡易照明を設け、日々多くの人々が足を運ぶ観光地として整備されていった。
事件が起きたのは同年7月28日の午後2時過ぎ。
真夏の強い日差しが石壁を焼き、蝉の声が木霊する中庭で人々が談笑していたその時、城門跡の影から突如として通常よりも遥かに大きく、体長およそ3メートルにも達する《アブソル》が現れた。
そのアブソルは翡翠色に淡く光を放つ角を持ちながら毛並みは純白に輝いており、神秘的でありながらも不気味な存在感を放っていた。
人々がアブソルを撮影しようとスマホを向け始めると、鋭い咆哮をあげながら人間にもわかるレベルでの強烈な殺気を放つと観光客の間に悲鳴と混乱が広がった。
逃げ惑う群衆の中で転倒や落下が相次ぎ負傷者が続出し現場は瞬く間に混乱の坩堝と化した。
だがどれほど人が騒ぎ立てようとアブソルが襲いかかることはなく、あくまで侵入者を退かせようとするように暗闇でも光る鋭い眼差しで群衆を威嚇し続けたという。
現地警備員が必死に避難を促す中、ほどなくしてポケモンレンジャー隊が駆けつけ即座に合計8体のポケモンを繰り出して対応にあたった。
だがその瞬間、アブソルの体が翡翠の光を帯びるように輝きながら全身を包むような緑のオーラが広がったかと思うとその場にいた全員に高重力が発生したかのような圧迫感が走り、地鳴りのような低音が響く中、尋常ならざるプレッシャーが場を支配した。
その威圧感により鍛え抜かれたレンジャー隊のポケモンでさえ次々と身を震わせ、視線を逸らし、ついには足を動かすことすらできなくなったという。
まるで大地そのものが彼らの身体を縛り付けているかのようであり、練度の高い個体であっても一歩を踏み出す勇気を奪われていた。
だが不思議なことにアブソルは圧倒的な力量差があることを示しながらも一切攻撃には移らず、ただ群衆とレンジャーに退去を促すかのようにその殺気を放ち続けていた。
レンジャー隊隊長はすぐさま状況を見極め無用な衝突を避けるため他の隊員に全てのポケモンをモンスターボールに戻し、避難を手助けするよう命令を下した。
アブソルの前に唯一残された隊長は背筋を冷たい汗が流れるほどの緊張感に包まれながらも、一度もアブソルから視線を外すことなくその場に立ち続けたという。
そして唯一怯むことなく彼の隣に並び立ったのが隊長の長年の相棒である《ルカリオ》であった。
ルカリオと隊長は互いに目配せを交わし一定の距離を保ちつつアブソルを牽制し、隊員による避難誘導が完了するまで動かずに対峙を続けた。
やがて観光客や負傷者が全て安全圏へと退避し人の姿が消えていくと、その瞬間アブソルの纏っていた緑のオーラはふっと掻き消え、鋭かった眼差しも静かに和らぎ、殺気が霧のように解け、最後には振り返ることなく要塞跡の奥の闇へと溶け込むように姿を消していったという。
隊長はその場で追跡を試みることはせずその場を離れ、人命の保護を最優先としながら現場の収束を確認するに留めた。
その後、この異常な出来事の背景を探る調査が即座に開始され、その結果要塞跡の地下に広がる石灰岩層が違法採掘によって大きく損傷し、亀裂が広がっていたことが判明。
そのあまりにも悲惨な状態に専門家は『数日以内に大規模崩落が発生してもおかしくなかった』と警鐘を鳴らしたという。
その事からアブソルが人々を威嚇して退かせた理由はこの崩落の前兆を察知し人命を守るための《警告行動》であった可能性が極めて高いと結論付けられた。
同年9月には違法採掘を行っていた一団は全て摘発され、現場からは未登録鉱石や採掘器具が押収された。
観光開発の隙を突き地下へ侵入していた彼らは結果として多数の来場者を危険に晒したとして重罪に問われたという。
事件後、《オウカ要塞跡》は完全に封鎖され長期にわたる地盤安定化工事が施された。
数年を経て安全が確認されたのちに再び一般公開されたが今なお地元では《翡翠角のアブソル》の伝説が語り継がれている。
その巨体、緑のオーラ、そして人々を威嚇しながらも一切攻撃を加えなかった姿は災厄を予兆し命を救った《英雄の象徴》として人々の心に刻まれた。

――文・【サカモト・レン】(カントー地方史災害研究会)
管理人の感想
翡翠の光を纏ったアブソルが要塞跡に集まった群衆を前に放った圧倒的な威圧は絶望的な恐怖を与えて人の心を沈黙させるほどの力を持っていた。
誰一人として逆らえぬ空気の中でそれでも冷静に人々を避難させる判断を下したレンジャー隊の活躍には多くの人が救われたのではないだろうか。
攻撃を加えることなくただ威圧し人を救った行動は恐怖の象徴ではなく、破滅の前に立ちはだかる警鐘としての姿として《災厄を呼ぶ》とされるアブソルの伝承に新たな意味を与えたように思える。
また、違法採掘という人の身勝手さが生んだ危機に対し最初に警告を発したのが人ではなくポケモンであったことは重く受け止めなければならない。
あの日の要塞跡に漂った緑の光は災害を告げる不吉さではなく人々を守ろうとする強さの象徴だったのではないだろうか。
構事件録
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