【解決済】沈まぬ夢

発生日時:1992年7月
発生場所:カロス地方・ルデルシティ
関与ポケモン:ダダリン(1体・野生)


【解決済】沈まぬ夢

1992年7月、カロス地方南部の古くから小さな港町として知られるルデルシティの沖合で、長年地元の語り草となっていた《沈没船》がついに発見された。
発見したのはルデルシティの海に人生のほとんどを捧げたベテランのトレジャーハンター【マルセル・ディベール(享年62歳)】率いる探索チームだった。

マルセルはかつて交易の要衝だったルデルシティの歴史に魅せられ《40年以上》もの間伝説の沈没船を探し続けていた男だった。
当初は金銭目的ではあったが、いつの間にか彼の中ではただ純粋に歴史を掘り起こし、消えた船の真実を世に伝えることを夢見ていた。
これまでも数え切れないほどの捜索を行い、そのたびに潮に流され、天候に阻まれ、成果なく戻る日々が続いていたが、ついにその時は訪れた。
彼らが海に沈めた遠隔ソナーが《大型の船体らしき反応》を捉えたのである。

その日の天候は晴れており波も穏やかで、絶好の潜水日和のなか、マルセルは高鳴る胸を押さえながらフル装備で海へと潜った。
やがて深い青の世界の奥で《朽ちた巨船》の姿がぼんやりと現れた。
それは彼が幾度も夢に見た光景そのものであり、無線で彼は船上の仲間に向けてただ一言『ついに見つけた。』とだけ伝えた。
だがその声を最後にマルセルからの通信は突然途絶え、約束の時間を過ぎても彼は海上へ戻ってこなかった。

異変を察知したクルーたちはすぐさま海上保安隊へ通報。
救助隊が駆けつけ救助作業が行われたが海中は異様なまでに暗く、どこか重く沈んだ気配に満ちていた。
さらに何度潜っても海底へ向かう途中でダイバーたちは《見えないナニカ》に押し返されるようにして船を目視することすら叶わなかった。
後の聞き込み調査により、その中の数名は『海底から鎖が擦れるような音が聞こえた』と証言している事が判明する。

日を改め、最新の装備と人員を増やし、再捜索が決行されたが、その日は海は明るく容易に潜れたもののそこに沈没船の姿はどこにもなかった。
だがその代わりに《錆びついた鎖》に繋がれた《マルセルの遺体》だけが静かに座り込むように留まっていた。
彼の身体には古びた鎖が幾重にも巻きつき、潜水装備もすべて外された状態だった。
検死の結果死因は溺死であり、生きたまま装備を海中で外され、鎖で地面に固定されたというのが判明した。

 

その後の海洋生態学者たちによる調査でこの不可解な事件には【ダダリン】が深く関わっていた可能性が高いと指摘された。
ダダリンは古い沈没船や金属片などと融合して生息する極めて特殊な性質を持つポケモンであり、さらに自らが取り込んだ人工物を《身体の一部》として保護し、縄張り意識を示すことが知られている。
もしもマルセルが発見した沈没船が既にダダリンの身体と化していたのだとすれば、彼は無意識のうちにその領域を侵してしまったのかもしれない。

加えて、沈没船そのものが跡形もなく消えていたことについても多くの研究者はダダリンの特殊な生態に由来すると考えている。
本来、移動することのないはずの沈没船がダダリンによって丸ごと持ち去られた、あるいは自身の一部として別の海域へと運ばれたとするのが最も有力であるためだ。
ただし、この事件で目撃されたダダリンのサイズや力は、現在確認されている通常のダダリンの生態からは大きく逸脱しているため真相は未だはっきりしていない。

事件以降、トレジャーハンターの間では『生身で沈没船に近づくなかれ』という暗黙のルールが広まり、同様の事故は一度も起こっていない。
一方、港町の住民たちは今も『穏やかな海底から鎖の音が響く』と語り継ぎ、夢破れたマルセルのことを静かに悼んでいる。

マルセルの遺体は遺族の元へ引き取られ彼が生涯を捧げた海を望む丘の上に埋葬された。
その墓碑には彼が若き日に語っていた《いかなる夢も沈んだままにはしない》という言葉が刻まれている。

――文・【マルク・デュラン】(カロス海洋文化財研究会)


【管理人の感想】

本来なら希望や探求の象徴のはずだったマルセルが夢見た沈没船は既にほかの者が見つけ、所有していた。
そうとは知らずに近づき、最後には彼自身が《沈む存在》となって回収されてしまったというのがどうしようもなく切なくてやるせない。

ダダリンの存在がを誰も直接見ていないが、鎖の音が響き、消えた沈没船の謎にも腑に落ちる答えとしては妥当であると思う。
だが本当にあの場にいたのはダダリンだったのだろうか。
痕跡もなく、沈没船が丸ごと消えるというのが本当にダダリン固有の能力であるといえるのだろうか。
ナニカ別のものがいたという可能性も考えられるが、それはまた沈没船を発見できた時にわかるのかもしれない。

海にはまだ人の知らない世界が広がっており、どんなに知りたくても時には触れてはいけないものもあるんだろうなと思う。
それでも、今後も人は夢を追って、海に潜り続けていく。
いつか《未知》が全てなくなるその日まで。

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