発生日時:2018年
発生場所:カロス地方・ショウヨウシティ
関与ポケモン:オンバーン(1体・トレーナー所有)
関与人物:ルネ・シモン(高校教師/逮捕)
【解決済】耳鳴りの塔
2018年5月、カロス地方ショウヨウシティにある旧塔跡で修学旅行中の高校生24名と教員が深夜に無断で立ち入り不可解な儀式のような行為に巻き込まれていたことが発覚した。
事件の発端となったのは旅の途中でショウヨウシティを訪れていた若いトレーナーが深夜の旧塔に近づいた際に不穏な音を聞き異様な光を目撃したことである。
トレーナーが通報した時点で塔内部には制服姿の生徒24名が座り込むように並べられており、中央では男性教員が腕を広げ上空を旋回する《オンバーン》と共に何かを唱えていた。
そのまま警察が駆けつけるまでトレーナーと教師は戦闘を行っていた為、生徒たちは意識を保ちながらぼんやりとした反応を示していたものの目立った外傷はなく無事に保護された。
その後生徒らは搬送先で目を覚ましたが誰一人として自分たちが塔にいた理由を説明できなかったという。
それはまるで記憶の欠落というよりは《夢から覚めたばかりのような混乱》に近い反応を示していた。
一方、塔の中央で儀式を行っていたとされる教員【ルネ・シモン(45歳)】は即時身柄を拘束され、所有していたオンバーンと引き離されて取り調べを受けた。
オンバーンは高周波音を発して相手の思考に影響を与える特性を持ち、シモンはこの能力を意図的に使用していたことを認めた。
取り調べにおいてシモンは以下のように供述した。
『私はあの子たちがあんな世界に触れる前に……
濁った言葉も、歪んだ視線も、欲望も、屈辱も、全部、全部覚えなくていいと思ったんです。
根付いた不要な記憶はこちらで抜いておいてあげるべきだと思いました。
そうすれば、彼らは汚れずに済むでしょう?
私だけでも信じたかったんです。
子供たちはもっと純粋であっていいんだと。
私達大人の都合で教育され、歪まされ、整えられていく必要なんてないんです。
覚えていてほしくないんですよ、あの夜も、この国も、人間の顔も。
全部、全部、忘れてしまってより純粋に、自由になってほしかったんです。
私は……私が、間違ってたんでしょうか。
いや、そんなはずはない…そんなはずあるわけがないんだ……
子供たちには救済が必要なんだ……』
その夜、オンバーンらしき影が何度も塔とホテル間を往復していたことが目撃証言と監視カメラから明らかとなり、生徒を数人ずつ運んでいたことも発覚した。
現場からはシモンが独自に用意した呪文めいた手書きノートや生徒名が記された紙片、そして薄く細工が施された塔内部の構造図が押収された。
オンバーンは現在保護されたのち専門施設にて行動観察下に置かれているが攻撃性や異常行動は確認されていない。
教師としての責務を持つ立場にありながら生徒に対し心理的操作を行おうとしたシモンの動機は彼自身がかつて受けた教育者としての挫折体験と孤立感に根差しているとみられている。
なお、塔で発見された儀式道具の一部には古代カロス語の模倣らしき彫刻が施されていたが内容に意味のある文法は存在せず、シモン独自の創作である可能性が高いと専門家は指摘している。
事件はその後シモンの起訴と学校側の謝罪、塔の夜間立入禁止措置という形で処理されたが救われた24名の生徒たちが元通りの生活に戻れるかどうかは今も不透明なままである。

――文・【ジャン・メルシエ】(カロス社会調査通信)
【管理人の感想】
この事件の1番の不気味さ全ての準備が整えられていたという点だ。
塔の構造を下調べし、生徒の名前を書き出し、呪文を自作してまで挑んだ一夜限りの舞台。
それは教師という立場にある人間が自分の信じる《救済》を子どもたちに押しつけた、ねじれた信仰のかたちだったように思える。
オンバーンを使用して記憶消去や感情の抹消といったあまりに個人的で主観的な《純化》を目指したのは極めて恐ろしい。
シモンが描いていた《救済》の理想像はある種の崇高さと気味悪さを併せ持つ。
世界の汚さを知る前に全てを忘れさせ、無垢なままでいさせたいという願いは本人にとっては善意のつもりだったのだろう。
だが、純粋さは他人から与えられるものではなく、自ら経験し、痛みの中で育っていくものだ。
それを奪うことはむしろ人間としての根を断ち切ることに等しい。
塔で行われた儀式は未完成で終わった。
それによって生徒たちは物理的には救われたが心に残った空白やあの夜の感覚はもしかするとこれから長く尾を引くのかもしれない。
《思い出せない》という曖昧な違和感こそがもっとも厄介な傷として残るのだとしたら、彼らにとっての《真の救済》とは一体なんだったのか。
今もその問いだけが、耳鳴りのように頭の中で残り続けているように思える。
構事件録
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