【解決済】影の守り神

発生日時:1991年7月
発生場所:シンオウ地方・ズイタウン近郊の森
関与ポケモン:カゲボウズ(1体・野生)


【解決済】影の守り神

1991年7月22日の夏休みに入って間もないある午後、シンオウ地方【ズイタウン】の町外れにある森で幼い兄弟(8歳、5歳)が行方不明になる騒動が起きた。

二人は昼過ぎに『虫を捕まえにいく』と言い残して自宅を出ていったきり、日没を過ぎても戻らなかった。
両親は不安に駆られ自力で町内や近隣を探し回ったが見つからず、18時半ごろになって警察に通報。
すぐに地元消防団や住民有志が動員され夜を徹しての捜索が始まった。

警察等には彼らの行き先の見当はついていた。
町の北側にある《ヌマハラの森》、昼でも薄暗く湿地や古池が点在する原生林に近い雑木林で、地元では《子どもだけで入るには危険な場所》として知られていた。
だが、その静けさや生き物の多さに惹かれて、夏になると探検気分で入り込む子どもは後を絶たなかったという。

懐中電灯を頼りに足元を照らしながら、森の奥へと捜索隊が進んでいった。
数時間ほど探索を続けると、坂を下りた先にある沢のほとりで隊員の一人が泥で汚れたTシャツを見つけた。
それは後に兄の着ていたものと判明し、そのすぐ先の地面に倒れ込んだ少年の姿が見つかったという。

そして、その少年のすぐそばに奇妙な影のようなものがいた。
警察記録によればそれは《カゲボウズ》とみられる野生個体で、兄の体に背後から寄り添い覆いかぶさるような姿勢をとっていた。
警察達へ警戒する様子もなく懐中電灯の光を浴びながらもしばらくその場を動かなかったという。

一方、弟も兄から十数メートル離れた場所で泣いているところを保護された。
興奮して泣きじゃくっていたが目立った外傷はなく、兄とは違い一人で立って歩けるくらいの元気が残っていた。
そのまま少年達はすぐに病院へ搬送され、兄は低体温と脱水による一時的な昏睡状態であることが判明したものの命に別状はなく翌日には自宅へと戻っていった。

 

元々この森では夜間になると《黒い影が滑るように動きナニカの視線を感じる》といった報告が少なからず寄せられていた。
だが、それが特定のポケモンによるものだと確認されたのはこの件が初めてだった。
研究者によればカゲボウズは強い悲しみや執着といった感情に惹かれる傾向があるという。
今回のように弟の不安や兄への想いがカゲボウズを呼び寄せた可能性もあるとする見方もあるが、何故襲うことなく守るように寄り添っていたのかは不明である。

この一件の後ヌマハラの森の入り口には立入禁止看板が新たに設置され町内や学校でも森への注意喚起が行われるようになった。
だが一方でこの事件をキッカケに一部住民たちの間では《カゲボウズ》《森の守り神》として語られるようになっていったという。
危険な森に入った子どもたちを静かに見守っていた存在。
そんなイメージは少しずつ形になり、今では森の入り口近くに小さな石碑と献花台が設けられている。

石碑の横には事件の後、兄弟が描いた一枚の絵が飾られている。
笑顔の二人の兄弟とその背後に丸く揺れる黒い影が寄り添っている温かい絵である。
カゲボウズは今も静かに誰かを守るために森の片隅に佇んでいるのかもしれない。

――文・【マリナ・カナメ】(ズイ地方民俗調査会)


【管理人の感想】

カゲボウズは本来悲しみや強い情念に引き寄せられるとされるポケモンだ。
今回のように恐怖と不安に包まれた子どもたちの感情に導かれて現れたとしても、なぜ《守る》という行動をとったのかは説明がつかない。
それでも実際に兄の背に寄り添っていたというその姿には理屈では測れない意志のようなものを感じてしまう。

この事件のあと森の入口に献花台と兄弟の絵が飾られたという事実に地域の人たちの気持ちが滲んでいる。
カゲボウズというポケモンをただの恐れの対象ではなく、森に宿る《守り神》として受け入れたその姿勢が美しい。
もしかしたらこの森には昔から誰かが迷い込んだときに静かに見守る存在がいたのかもしれない。
それが今回たまたまカゲボウズという形で目に見えただけなのではないかと思う。

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