発生日時:2016年8月
発生場所:カントー地方・セキチクシティ
関与ポケモン:ボーマンダ(1体・野生)
【解決済】嵐纏う憤怒の龍
2016年8月中旬、カントー地方南部の港町《セキチクシティ》では年に一度の国際ヨット大会《セキチク・カップ》で賑わっていた。
市街南東の岬沖を舞台に国内外から集まった数十艇のヨットが色とりどりの帆を張り、夏の陽光を受けて白く輝く波間を滑るように進んでいた。
ヨット以外にも海上には観光客や報道関係者、スポンサーを乗せた大型の観覧船やクルーザーが列を成し、沿岸の岬や防波堤にも多くの人々が集まり、拍手や歓声が途切れることなく響いていた。
潮風は穏やかで湿気も少なく空には一片の雲も見当たらず、ヨットの帆と紺碧の海とのコントラストは絵画のように鮮やかで誰もがこの日が最後まで何事もなく終わると信じて疑わなかった。
しかし午後3時を過ぎた頃、それまで澄み切っていた空に黒く濃い雲の筋が現れ、猛烈な速度で密度を増してきたかと思うと、わずか数分のうちに陽光は完全に遮られ、真昼の海が夕暮れのような暗さに包まれた。
その際吹き付けた突風がヨットの帆をしならせ、甲板上の旗や幕が音を立ててはためき、海面には無数の白波が走り雷鳴が重く響く中、雲間を切り裂く閃光と共に全長8メートルを超える巨大な《ボーマンダ》が姿を現した。
その目は怒りに燃え、双翼が一振りされるたびに観覧船のマストや帆が大きく軋み、鋭い咆哮が湿った空気を震わせて胸の奥まで響き渡った。
しばらくするとボーマンダは咆哮を上げながら海上を旋回したかと思うと急降下と同時に口から《竜の息吹》を吐き出し、青白い衝撃波が観覧船の一隻を正面から打ち抜き船体の一部を大きく抉った。
続けざまに放たれた《破壊光線》が別の船を粉砕し、衝撃で大きく揺れた他の船では転倒した人々が悲鳴を上げながら甲板を転げ回った。
現場は瞬く間に混乱の坩堝と化し、海上警備隊がサイレンを響かせて救助艇を派遣、同時に近隣のレンジャー隊が高速艇と飛行ポケモンを伴って急行した。
レンジャー隊は接近と同時に交戦を余儀なくされ進路を阻むべく上空で迎撃したがボーマンダは圧倒的な機動力と火力を誇り、初動で投入された18体がものの数秒で戦闘不能となった。
その間に観覧船の乗客は救命胴衣を着けて小型ボートや救助艇で避難を開始したが、ある観客が避難のため甲板に姿を見せた瞬間、ボーマンダはその人物を視認するとそれまでとは比べ物にならない程けたたましい咆哮を上げ、同時に一直線に急降下し《虹色に輝く破壊光線》を放って観覧船と救助艇を粉砕し、その際の衝撃で多くの人が海へと投げ出された。
漂流物にしがみつく人々の上を咆哮を上げながら旋回する姿は周囲の船からもハッキリと見え恐怖と緊張が一層高まった。
増援としてセキチクシティジムリーダー、及びサファリパークに訪れていた四天王が駆けつけ、海上と空中の双方から毒技や氷結技を織り交ぜて進路を制限しながら徐々に沖合へと誘導。
その際ボーマンダは幾度も反撃し強烈な衝撃波で海面を割ったが四天王はそれをものともせず粘り強く対応し、午後4時半頃ついに南方の厚い雲の中へ姿を消した。
以降、この個体がセキチク近海に現れた記録はない。
この時の被害は観覧船8隻が大破、複数のヨットが損壊し、負傷者118名を出す大惨事となったが迅速な救助活動により幸いにも死者は出なかった。
大会は即日中止され残り日程はすべてキャンセルされた。
なお、その後の調査で攻撃の理由が判明した際には物議を醸す事となった。
事件直前、一部の観覧船の乗客が海中に生息するラブカスやホエルコに対し《空き缶や食べ物の残骸を投げつける》行為を行っており、その様子を偶然上空から目撃したボーマンダが激昂、標的を定めて攻撃を加えたと見られている。
これらの人物は全員特定され、大会運営委員会と市当局は彼らに対し【今後の大会および関連行事への参加・観戦を永久禁止】とする厳しい処分を下し、被害船舶や負傷者への損害賠償請求も発生した。
高い知能と誇りを持ち、仲間や弱者を守る行動が報告されてきたボーマンダにとってこの行為は看過できぬ侵害だった可能性が高く、今回の襲撃はまさにその性質が顕著に表れた事例と結論付けられた。
今なお港町の人々は晴天から一転して嵐に呑まれ、その闇の中で怒れる巨影が舞った光景を鮮明に覚えており、海を守るために現れたその姿は長く語り継がれている。

――文・【タカハシ・レオ】(カントー海洋災害記録局)
【管理人の感想】
真夏の陽射しを浴びて輝く海と国際大会ならではの華やかな雰囲気。
そこから一転して急速に押し寄せた暗雲と突風がすべてを覆い尽くし、ボーマンダの巨影が稲光の中から姿を現した瞬間の落差は想像するだけで恐ろしい。
救助艇までも破壊された時にそれは単なる威嚇や偶発的な攻撃ではなく確固たる意志がある事をその場にいた全員に知らしめたと言えるだろう。
あれほど整然と進んでいたヨットレースが一瞬で混乱と恐怖の海に変わる様はまさに地獄だったのではないだろうか。
その理由が後に明らかになったとき、驚きと同時に納得もあった。
弱き物に対する心ない行為を見過ごせなかったのだとしたら、あの鋭い眼差しや執拗な攻撃も理解できる。
しかし理解できるからといって現場の恐怖や被害が軽くなるわけではない。
海に投げ出された人々の必死の表情や砕け散った船の破片が波間に漂う光景により目撃者の多くの心に一部の人間にとって些細な悪ふざけであっても、それがどれほど大きな代償を生むのか深く刻まれたはずだ。
構事件録
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