発生日時:1983年8月
発生場所:カロス地方・ヴェルサントシティ
関与ポケモン:ファイアロー(群れ・野生)
【未解決】獄炎に包まれた祭り
1983年8月、カロス地方北東部の《ヴェルサントシティ》では夏の終わりを告げる年中行事《ヴァルロワ・フェット・ドゥテ(夏祭り)》が開かれていた。
会場のヴァルロワ平原は市街地から旧馬車道を辿って徒歩で30分ほどにあり、黄金色に刈られた牧草地の中に仮設のワインスタンドやパン屋、地元農家のチーズや果物を並べた屋外マルシェが並び、中央には舞踏や音楽演奏用の木製ステージと夜空に花を咲かせる打ち上げ台が組まれていた。
例年通りアコーディオンとクラリネットが交互に旋律を奏でながらグラスを傾ける笑い声と焼き栗の甘い香りが風に乗り、女性たちは色鮮やかなスカーフや麦わら帽子を揺らし、子どもたちは紙製のランタンを手に草の上を駆け回っていた。
午後9時半を少し回った頃、突如北の地平から低い唸りのような音が轟いたかと思うと次の瞬間、平原の端に炎柱が立ち上がると同時に防風が吹き荒れ歓声は悲鳴に変わった。
振り返った人々の視界を切り裂いたのは、青と赤い炎を纏いながら輝く《ファイアロー》の群れだった。
その群れはまるで軍用飛行隊のように規則正しい間隔を保ち、縦列から楔形、横一列へと次々に隊形を変えながら異常なまでに低い高度で頭上を通過していった。
常に先頭を飛ぶ一羽は全身が青く輝いており、尾羽からは白い残光を引いて、唯一青白い炎を纏っていた。
その後通り過ぎていったファイアロー達は旋回し、花火台の真上で横一列に広がると隊列を瞬時にV字に変形し超低空飛行でヴァルロワ平原に炎を纏った竜巻を発生させながら通過していった。
その直後ヴァルロワ平原に複数の火柱が立ち上がり、やがてそれらは繋がり高さ数十メートルの《火の壁》となって観客もろとも平原を焼き払った。
炎から逃げようと押し寄せた人波が転倒を引き起こし、川へ続く通路は煙と群衆で塞がれ、逃げ遅れた者達は次々と炎に包まれ声とは思えない絶叫を上げながら次々と倒れていった。
炎はヴェルサントシティからも見えたため市の消防団が出動しポンプ車を午後10時過ぎ頃に平原外縁に配置した。
近くの小川から水を引き放水したが炎は勢いを落とさず、再びファイアローの群れが旋回すると《炎の壁》は高さを増していった。
自体を重く見て通報を受けたポケモンレンジャー隊も駆けつけ、ファイアローとの戦闘が勃発するも戦闘にいた《青いファイアロー》がものの数秒で全12体のポケモンを戦闘不能に陥れた。
その後即座に隊列を変形してレンジャー隊達のいた場所も炎で包まれたことにより即座に全員撤退し、ただ川で呆然と消化活動を見守る以外出来ることがなかった。
午後11時ごろになると《青いファイアロー》が一度だけ鳴き声を発し、そのまま群れは隊列を組んだまま彼方へと消えていった。
消火活動は明け方まで続き、ようやく火がおさまりはじめたのは昼過ぎだった。
平原は灰と焦げ跡に覆われ、花火台の鉄骨は熱でねじれ、地面には大量の《炭化した犠牲者》が転がっており、現場は凄惨を極めたという。
事件直後の合同調査団は複数の羽根片を回収し、《青いファイアロー》以外は全て通常のファイアローと断定。
不思議と青い羽は一枚も見つからず特異な個体の物的証拠は得られなかったが多くの証言がその存在を裏付けた。
なぜファイアローが群れをなして平原を焼き払ったのかは判明しなかったが、以降、ヴェルサントシティはヴァルロワ平原での大規模催しを無期限に停止した。
焼け焦げた中央舞台や仮設スタンドは全て撤去され、北丘に簡素な石標が設置された。
そして代わりにヴェルサントシティでは夏季に消防とレンジャー隊による避難導線訓練が恒例行事となった。
あの夜以降同様の群れによる飛行は確認されておらず、青い翼の個体も記録に現れることはなかった。

――文・【レミ・シャルボニエ】(カロス異常災害記録局)
【管理人の考察】
襲撃の動機
なぜファイアローの群れが人々を狙ったのかは依然として不明だが、当日の状況を考えると単なる偶発的な飛行ではなかった可能性が高い。
ヴァルロワ平原は視界が開け、夜間でも花火や照明で強く照らされていたため通常であれば野生個体が避けそうな環境である。
それにも関わらず高度を落としてまで進入し、結果的に群衆を炎で囲い込んでいるのは偶然や混乱によるものではなく、何らかの意図的行動であったと考えられる。
過去の被害や生息域争いなど、人間との間に何らかの火種が存在していた可能性は拭えない。
完璧で素早い編隊
目撃証言によれば隊列は極めて整然としており素早く変形も滑らかだったという。
だが野生の飛行ポケモンが数十羽規模でこの精度の編隊飛行を行う事例は極めて珍しい事だと言える。
むしろ軍用や儀礼飛行のような連携は長期間の訓練を経た個体群でなければ実現しにくい。
つまり、かつてトレーナーや組織の管理下にあり、何らかの理由で野生化した群れだった可能性もあるのではないだろうか。
もし人為的な背景があるなら指揮系統や行動パターンの名残が今も生きていたのかもしれない。
人の関与の可能性
先頭の《青いファイアロー》が常に合図を送り、全体が同時に動く様子からもしかしたら《青いファイアロー》だけがかつて人と関わっていた可能性も浮かび上がる。
だがこれがもし今もトレーナー所有の個体で、人の意志に基づく指示だったとしたら、その人物は高度な群れ制御の技術を持ち、尚且つ大量殺人を行う強い意志があったと言える。
その者の狙いが怨恨であるのか、あるいは全く別の目的かは不明だが、攻撃のタイミングと花火の進行がほぼ重なっているのは偶然とは言い切れない。
都市の祝祭を狙い撃ちにしたのであれば人による計画であった可能性を疑わざるを得ない。
青い個体の謎
証言の多くが一致しているにもかかわらず、《青いファイアロー》の物的証拠は得られていない。
突然変異や地域的な亜種である可能性もあるが、青い炎を纏いながら尾羽から白い残光を引くという特徴は既知の個体群では一切報告がない。
特別な訓練や科学的進化、改造を受けた結果であるとも考えられる。
羽根が残されなかった点も不可解で、他の個体と異なる生態的特徴を持っていたか《ナニカ》が回収したのかもしれない。
消えた群れの行方
事件後、同様の編隊飛行は一度も目撃されていない。
数十羽規模の群れが長距離を移動すれば必ず痕跡や通報が残るはずだがそれも皆無である。
海を越えて別地域へ移動したのか、もしくは山岳や未踏の谷間など外部から観測しにくい場所で暮らしているのだろうか。
《青いファイアロー》を含め彼らが今も生きているのか、それとも事件後に何らかの形で姿を消したのかは未だ確証が得られていない。
構事件録
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