発生日時:1994年5月
発生場所:カロス地方・ベルシー礼拝堂
関与ポケモン:メレシー(1体・野生)
関与人物:ロジェ・バルモン(神父)
【解決済】聖なる結晶
1994年5月、カロス地方中部の山間に佇むベルシー礼拝堂にて通常は鳴るはずのない古びた鐘が数日間にわたり不規則に響き続けるという不可解な現象が報告された。
この鐘は老朽化により20年前から使用を停止しており、教区の誰もがその存在を忘れかけていたもので、建物の構造上風や振動によって鳴ることはまず考えにくかった。
事態を重く見た周辺住民の信者たちは礼拝堂に赴いて内部の調査を行ったが、足を踏み入れた数名が誰一人として戻らず、住民の通報を受けた警察によって礼拝堂は一時封鎖される事となった。
警察による現地捜索の結果、礼拝堂の中央祭壇の裏に半ば崩れかけた階段が隠されており、そこから地下へと続く隠し部屋の存在が明らかになった。
地下空間はおよそ100平米ほどの石室で天井は高く、内部は冷たく澱んだ空気に満ちていた。
中央には半球状の祭壇が設けられ、その周囲を囲むように《ピンク色の結晶に包まれた石像》が数十体配置されていた。
それらは人間が両手を広げながら《ナニカ》に祈りを捧げるような姿勢で表面は光沢を帯びた鉱物のような硬質物質で覆われていた。
さらに、部屋の最奥では礼拝堂の神父である【ロジェ・バルモン] が聖衣をまとったまま座しており、警察の呼びかけにも無言を貫いた。
突入した特殊部隊との間で一時的な小競り合いが生じ、神父は抵抗したが最終的には制圧され拘束された。
祭壇中央には直径1.5メートルの強化ガラス製と見られるケースが設置されており、その内部には野生の《メレシー》が複雑な金属製の拘束具で固定されていた。
メレシーは弱々しくも断続的に振動波を発しており、周囲に微細な光の粒を漂わせていた。
後の学術機関の分析によればメレシーが発っしていた微振動は空間内の鉱物結合に干渉する性質を持ち、特定の条件下においては有機物をも鉱化する可能性があるという結論に至った。
現場にあった石像を解析したところ内部には《人骨》があることが判明し即座に解体し取り出すと頭蓋骨や四肢の一部が完全に結晶化した人骨が発見された。
また、現場付近の壁面には古代カロス語による祈祷文らしきものが刻まれており、後の調査によりそこには【聖なる沈黙のうちに、神の一雫を捧げよ】という言葉が刻まれていた事が判明した。
ロジェ・バルモン神父は取り調べにおいて一貫して罪の意識を示さず以下のように語った。
『彼らはこの世の苦しみから解き放たれ、安らかな光に包まれたのです。
これは選ばれし者たちへの救済であり、メレシーはその媒介者にすぎません。』
調査によれば彼は長年にわたり孤児や信者の中から選別した人間を【供物】として地下空間に誘導し、メレシーの能力を用いてその肉体を【聖なる結晶】に変換する儀式を繰り返していた事が判明した。
この行為がいつ始まったかは不明だが、遡れば1970年代には街で失踪者が増加していたことが警察記録にも残されている。
メレシーは事件後ただちに学術保護機関に引き渡され専用の隔離施設にて厳重な管理下で保護された。
現在は安定した環境の中で外部との干渉もなく、事件当時のような異常な振動波は一切観測されていない。
調査チームはこの現象が拘束環境や神父の行動と関連していた可能性を指摘している。
ベルシー礼拝堂は事件後に完全閉鎖されたが内部の解体作業は見送られたままとなっている。

――文・【ルネ・ジロドー】(カロス異常事件取材班)
【管理人の感想】
誰にも知られないまま20年近くも地下で続けられていた儀式は宗教的な神聖さ以上に狂気を感じた。
結晶化された全ての石像が《祈り》の姿勢だったというのも、拘束され道具として扱われ続けたメレシーの存在もいずれも一切の慈悲を感じられなかった。
《神の一雫を捧げよ》という祈祷文も意味がわからなかったが、ロジェ・バルモン神父はそこで人間の尊厳を手放すほどの《ナニカ》を感じたのかもしれない。
メレシーが放っていた微細な振動が《有機物を鉱化する》という分析結果も衝撃的だったが、それよりも気になるのは事件後には一切そのような異常が確認されなかったという点である。
つまり、メレシー自体は本来そのような性質を持つ生き物ではなく、あの儀式の環境下でのみ作用していたという可能性が高いのではないだろうか。
すなわち、この《聖なる結晶》はロジェ・バルモン神父が実施する遥か前から別の方法で行われていた可能性が非常に高いと言える。
閉鎖されたままのベルシー礼拝堂も全てを取り壊してしまえば済む話ではないのかもしれない。
だが、あの空間が物理的に残されていることによって儀式の痕跡が今なお息を潜めているようにも思えてならない。
構事件録
2 この記事が気に入ったら「いいね!」してね

コメントを残す