発生日時:2011年6月2日
発生場所:ホウエン地方・キナギ湾岸
関与ポケモン:ラグラージ(野生)
【解決済】蒼き手の守り神
ホウエン地方南東部【キナギ湾】の最も奥まった入江には古くからこんな言い伝えがある。
『海の底に《蒼き手》あり。
求めし者にその手は差し伸べられる。
魅入られし者は代償を支払うこととなる。』
キナギ湾では漁に出たきり戻らない者がいた時、その者の道具だけが桟橋に戻る事がある。
村の者たちはいつからかこれを《蒼き手》が届けてくれたのだと語るようになった。
しかしその手が《何を連れていき、何を残すのか》は人間には決して選べないとも言われていた。
半ば迷信とされながらも、子供たちには『湾の奥には近づくな』と教えられ、大人たちも時折海へ木の実や花を流して静かに祈りを捧げていたという。
そして2011年のある事故によって、この言い伝えはただの伝承ではないことが証明されることとなった。
事件が発生したのは、2011年6月2日の夜だった。
台風が遠くを通過し、海は穏やかなようでいて予期せぬうねりを含んでいた。
釣りに出た地元の男性(58歳)が湾内で一人、転覆事故に巻き込まれた。
救難信号は間に合わず、翌朝発見されたのは空になった船体だけで男性の姿はどこにもなかった。
地元の漁師や警察、救助隊が海と陸を探し、海流や風の流れを計算して網を張ったが、数日経っても発見には至らなかった。
しかし転覆から3日後の早朝、村の若者が湾の奥にある《沈み岩》と呼ばれる岩陰で奇妙な光景を目撃した。
沈み岩の窪み周辺には岩が円形に積み上げられており、その中心には《帽子、靴、スマホなど彼の所有物》が置かれていた。
若者が近づこうとした時、水中にナニカ大きな影が見えたため驚き、身を隠して様子を見ることとなった。
すると、ゆっくり水面に1体の巨大なポケモン…【ラグラージ】が現れた。
ラグラージの手には靴と釣具があり、それを沈み岩の窪みにそっと置くと、その場でジッと見つめていたという。
しばらくすると、辺りを見渡す事もなく静かにまた海中へ潜っていった為、若者は警察に事の経緯を伝え、到着までその場で待っていた。
目撃されたラグラージは、明らかに年を重ねた個体だった。
体躯は異常なまでに大きく、優に4メートルは超えていたという。
また、尾の一部は欠けており、顔や背中には無数の傷跡があった。
それでも動きは驚くほど穏やかで、人の目を避けるでもなく、波間に溶けていった。
その後、捜索範囲が改めて絞られ、道具が届けられた地点からほど近い海底にて男性の遺体が発見された。
遺体は積み上げられた岩の中におり、それはまるで棺桶のようであったという。
この一連の出来事に地元の漁師たちはこう語る。
『あの方は昔からこの海にいる《守り神》だ。
あの方は暗い海の底からいつも私達を見ている。
誰が来て、何を落としたかを、決して忘れない。
今回も《返せるものだけ》を集めていたんだ。
そして全て集め終わった時…
きっとまたいつものように桟橋に並べられていたと思う。』
地元民の話しを聞く限り、ラグラージがキナギ湾で目撃されたのはこれが初めてではなかったようだ。
百年以上前から《巨大な青い影を見た》といった漁師たちの証言がいくつも残っている。
それらは長らく《守り神の子孫》であると考えられていたが、この事件を機に《同一個体》である可能性が浮上した。
その後、地元自治体と村の協力により湾の一角に《感謝の記念碑》が建てられた。
そして村人たちは岩陰の前に花と木の実を供え感謝を伝えるという。
この出来事は、悲劇の記憶とともに優しさの記録として語り継がれている。
それは、自然の中に生きるポケモンが人間を見守ってくれている、ささやかな、けれど確かな愛だった。

――文・【ヨツバ・サキ】(ホウエン地方文化誌記者)
【管理人の感想】
この事件を読んで、最初に胸をつかれたのは《返せるものだけを集めていたんだ》という言葉だった。
《海に魅入られ》失われた命は戻らない。
それでもラグラージは、きっとそれを知っていたうえで、残された者たちのために【返せるもの】を一つ一つ、丁寧に届けようとしていたのだと思う。
それは誰に命じられたでもない、ただただ《そうあるべきだ》と長い時の中で彼が心の底から信じていた行動だったのではないだろうか。
私たちはよくポケモンの知性や能力の話をするけれど、このラグラージの行動にはそうした言葉では語りきれない【想い】を感じた。
海底に沈み、時には遠くへ流されたモノを一つ一つ集めて丁寧に届けてくれるその姿はまるで《海に消えた記憶》そのものが形になったかのようだ。
また、特に印象に残ったのは積み上げられた岩の中に静かに横たわっていた男性の姿。
そこから感じるものは恐怖ではなく、確かなあたたかさだった。
それはまるでラグラージがその人の魂を《見送る場所》を作っていたようにさえ思えた。
村の人々が今でも木の実や花を手向けているという話には深く心を打たれた。
そこには【人とポケモンが共にある世界】がちゃんと息づいている。
人々の《信頼と敬意》がラグラージの姿に重なって見えた。
もし、私の失くしたものがいつかどこかで誰かに拾われるのなら、私も同じように深い感謝の気持ちを伝えたいと思う。
構事件録
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