【解決済】毒と祝杯

発生日時:2011年6月
発生場所:カントー地方・クチバシティ
関与ポケモン:マタドガス(1体・トレーナー所有)
関与人物:カワセ・ヨウイチ(プログラマー/逮捕)


【解決済】毒と祝杯

2011年6月、カントー地方【クチバシティ】のIT系企業で行われたささやかな誕生日パーティが一転して悲劇の現場へと変わった。
その日、部長職に就いていた男性の誕生日を祝うためオフィスの会議室にて部署メンバー13名が集まりケーキと軽食を囲んで歓談していた。
だが乾杯の数分後に全員が次々と激しい咳や目眩、吐き気を訴え次第に意識を失っていった。

騒ぎを聞きつけた隣の部署の社員が異変に気づき救急要請を行った。
救急隊が駆けつけた時には会議室内は異様な匂いと白濁したガスで満たされ13名全員が意識不明の状態で倒れていた。
そのうち1名、パーティの主役だった部長は搬送先の病院で死亡が確認され、他12名は命は取り留めたものの重度の呼吸器障害や視覚障害などが一時的に見られた。

事件直後、現場検証が行われると会議室内には強烈な《毒ガス》が充満しており、飲み物や食べ物にも同様の成分の毒素が浸透していることが判明。
成分分析を行ったところそれらは《マタドガス》の体内から生成される有毒ガスと一致したことで事故ではなく計画的な犯罪であることが確定した。

警察は社員の交友関係や所持ポケモンを洗い直すとほどなくして【カワセ・ヨウイチ(34歳)】を容疑者として特定。
彼は企業のシステム開発を担当するプログラマーで7年間その会社に勤務していたが当初から勤務態度やコミュニケーションの問題を理由にたびたび部長から皆の前で厳しく叱責されていた。
同僚の証言によれば部長は《教育熱心》であり様々な社員、特にカワセへ過度な指導や叱責を日々繰り返しており《パワハラ》を行っていたという。
カワセは毎日SNSや個人ブログにいかに職場が地獄であり、自分が《生きる価値のない存在》であるかなどといった投稿を行っていたことが捜査で明らかになった。

その投稿を見ていた一部の友人が『そんな上司は殺しても問題ない』という過激な思想を繰り返し伝えていた事も確認され、カワセが徐々に自己嫌悪から怒りへと感情が変わっていく様が綴られていた。
カワセは相棒のマタドガスを使ってより高濃度で殺傷力の高いガスを放出させる訓練を長期間かけて独自に行った。
そして当日、部屋の空調のプログラムを書き換え、そこにマタドガスを待機させる事に成功。
誕生日会に集まったのはパワハラを受けていない部長派閥の者達のみであったためカワセは全員が談笑しているのを確認するや否や遠隔でマタドガスに指示をだし、室内に高濃度の猛毒を充満させていった。

取調べではカワセは涙を浮かべながら『全てが終わったら自分も自宅で死ぬつもりだった』と語り、自暴自棄になっていたことが強調されたが計画性や事前準備の痕跡は明らかであったため殺人罪および殺人未遂罪で逮捕・起訴された。

 

事件後社会には大きな衝撃が広がり《パワハラ、復讐、ポケモンを使った犯罪》という3つの要素が絡み合ったことで労働環境改善の機運が一気に高まり、事件後しばらくはカントー各地で労働相談窓口の開設や職場ハラスメント対策の法改正など関連した動きが相次いだ。
一方でポケモンを意図的に利用した犯行という点からポケモンと人間の共生関係における責任と倫理の在り方についても議論が巻き起こった。

事件に使用されたマタドガスカワセの逮捕後に即座に押収・保護され専門のポケモンケア施設で数年間にわたる観察と健康管理が行われた。
結論としてマタドガスカワセの命令に忠実に従っていただけであり攻撃性もなく指示がなければ通常の毒ガスしか噴出しなかったため最終的にはカントー地方のとある家族に引き取られ現在も穏やかに暮らしているという。

――文・【ナギサ・ヴァレリア】(カントー労働環境史研究所)


【管理人の感想】

誰もが普通に迎えるはずだった平和な誕生日が1つの歪みから一瞬で崩壊してしまうのがなんとも恐ろしい。
だがこの悲劇は突然起こったものではなく、日々積み重ねられた不満や絶望の果てに生まれたものだったことが何より救いがないように感じられる。

カワセという人物は間違いなく罪を犯した加害者であるがカワセが長年パワハラを受けていた事を考えると本当の加害者はいったい誰なのだろうかと考えさせられる。
彼が繰り返しネット上に吐き出していた苦しみを本当の意味で寄り添える人が耳を傾けていたらきっとこんな事にはならなかったのではないだろうか。
あるいは彼の上司や同僚が少しでも彼のことを思いやれていれば未来は全く別のものになっていたと思われる。
パワハラを回避するために焦り、ミスをし、結局同じことが繰り返されるというのはまさに終わりのない地獄そのものである。

マタドガスがその後別の家族に引き取られ平和に暮らしているというのがこの事件における唯一の救いなのかもしれない。

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